【完結】公女さまが殿下に婚約破棄された

杜野秋人

文字の大きさ
6 / 9
先輩が殿下に婚約破棄されたっす

殿下がやらかしたっす

しおりを挟む


「アントニア!貴様との婚約なぞ破棄してくれる!」

 突然響きわたったその声に、自分、ビックリして振り向いてしまったっす。
 目線を向けたその先には一学年上の先輩である王太子殿下がいらっしゃって、その目の前に立つご令嬢に指を突き付けているところっした。

 いやあの殿下?人を指差しちゃダメっての、庶民の自分でも知ってるっすよ?………あ、いや、今はもう男爵家の猶子ゆうしになってるっすから、自分、厳密には一応は貴族の身分なんすけど。まあ形式上、学園に通わせるための方便なんで、自分じゃ貴族だなんて欠片も思えないんすけどね?
 あっでも、一応外面は貴族らしく振る舞ってるっすよこれでも。時々地が出るっすけど。

 ていうか殿下が指差してるその人、殿下の婚約者の公女さまじゃないっすか。今年ご一緒に卒業されて、その後はもろもろ準備とか周知とかやって来年の今頃には婚姻っすよね?

 ………あれ?殿下今なんて言ったっすか?

「もう一度言うぞ!貴様との婚約なぞ破棄してくれる!」

 あ、もう一回言って下さった。
 やっぱ聞き間違いとかじゃなかったんすね。

「殿下、このような場で何を……」

 公女さまが戸惑ってらっしゃるっす。そりゃそうっすよね。学園の卒業記念パーティーなんかで堂々宣言なさるような事じゃないっすもん。
 でもあれ?殿下が公女さまとの婚約を破棄するってことは………婚姻式もナシってことっすかね?もう公式発表されてて市井もそのつもりになってるんすけど、大丈夫なんすかね?

「私が知らぬとでも思っているのか!?貴様、嫉妬にかられてこのマリアに散々嫌がらせをしていただろう!」
「わたくしには身に覚えがありませんわ」
「嘘を申すな!証人も証拠も揃っているのだぞ!」
「なんと申されましても、わたくしは嫌がらせなどやっておりません」

 見てる間に殿下と公女さまの言い争いが始まったっす。互いの主張は平行線かと思いきや、宰相サマのご子息とか騎士団長のご子息とかが出て来られて、とかとかを提示し始めたっす。
 いや~それ、「嫌がらせの証拠」にはなっても「公女さまの仕業」の証拠にはなんねっすよ?破られた教科書とか切り裂かれたドレスとか、そんなの出されてもねえ。証言だって、裏取りちゃんとして確実に証拠になるよう作っとかないと。じゃないと足元掬われるっすよ?

 っていうか、嫌がらせされたってのマリアさまなんすか。いやぁそりゃ自業自得っしょ。高位貴族のご子息に片っ端から、それも婚約者がいようがお構いなしに媚びてりゃ、そりゃ誰からも恨まれるっしょ。
 ていうかアンタも懲りねえっすよねマリアさま。こないだもうちのに怒られたばっかだっつうのに、とうとう殿下にまで手ぇ出したんすか。
 ………あ、いや、ご主人っつうか、書類上は「お義兄にいさま」になってるんすけど。でも自分、本来は商会の使用人でしかなくて、お義兄さまとは同い年だし同学年だし、つうか今隣に立ってるし、そもそも顔全然似てないしで、周りのお友達みんな義理の関係だって知ってるっすけど、お義兄さまって呼ばないと怒られるんすよね。なんか納得いかないっすけど。

 えっ殿下、その証拠だけで公爵家の組織的犯行に仕立てるんすか!?………は?殿下が直接その場を見た?
 じゃあなんで殿下はその場で姿見せて止めなかったんすか?殿下ぐらいのお立場なら見つけたその場で止めれたっすよね?

 だけど殿下の、王族のはなかなかに重いっすわ。確実に嘘ついてるって証明できなきゃ反論できねえっすもん。下手に反論したらそれだけで不敬罪っす。
 あーあほら、公女さまも悔しそうに謝罪始めちゃったっすわ。殿下の証言を今否定できるだけの物証なんてお持ちでないだろうし、そりゃそうなるっすよね。ご自身だけでなく公爵家にまで塁が及ぶってなりゃ、事実はどうあれそうするしかないっすもん。

 えっ殿下、まだ責めるんすか!?
 は?膝ついて詫びろ!?筆頭公爵家のご令嬢、それも長年婚約してた相手っしょ!?そんな人になんて屈辱的な要求するんすか!アンタほんとに人の心持ってるんすか!?
 うわあ。「王太子殿下は頭が軽い」って噂だけはよく聞いてたっすけど、まさかの事実だったんすか。あーあーあー、そんな悪人づらして嘲笑わらっちゃってまあ。それこの場の全員が見てるって自覚してます?まあしてないっすよね。

 え、ていうか「罰を申し渡す」とか言い出しちゃったっすよ。いやいや殿下?そういうのはきちんと裁判して罪を確定させてからですね………って国外追放!?そんな刑罰ここ20年で一度も執行されてないし、なんなら10年くらい前に廃止になってるんすけど、まさか知らないんすか!?
 うわーしかも会場警護の騎士たちに公女さまの拘束を命令しちゃったっすよ。公女さま、さすがに身の危険を感じて抵抗してらっしゃるっすけど、王太子殿下の命令と屈強な騎士たちの力に勝てるはずないっす。

「………おい」

 あ、お義兄さま……じゃなかったご主人がお呼びっすね。

「はい、何です坊っちゃん」
「人集めて、公女さまの後追いかけろ。多分王都ここから一番近い国境まで護送されてポイされるから、護送が帰ったところでして来い」
「護送じゃなくて、だったらどうしますか?」

 殿下のあの調子だと、それも充分考えられそうっす。

「さすがにそれは公爵家の離反を招くからやらんと思うが、もしそうなったら
「了解」
「くれぐれもバレんなよ。あと公爵家にもご注進入れろ」
「分かりました」

 頭ん中で喋る時はっすけど、口に出す言葉はんすよ、これでも。
 ………え?んなこと聞いてない?
 ちなみに「坊っちゃん」って呼びかけたのは、お義兄さまの言葉が義兄としてではなくご主人としての言葉だと分かったからっす。そういう細かいニュアンスや雰囲気もちゃんと拾えてこそ、立派な使用人と言えるっす!

 とか何とかやってるうちに、公女さまは抵抗むなしく会場を連れ出されて行っちゃったっすね。その後ろ姿に罵声を浴びせかけたが何人かいて、自分も顔は覚えたっすけど公女さまが睨みつけてたから、ありゃ確実に覚えられたっすね。
 あーあ、ご愁傷さまっす。公爵家に睨まれて破滅っすねえ、あの人たち。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて…… 大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路 (よくある話です) *久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。 メガホン応援に感謝です。

断罪するならご一緒に

宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。 その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。 王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。 バーバラは、責任感を持って説明を始めた。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり
恋愛
拝啓 お父様 王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。 悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。 彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。 準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?! 残された身勝手な者達はどうなるのか! ※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。 ※☆の付いた話は、残酷な描写あり

処理中です...