異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ

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第二部・二章 誇り高き竜

第八話

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「それで、具体的にはどういった方針でいくつもりなの?」
「まずは禁書目録の撤廃と自主性の徴兵令、現在我々が置かれている状況を人界全土へ通達。次に街や村に滞在している衛士隊を一度中都統制教会に収集し、騎士の指導の元に剣術・魔術を研鑽してもらいます。集まった民にも同じような処置を施しても構いません」
 だが今の説明だけでは、とてもじゃないが魔界の侵攻を退けるのは到底不可能だ。近年、一年か二年の間に、一般市民を立派な軍隊に仕上げるのはあまりにも時間が足りなすぎる。
 もっと早く禁書目録を撤廃していれば解らなかったが、やはりこのままではいかんせん心許ない。
 かと言って、また慈愛の心を持つ者から過去と人格を奪い、天界なる架空世界の騎士に仕立て上げるつもりなど一切ない。そんな方法を許してしまっては、人界に未来はない。
 しかし、認めたくはないが創世神の取っていた騎士の召喚は現時点で最も有効となる手段でもある。少なくとも、短期間での戦力増強を望めるし、個の強さが尋常じゃないほどに高いため、一人増えるだけで戦況は大きく傾くだろう。
 逆もまた然り、一人減れば既に劣っている我々の戦力が更に落ちてしまう。
 騎士の数は現在は二十一人。全員が化け物じみた実力を持つとは限らない。戦力として貴重な彼等を、いつ戦場へ投入するタイミングかでさえ、戦況を揺るがしかねない。交代制で戦闘させるか、一気に敵中核まで突撃させ、可能な限り敵戦力を削ってもらうか。
 騎士が駆る飛竜も戦力として役に立つだろう。多くの飛竜は炎素を口に宿し、火炎放射器のような息吹を吐き出すことが出来る。それ以外にも鋭利な鉤爪や長い尾などで敵を薙ぎ倒すことが可能なため、飛竜単機でもかなりの戦力ではある。
 中都統制教会が押収している武器や霊薬も全て戦場に投入すれば、長時間の戦闘が望めるだろう。戦闘に参加しない者も中都統制教会に避難させることが出来るし、街に人がいなくなれば皆心置きなく戦うことが出来る。 

 考えなければならない問題が多すぎる。避難誘導に物資の受け渡し、戦力強化のためにするべきことなど、元の高校生活で自分が何もしていなかったことを痛感させるほど多忙になった気がする。
 優先順位をつけていけば、まず戦力増強、次に戦力の強化。最後に戦闘準備のための作業。大まかに分けて三つの作業がある。
 最初にやるべき問題は、やはり戦力の増強。これ無くして次のステップには踏み込むことも出来ない、かなり重要な議題だ。
 守護隊や衛士隊はそれなりの戦闘訓練を積んでいるから、一般民よりかは戦える。学園にいる生徒や講師たちも協力してくれれば頼れる戦力になる。獣人族の持つ身体能力の高さは人界軍に於いて必要不可欠であるし、アースリアの魔術師達は援護要員として絶対に取り入れたい。
 改めて考えれば、人界にもかなりの戦力となる人材が揃っている。その気になれば、ザルザードや暗黒騎士を倒せる可能性がある者がいくつも産まれそうなほどに。
 だが、それでも人族と獣人族。限界はあるに決まっている。数でも圧倒的に劣っている人界軍が魔界軍と長期戦を強いられてしまえば敗北してしまう。
 やはり、人族や獣人族以外にも強力な味方が必要だ。簡単にはやられず、かなりの戦力として人界軍に貢献してくれるような生物。

