34 / 58
今日もアクアオッジ家は平和です
34 ⑨好きなら好きって言えばいいのに
しおりを挟む
「アーサーが……ただの名前でお呼びすることをお許し下さいませね。おそらく彼の【スキルツリー】の恩恵だと思うのですけれど、沢山、本当に沢山の女性がアーサーの周りにおりましたわ」
アクアオッジ家の三人がうんうん、と頷く。王子もアーサーの【交流スキル】の派生スキル、【フェロモン Lv10 MAX】のことを知っているので頷く。誇大表現でも比喩表現でもなく、単なる事実だった。
当時領主館には、自分がアーサーに愛されていると誤解した女性が乗り込んできて、その対応に苦慮したものだ。そんなアクアオッジ家の面々を見てメイベルは続ける。
「アーサーはどんな女性にも優しくて、そのせいで誤解する方もとても多かった……。そして私も気が付いてしまったんです。彼が女性を見る目は人や動物たちに対する目と何ら変わりは無いということに。私に対する態度は少しは違っているかもと、思っていた時期があったかもしれませんが、自惚れる程のものでは無かった……あの眼差しは家族を見るものと同じだったのです」
(えっ? それは違うんじゃないかなあ?)
メリルは首を傾げる。
メイベルのことを口にした母さまの前で、アーサー兄さまは真っ赤になっていたし、言葉に詰まって、何も言い返せずにいた。
あの顔は、たぶん……“好きな子の名前を不意に出されて、動揺した顔”だと思う。
母アドリアナも何か言いたそうにメイベルのほうを見ている。
二人の様子の変化にメイベルは気付かなかった。
「当時私は自分の【裁縫スキル】にとても誇りを持っておりましたの。デザイナーになることしか頭には無かったと申しますか。辺境伯ご一家の皆さまを前にして失礼だとは存じますが、次期辺境伯となる御方と愛を育むことなど考えられなかったのです」
ちょっと寂しそうにメイベル子爵夫人はそこで語るのを止めた。
「今のお仕事がとても好きなのねメイベルちゃん。好きでないと分からない配慮がこの店には沢山あって素敵だもの」
「それは最高の誉め言葉ですわ。ありがとう存じます」
母さまもアーサーのことにはもう触れないことにしたみたいだ。二人の問題だものね。それに好きなことを仕事にして自分の足でしっかり立っているメイベルはすごくカッコいい。あ、子爵夫人って言わないといけないんだった。でも精霊たちはちょっと不満そうだよね。
"アーサーってば何やってるのよぉ"
"鈍感男"
"ヒトってほんと面倒ねえ"
"ホントホント。好きって言うだけでいいのに"
アーサー兄さまならもし結婚したとしても、好きな女性の願いならきっと叶えただろうにな。ちょっとずつズレたから今、こうなってるのかあ。上手くいかないもんだなあ。
……恋って、やっぱり面倒くさいものなのかもしれない。
ほんとに、好きなら、好きって言えばいいのに。
五つ目のお茶菓子を口に入れてモグモグするメリルの頬は、リスのように膨らんでいた。
アクアオッジ家の三人がうんうん、と頷く。王子もアーサーの【交流スキル】の派生スキル、【フェロモン Lv10 MAX】のことを知っているので頷く。誇大表現でも比喩表現でもなく、単なる事実だった。
当時領主館には、自分がアーサーに愛されていると誤解した女性が乗り込んできて、その対応に苦慮したものだ。そんなアクアオッジ家の面々を見てメイベルは続ける。
「アーサーはどんな女性にも優しくて、そのせいで誤解する方もとても多かった……。そして私も気が付いてしまったんです。彼が女性を見る目は人や動物たちに対する目と何ら変わりは無いということに。私に対する態度は少しは違っているかもと、思っていた時期があったかもしれませんが、自惚れる程のものでは無かった……あの眼差しは家族を見るものと同じだったのです」
(えっ? それは違うんじゃないかなあ?)
メリルは首を傾げる。
メイベルのことを口にした母さまの前で、アーサー兄さまは真っ赤になっていたし、言葉に詰まって、何も言い返せずにいた。
あの顔は、たぶん……“好きな子の名前を不意に出されて、動揺した顔”だと思う。
母アドリアナも何か言いたそうにメイベルのほうを見ている。
二人の様子の変化にメイベルは気付かなかった。
「当時私は自分の【裁縫スキル】にとても誇りを持っておりましたの。デザイナーになることしか頭には無かったと申しますか。辺境伯ご一家の皆さまを前にして失礼だとは存じますが、次期辺境伯となる御方と愛を育むことなど考えられなかったのです」
ちょっと寂しそうにメイベル子爵夫人はそこで語るのを止めた。
「今のお仕事がとても好きなのねメイベルちゃん。好きでないと分からない配慮がこの店には沢山あって素敵だもの」
「それは最高の誉め言葉ですわ。ありがとう存じます」
母さまもアーサーのことにはもう触れないことにしたみたいだ。二人の問題だものね。それに好きなことを仕事にして自分の足でしっかり立っているメイベルはすごくカッコいい。あ、子爵夫人って言わないといけないんだった。でも精霊たちはちょっと不満そうだよね。
"アーサーってば何やってるのよぉ"
"鈍感男"
"ヒトってほんと面倒ねえ"
"ホントホント。好きって言うだけでいいのに"
アーサー兄さまならもし結婚したとしても、好きな女性の願いならきっと叶えただろうにな。ちょっとずつズレたから今、こうなってるのかあ。上手くいかないもんだなあ。
……恋って、やっぱり面倒くさいものなのかもしれない。
ほんとに、好きなら、好きって言えばいいのに。
五つ目のお茶菓子を口に入れてモグモグするメリルの頬は、リスのように膨らんでいた。
70
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~
月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」
猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。
彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。
チート能力? 攻撃魔法?
いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。
「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」
ゴブリン相手に正座で茶を勧め、
戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、
牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。
そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……?
「野暮な振る舞いは許しません」
これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる