71 / 79
第71話 最終階層
しおりを挟む「テイム済みってわけじゃないけど各階のモンスターの数はこれで増やせたよね? あ、やっぱり出来る。減らすのは……1年経過後かぁ。あれ? パスワードとか欲しかったんだっけ」
「それ邪魔させてもらうぞ」
水晶を触りながら首を傾げる『橘フーズ』の副社長。 俺は空気を読まずにそれに話しかけた。
「……必死だなあ。あんな店の為なんかで。もっと利口になろうよおじさん。こんな事までして。周りを巻き込んで。無理して、大声出して、がむしゃらになって、そんなのは学生のうちに卒業しないと」
「あいにくそういう学生生活を送ってこれなかったからな。特に大学生活は」
「もしかして陰キャってやつ? 別に仕事をしてくれて強いならそれでも構わないっていうか、むしろそっちの方が都合がいいんだけど」
「残念だけど、もうそういうのは止めた。そんな俺じゃあ余計にあの人を心配させるからな。俺が馬鹿にされて落ち込んでる時、就活で絶望している時、あの人はいつも過保護で、そんで自分の方が泣きそうな顔して。だから元気な自分を取り繕って。いつの間にかそれが俺の長所にもなってた気がする。まぁお前にとってはそれが短所に見えるって事だろうけど」
「じゃあおじさんの言うあの人っていうのは俺の天敵で、邪魔な奴って事だね。なるほど、じゃあまずはそっちを何とかするところからか」
「……俺はさぁ。おっさんだから話が長いし、太りやすいし、おしぼりで顔も拭く、そんでもって……怒りっぽくて、融通が効かないんだよな。だから店、景さんに、俺の恩人に恩返しするっていう目標を達成する為にはなんでもするし、人生も費やすつもりだ。それなのに最近は迷惑掛けてばっかで……。俺は汚ねえ事ばっかするお前にも、情けねえ自分自身にも怒りが湧き上がって来てしょうがないんだよ!」
「熱いねえ。熱い熱い熱い。その熱にこっちを巻き込むのは止めてくれない? 仕事はもっと楽しく、肩の力を抜かないと。例えばこんな風にね」
――パチン。
指を鳴らす音が中に鳴り響く。
いつもの水晶が置いてあるこの階層は他のダンジョンの最終階層よりも広い。
とはいっても道がいくつもある訳じゃない広間タイプ。
良く言えば見渡しが良い。悪く言えば逃げ場がない。
「「「があああああああああああ!!!」」」
そう、こんな場所で何十匹もドラゴンを出されたら普通溜まったもんじゃないって事。
「炎、雷、氷、水、風、色んな攻撃が飛んでくる状況でおじさんはどれくらい戦えるのか。パスワードを思い出しながら、見物させてもらうよ。あ、駄目そうなら攻撃は止めてあげるよ。勿論引き抜きの件を受けてくれるっていうのが条件だけどね」
――ぼおっ!
――ビカッ!
――パキンッ!
――ぴゅっ!
――びゅおっ!
多方向からそれぞれの攻撃。
目で追える。でも避けるだけで精一杯な手数。これじゃあ攻撃に移れない。
「でもそれは避けに徹した場合だけ。今日で、本当に今日で終わりにするんで……この無茶は許してください景さん」
「えっ!? なんで避けないの? ちょっ、お前ら殺すのだけは止め――」
――パン。
「まずは1匹」
氷を扱うドラゴンがいるとどうしても一瞬動きを止められる。
ダメージはないけど、氷の息で凍らせられると氷を壊すのに手間がかかる
だからまずそれを殺した。
多分他のドラゴンの攻撃を殺さない為なんだろう。脚と手だけを凍らせるなんていうこざかしい事をしたが……それが仇になったな。
「おじさん、何をしたの? あのドラゴンの鱗はそんなに簡単に貫けない。その辺の石ころは当然、相当お高い剣でも――」
「いや、ちょっと歯を割ったんだよ。自分で。ステータスが上がり過ぎたのか知らないけど、最近は歯ぎしりするとちょっと欠けちゃって……。本気でやったらやっぱり割れて……でもこれ銃弾以上の威力はあるぞ」
ステータスが上がって強化された肉体。それは自分の歯にも影響は出ていて、しかもそれを思いっきり吐き出すだけで鉄砲みたいになる。
流石に痛いけど……こんな身を削る戦法もこれが最後だ。
「歯? それだけで俺のドラゴンが? そんな馬鹿な事あるはずないじゃないか! おい! 氷で動きが封じられてる今がチャンスだ! ブレス攻撃の出来ないドラゴンも攻撃に加わって一気にたたみかけろ!」
今度は直接噛み付こうとするドラゴンも何匹かいるか……これは好都合。
――パン!
――パン!
「頭突きの範囲内なんだよな。お前ら」
「簡単に2匹も……。くそくそくそくそっ! お前ら! 絶対にあいつを痛めつけろ!」
「自分の思った通りにいかないからって癇癪を起すお前の方が学生、っていうか子供だろ。上の階層みたいにドラゴンに全部任せた方が、厄介だったし、時間稼ぎにもなったぞ。」
俺は氷による手の拘束を頭突きで無理やり解き、脚の氷も壊すと指示によって距離を縮めて襲ってきたドラゴン達を容赦なく殺していくのだった。
57
あなたにおすすめの小説
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる