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最終話 さあ家に帰ろう
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秋の陽射しはやわらかく、空は高く澄み渡っていた。
丘はクローバーの緑でふっくらと膨らみ、牛たちがゆったりと草を食んでいる。
ここまで育った牧草は、もう立派な秋の贈り物だ。マメ科もイネ科も揃って、牛たちが一番喜んでいる。
甘い草の香りの奥で、粉砕機の音が小さく響く──アクアオッジ家で作られた粉砕機で鮮度はそのままトウモロコシは砕かれ、鶏たちにとって美味しいご褒美になっていた。
そうしてアーサーが帰る日がやってきた。
しばらく好天に恵まれる日を旅立ちに選んだので、ステキな秋晴れが広がっていて出発には相応しく思われた。
リー一家も従業員たちも、アーサーが家に帰るのを非常に寂しがってくれた。
特にメイベルは大泣きだった。最後にはデレデレタグが必要なくらいだった。
アクアオッジ家長男で次期辺境伯アーサー。女を泣かせた男。
最後のやつ、ちょびっと誤解を受けるので止めてくれませんか、と言うとみんなは嬉しそうに泣き笑いの顔になる。
帰るのがちょっぴり寂しくなっちゃうな。
どうして目から水が出るんだろ。
とうとう「お給料の日」がやってきた。アーサーにとっては、これこそが本当の報酬だったのだ。
まずご主人のリーさんが、牛のところまで行こうか、と提案する。リーさん一家や他のみんなも好奇心が抑えきれなかったのか一緒についてくる。
リーさん家の元荒野は、今ではなだらかな丘陵になっていて、秋になっても辺り一面、クローバーの緑のじゅうたんが敷き詰められている。
なんてマメな植物だろう。マメ科なだけに。
あ、お呼びでない。だって豆知識を披露したかったんだもの。
あっハリセンはやめて!
クローバーは冬には枯れて、寒さをバネに春になると花を咲かせる。
これだけ広い面積なら、春になったら移動養蜂家たちも、独自の開花ネットワークを元にやってくるだろう。
今から四月が待ち遠しい。辺り一面の白と緑の広大なじゅうたんが今から目に見えるようだ。
アーサーを見て牛たちが寄って来る。もう誰もこの光景に驚かなくなっていた。
彼がお別れを言うと、モーモー大合唱になった。心なしか悲し気な声なのを、ついてきた皆は言葉こそ分からなかったけれど全員が感じ取った。自分たちも気持ちは一緒だったから。
「それで家に帰るんですけれど、僕についてきてくれる出産経験のあるレディはいませんか?」
アーサーが大真面目に牛たちに向かって尋ねた。
"わたしが行きたい"
”自分だってアーサーと一緒に行きたい”
"でも……"
牛たちの考えることはやがて一つになった。
"一番若くて頑健な子をアーサーのために"
やがて合唱のような鳴き声がピタリと止むと、一頭の雌牛がアーサーの前までやってくる。
「二歳の雌だ。最初から安産だったから、こいつなら環境が変わっても大丈夫だろう」
リーさんが太鼓判を押してくれる。
牛たちは本来ならとてもお高い。
まだ十歳の子供のひと夏の賃金なんて本来ならたかが知れている。それでも出し惜しみをすることなく、お給料は牛一頭とリーさんは約束してくれていた。そして約束をちゃんと守ってくれたのだ。
アーサーの行ってきた労働は十歳とは思えない成果を上げていたし、お金の価値では測れない様々な物を彼から受け取って来たから──
「ありがとうレディ。雰囲気的にミョルダって呼ぶね」
アーサーの名付けは致命的にセンスが無かった。
将来子供が産まれた時が思いやられるセンスだ。まだまだ先の話なので、その時には改善されていることを願おう。
ミョルダに乗って(ちゃんと正しく、乗るを使えるようになった)家に向かう。
メイに作ってもらった服と、たくさんのお土産を手に。