 当然、そんな生物に心当たりなどない。人界は長い間自然破壊などがなかったため、動物達も食料に困ることもなく特に進化の過程を辿らなかった。本来ならば環境に適応するために必要な進化であるが、既に平和で危険のない自然に身を置けば不要な力は自然と抜け落ちる。
 凶暴な生物など全く存在しない人界に於いて、最も恐ろしい生物は魔獣しか思いつかない。魔獣を戦力に使おうと一瞬考えたが、理性を失った獣が素直に従うとは思えないため却下した。
「創世神様。人界内で強い生き物っていないんですか?」
 まるで子供のような質問に、創世神はしばし黙り込んでから、思い出したかのように言った。
「いますよ。とても頼りになって、強い生き物が」
「本当ですか!?」
 確認などする必要はない。人界の全てを知っている創世神が言っているのだから。
「でも、それを知ってどうするの?」
「当然、人界軍の戦力として活用するんです」
 胸を張りながら自慢気に答えると、創世神はキョトンとしていた。呆気に取られているのか、何かを言おうともせずに、ただ黙っている。
 一度わざとらしい咳払いをすると、創世神はまず俺の意見を否定から入った。
「無理です。確かに、あれらが味方になればかなりありがたいです。しかし、相手は自然に生きる生き物、人間の勝手な都合に付き合うような存在ではありません」
「それは……そうですけど」
「過去の大戦では人界に協力してはくれましたが、あれは自分の領域に入ってきたから攻撃を始めたんです。決して民のためではなく、自分のために戦っていたんです」
 容赦なく告げられる真実に、俺は戸惑った。
 だが良く考えれば解ることではある。大戦時に活躍したとされる炎熱竜・戴天は、自然が産んだ竜であり、一つの生命を持つ誇り高い生き物だ。当然、自分専用の領域に無断で立ち入るモノが入れば、なんであろうと排除するだろう。
 それが偶々魔界の民だったから、大戦時は戦況が好転していたが、もし誤って人界軍が立ち入っていたと思うと……
 悍ましい想像を中断し、俺はなおも自らの意見を貫き通すかの如く意見した。
「あなたの言う通りだとしても、試さずに諦めるのは得策ではありません。今の人界は戦力が絶望的に足りないんです。試せる手は片っ端から試さなければ、生き残ることなんて夢物語ですよ」
 今度は効いたのか、創世神は押し黙った。好機と踏んだカズヤは、なおも畳みかけた。
「一刻の猶予もない現状に於いて、人族や獣人族だけの部隊で魔界軍を退けるのは、はっきり言って不可能です。まだほんの少しだけ時間の猶予がある内に、人界を守護する四体の竜の元に赴き味方につけるべきだと、自分は思います」
 自分の意見を全て吐き出し終えると、肩の荷が降りたのか一気に身軽になった。
 創世神は長時間唸りながら考えを巡らせ、やがて深いため息と共に承諾してくれた。
「……やっぱり、カズヤ君は自分の意見をどこまでも貫き通す意志があるわね」
「あなた自身が見込んだ力なんですから、当たり前ですよ」
 減らず口を叩くと、まるで悪戯する子供に向けるような笑みを刻みながら言った。
「あなたの言う通り、今の人界には戦力が圧倒的に不足している。その原因の発端でもある私が迷ってちゃいけないわよね」
「……別に、そこまでは言ってません」
「解った。ならまずは四聖護竜の元に騎士を向かわせます。四聖護竜との接触は戦闘を意味するから、かなり腕に自信がある騎士じゃないと返り討ちにあってしまうから、今送ることが出来る最強の騎士を向かわせるわ」
「最強の騎士……」
 自分の中で一番強い騎士は、カムイと言う名の騎士しかいない。カムイが何番目に召喚された騎士かは知らないが、その上は必ず存在する。あれだけの強者よりも更に上がいると思うと、気が遠くなりそうだ。
 ──どうか、セレナは選ばれませんように。
 私情を挟むような黙祷をしながら、俺は創世神に再び意見した。
「創世神様。俺も騎士と同行します」
 流石に予想外の発言だったのか、創世神は両眼を見開いてから、「えっ?」と声を漏らした。一度咳払いをすると、長いため息を吐いてから、どこか納得したように落ち着いて様子で言った。
「……解りました。ではあなたは、騎士カムイの同行を許可します」
 まさかカムイさんと一緒になるなんて。それだけでかなり嬉しい。
 一人喜んでいると、創世神は突然真剣な表情に切り替わり、俺と面と向かって淡々と告げた。
「あなたは一応、禁書目録を違反した罪人です。後に撤廃されるとは言え、法を破った重罪人であるあなたには、罰を与えなければいけません」
「……!?」
 そうだ。長話で完全に忘れていたが、俺は既に殺人犯に成り下がっている。一つの罰なく同行を許可されるわけがないことに、なぜ今まで気づかなかったのか、不思議でならない。
「あなたの罰、それは現時点では保留とします」
「え、保留?」
 間抜けな声でそう言うと、創世神は続けて言った。
「今はあなたに審問に時間を割くわけにはいきません。一秒でも多く人界に貢献しなければならない以上、現時点での判決は保留とします」
「そ、そうですか……」
 安堵の息を漏らしながら、強張った肩を撫で下ろす。
 その時俺は、自分がなぜ安堵したのか疑問に思った。
 既に俺は、一人の人間を殺している。罰を受けて当然の身でありながら、保留と聞いてなぜ安心しているんだ。
 罪を得た者には相応の罰を受けるべき世界で、罰を受けずに済むことに安堵するなんて、自分勝手にも程がある。自分だけ甘えるなんて許されるわけがないのに、俺は安堵してしまった。その真実だけは、どうしても許せなかった。
「とにかく、カズヤ君も今は人界のために戦ってください」
「……分かってます」
 そうだ。罰を受けないのであれば、せめて少しでも多くの命を救おう。一つの命を奪ってしまった償いは、何万もの命を救うことで償ってみせる。
「ではカズヤ君には、明日の朝九時の鐘と供に、騎士カムイの飛竜に跨り、炎熱竜・戴天が生息する北の山《爆煙竜火山》へ向かってもらいます」

 爆煙竜火山、通称北の山と呼ばれる場所は、人界内で一番過酷とされる自然地帯とされている。
 その名の通り、常に山が噴火しており煙を上げており、大気中の温度が高温で保たれている。鎧などを纏っていこうものなら、三十分で脱水症状を起こし倒れてしまう。
 過酷な自然環境なだけに、そこには生物は一匹も生息していない。水分が一瞬で蒸発してしまい、常に高熱の溶岩が流れ込む大地に生きていける生物など、一種類しか存在しない。
 その一種類こそ、人界の守護竜として数えられている、炎熱竜・戴天。
 戴天の全身を覆う鱗には耐熱性が備わっており、高温に保たれている空気の中でも一つの火傷を負わずに済んでいる。溶岩に浸食された大地だろうが関係無く地に足を止めているほどに、高性能な耐熱が備わっている。
 爆煙竜火山は一般人は当然、騎士ですら容易に立ち入らない。
 それも当然だ。爆煙竜火山に生息しているのは戴天のみ。つまり、事実上の支配者でもある爆煙竜火山に一歩でも立ち入ろうものなら、一瞬で戴天の息吹で消し炭にされてしまう。

 それほど恐ろしい場所に、俺は明日向かう。無論、騎士の同行で。
「……ようやく、実物が見れるんだな」
 窓に手を当てながら、中都の夜を一望する。暗い街の中には、夜空の星のようにチラチラと輝きが見える。
 ──この街に住む人は……いや、人界で暮らす人々は、現在自分たちが置かれている状況を知らないから呑気に笑っていられるのかな?
 広場と思しき空間を眺めながら、考えた。
 近い将来、人界にもう一度災いが訪れる。過去の大戦をも超えるほどの大戦が。昔と違う魔界軍が攻めてくると知った時、一体人界内はどれほどの混乱が起きるのだろうか。
 長い間信じていた禁書目録が何の前触れもなく撤廃され、自主性の徴兵令が通達された時、どれだけの人が剣を取ってくれるのだろうか。
 深い物思いになる前に頭から思考を振り払い、窓から離れてベッドに前倒れする。
 ここは創世神に貸し与えられた部屋であり、巨大なベッドと木製の椅子と机、人界内の歴史文書が置かれた本棚が置かれている。
 天井が分厚い硝子が張られており、人界で一番高い場所から夜空を眺めることが出来るが、今はとても星空鑑賞する気分にはなれずに、枕に顔を埋めた。
 一日を振り返れば、本当に情報量と激闘の多い一日だ。監獄から脱獄したと思えば偶然遭遇した騎士キクノと戦い、一時的な共闘関係を築きデーモン部隊副隊長のザルザードと死闘を繰り広げた。
 その戦いで死亡する恐れがあった騎士キクノを治療するために創世神が姿を現し、世界の真実を告げてきた。
 一人の高校生じゃ抱えきれないほどの情報と戦闘の連続に、既に精神と肉体は限界を迎えている。
 今すぐ両瞼を下ろし深い眠りにつきたいが、この後創世神が手料理を振る舞ってくれるらしいので、眠ることが出来ない。流石に人界で一番偉い方の手料理を断るのは、禁書目録を違反するよりも重罪だ。
 ちなみに先程、創世神にここはどこなのか、祭壇で眠っているはずのあなたが普通に暮らしているのかと尋ねた。
 ここは中都統制教会の最上階《神の庭園》と呼ばれている、いわゆる創世神専用の部屋だ。本来は創世神と使いである少女しか居らず、騎士ですら報告以外の目的で部屋に来ることも入ることもない。
 つまり、部屋を貸し与えられた男は俺が初めてということになる。おまけに風呂も入っているときた。
 今更ながら、俺は本当に人界内で一位の強運の持ち主と言ってもいい。騎士と何度も出会い、飛竜にも四回跨り──うち一つは吊るされている、騎士と共闘してでの魔界の民の討伐、そして最後に創世神専用の部屋で一夜を過ごす。
「……シスター・マムが聞いたら失神するだろうな」
 コドールの村でのシスターにして恩師の一人である彼女に、創世神の部屋で一夜を過ごしたと聞けば、絶対に倒れる。とゆうか、人界内にいる民全員が騒ぐ大事になりかねない。
 そして俺は、嫌なことを思い出してしまった。
「…………セレナ」
 騎士となってしまったセレナ。コドールの村での彼女は既に存在せず、今のセレナは俺の知らない全くの別人。その真実だけは、自分の中で消化しきれていない。
 異世界で始めて出来た友達であり、生きる術を伝授してくれた彼女は、もうどこにもいない。もうあの子の笑顔を見ることは、一緒に笑うことが出来ないと思うと、胸からこみ上げてくるものがある。
 こみ上げてきたものを止めようとせず、両眼から溢れかえった。溢れたそれは両頬をつたい、枕に染み込む。そのまま、嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。
 ──いっそ。
 俺も全ての記憶を無くして、セレナと同じ道を進むべきじゃないのか。
 ユリを失い、全てを失った俺にとって、セレナだけが最後の希望だった。その希望ですら奪われてしまっては、俺は……俺は。
 こんな辛くて苦しい思いをするぐらいならば、俺もセレナと同じで過去の記憶と人格を無くし、人界のために戦う騎士になりたい。
 でもそれは出来ない。戦いたくない者を無理矢理騎士に仕立て上げるような卑劣な行いを、そんな方法で生まれた騎士を、これ以上増やすわけにはいかない。
 俺が今考えていたことは、結局のところ現実逃避だ。希望を失ったからと言って、背負った罪を記憶と共に抹消し、辛い現実から目を背けようとしているだけだ。
 自分の中にある迷いや恐れを無理矢理押し退けると、部屋の扉から軽いノックの音が三回聞こえた。扉の向こうからは、可憐な声が聞こえてきた。
「カズヤ君。ご飯が出来たので、一緒に食べましょう」
「分かりました。すぐ行きます」
 現実逃避に走ろうとしていた俺は、その瞬間だけ全てを忘れてしまい、人間の純粋な欲求である食欲に身を委ねた。まるで自分の中にある迷いから目を逸らし、逃げるように。
 
「それではカズヤ君。また明日」
 食事を終えた創世神は、皿を机に残したまま椅子から立ち上がり、自室へと戻っていった。創世神が姿を消すと、今度は使いである少女が現れ、空となった皿を次々と回収していく。
「……あなたは、怖くないんですか?」
 不意に俺は、少女に尋ねた。少女は一度手を止めると、顔だけをこちらに向け、無機質な一言を放った。
「何がですか?」
「その、魔界軍の進撃が……です」
「……怖くないといえば嘘になりますが、考えたことがありません」
「考えたことがないだって?」
 マジか。いや、普通の一般人ならそう考えるのもおかしくない。俺だって実際、創世神に現状を知らされるまで、魔界がもう一度進軍してくることなんて考えたことはない。
 だって考える必要がないんだから。人界には《分断の壁》も《天界の騎士》がある。それらの絶対的な要因が存在するが故に、人々は安心して暮らしている。
 そう考えれば、創世神が現状を公にしていないのも納得がいく。人々の幸せを壊すような真似を、支配者たる神がするわけがない。
 しかし、その平穏も時期に終わる。禁書目録の撤廃と同時に、来たるべく大戦のために、男は守るべき者を守るために剣を取り魔界軍と戦うために己を切磋琢磨と磨くだろう。
 人界を愛するのは、創世神だけではない。この世界に住む多くの人々が、この幸せに満ちた世界を守りたいと願っているはず。
 禁書目録撤廃後の世界についても考えなければいけないが、きっと大丈夫だろう。来たるべき大戦を乗り越えれば、きっと人界内で、ユーグのような卑劣な事件が起きないほどに、他者を尊重し尊敬する精神を身につけているだろう。
 そうなれば、ユリと約束した『誰もが未来を自由に選べる世界』が実現できる。そうなれば俺は、心置きなく罰を受けることが出来る。
 既に殺人鬼である自分が望むことは、たったそれだけだ。ユリとの約束を果たすことさえ出来れば、俺は死んでも構わない。
 だが多分、創世神は俺を殺さない。一応こちらも勝手に転移させられた被害者でもあるのだから、命までは奪わないと食事の最中に伝えてきた。
 俺という異分子が人界の未来を大きく左右する、特異点のような存在故に、簡単に手放しはしないだろう。
 カップに残った紅茶を口に含みながら物思いにふけていると、少女が突然すぎることを口にした。
「カズヤ様は、創世神様と供に一夜をお過ごしになりたいと思いませんか?」
 含んでた紅茶が噴き出すのを懸命に堪え、無理に喉の奥へも流し込む。カップを丁寧に置き、あくまで平静を装いながら言った。
「どうゆう意味ですか……?」
「そのままですが」
「いやいやいやいや。創世神と俺が一緒に寝るなんて、恐れ多くて出来ませんから」
 そりゃ、あれだけ綺麗なお姉さんと一緒に夜を過ごせたら幸せではあるが、贅沢出来る身分でもない上に、サヤやセレナと知り合った女性たちがいないからと言って他の女性と肉体関係を持つのは許されない。特に相手が神ともなれば尚更だ。
「意外と小心者ですね」
「小心者ぐらいがちょうどいいんですよ」
 苦笑いを刻みながら呟き、俺は続けて聞いた。
「……キクノ、いや騎士キクノは、どうなっていますか?」
 ザラザードとの戦闘で瀕死寸前の負傷を負ったキクノは、ここにくる前に謎の光に包まれて別の場所へとワープしてしまった。だから治療が無事に終わったのかまでは知らない。
 少女はしばらく沈黙した後、淡々と教えてくれた。
「負傷の治療は完璧に終わりました。今はまだ昏睡状態で目を覚ましませんが、時が経てば確実に目覚めます」
「そっか。良かった」
 嬉しい報告に肩を撫で下ろすと、少女が珍しく質問を投げかけてきた。
「何故、喜んでいるのですか」
「何故って……一緒に戦った仲間が生きていたんだから、喜ぶに決まってるじゃないか」
「仲間……? あなたと騎士キクノは敵対関係であったはずなのに、どうして」
「同じ目標と対峙したんだ。一時的とはいえ共闘関係を築いていたんだから、まだキクノさんは仲間だ。仲間の心配をするのは、何一つおかしくないんだよ」
「……そういうものなんですか」
 寂しげを纏わせた声でそう呟くと、少女は一礼すると食器を洗い始めた。
 俺は自室に戻ると、そのままの格好でベッドの上で横になった。そして両眼の瞼をゆっくりと下ろしていき、視界全体を真っ暗な先の見えない闇に変えた。その闇はどこまでも続いており、やがて自分の意識すらも取り込んでいき、五感を遮断された《夢の世界》へと誘った。

 同刻──、創世神の寝室にて。
「カズヤ君……本当にごめんなさい……」
 隣の部屋で眠るカズヤに一言謝ってから、創世神ことヒヅキはなおも謝り続けた。
「私は、あなたにとんでもない真実を隠してしまった……」
 自分が行った罪の数々を数えてもキリがない。しかもほとんどが、彼に深く関わっていることばかりだった。
 それを真正面から謝らない自分を恥じながら、なおもカズヤに謝り続けた。
 カズヤか関係する事件。それは転移させたこと、セレナという最後の希望を奪ってしまったこと、そして最後に──。
 それらの罪、特に最後の罪はいくら謝っても許されないほどの重罪であった。いずれ彼には相応の報いを与えなければ、創世神として示しがつかない。
 今宵は、創世神が特異点である少年に対する謝罪の言葉が、夜空に響くようにこだました。

 同刻──魔界にて。
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