途中野宿する。秋だからそこそこ寒いけどお土産を包んでくれたのが毛布だからそれを使う。
お弁当も持たせてもらっていたので、ふたを開けると思わずアーサーは微笑んだ。
茶色メインのお弁当はとても美味しくてちょっぴり涙でしょっぱかった。
嬉しくて寂しくて泣きながらミョルダに寄り添って眠った。
翌日──
ミョルダに早くご飯食べさせてあげたいなーと思いながら進む。野宿した場所の草を食べていたけれど牛は結構食べるんだ。足りなかったに違いない。
こんなに大きいのに草しか食べないんだから無理もないよね。
アーサーは疲れたときにだけミョルダに乗せてもらっていた。
一人と一頭は気付いていなかったけれど、母のスキルで生長した植物を食べてきたから、身体の調子は素晴らしく万全だ。
一夏の縁で生まれた絆は、ゆるやかに流れる大河のように続いていく。
それが顕著に現れたのはミョルダだった。
──何十年も先のことだけれど、とうとうその日がやってくる……
ミョルダは静かに首を地面に伏せ、アーサーはそばにしゃがみ込み、額を優しく撫で続けた。
小さな吐息が途切れると、風がふたりの間をやさしく通り抜けていく……
その瞳が閉じる最期の瞬間まで、彼等は盟友のようだったと周りの者は語っている。
──でもそれは、ずっとずっと先の未来の話。今はまだ柔らかい秋の空の下、帰路の途中だ。
"おいしそうな草のにおいがするもー"ミョルダがそう言ってる気がした。
「そろそろ家だよ。ミョルダありがとう。早くみんなに会いたいな。君を紹介したいんだ」
まるで恋人を家族に紹介したい男のようである。
アーサーはとても大真面目にそう言っている。
秋のポカポカ陽気の中、一人の人間と一頭の牛は仲良く進む。
一歩一歩ゆっくりだけれど確実に、コツコツと。
積み重ねることならばアクアオッジ一家はみんな得意中の得意だ。
きっとジャングルになったトウモロコシ畑が迎えてくれるだろう。
緑の海のようになった景色を胸に秘め、彼らは足を止めずに歩き続ける。
もちろん大好きな家族たちにも……もうすぐ会える。
両手を広げて迎えてくれる、皆の姿と笑顔──
『おかえりなさい!』
声までもが鮮やかな一つの情景となって目に浮かぶようだ──
おしまい♪
読んで頂いてありがとうございました!
アクアオッジ辺境伯一家の話は続きます。
次作
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
読んで頂けると、小躍りして喜びます。
丘はクローバーの緑でふっくらと膨らみ、牛たちがゆったりと草を食んでいる。
ここまで育った牧草は、もう立派な秋の贈り物だ。マメ科もイネ科も揃って、牛たちが一番喜んでいる。
甘い草の香りの奥で、粉砕機の音が小さく響く──アクアオッジ家で作られた粉砕機で鮮度はそのままトウモロコシは砕かれ、鶏たちにとって美味しいご褒美になっていた。
そうしてアーサーが帰る日がやってきた。
しばらく好天に恵まれる日を旅立ちに選んだので、ステキな秋晴れが広がっていて出発には相応しく思われた。
リー一家も従業員たちも、アーサーが家に帰るのを非常に寂しがってくれた。
特にメイベルは大泣きだった。最後にはデレデレタグが必要なくらいだった。
アクアオッジ家長男で次期辺境伯アーサー。女を泣かせた男。
最後のやつ、ちょびっと誤解を受けるので止めてくれませんか、と言うとみんなは嬉しそうに泣き笑いの顔になる。
帰るのがちょっぴり寂しくなっちゃうな。
どうして目から水が出るんだろ。
とうとう「お給料の日」がやってきた。アーサーにとっては、これこそが本当の報酬だったのだ。
まずご主人のリーさんが、牛のところまで行こうか、と提案する。リーさん一家や他のみんなも好奇心が抑えきれなかったのか一緒についてくる。
リーさん家の元荒野は、今ではなだらかな丘陵になっていて、秋になっても辺り一面、クローバーの緑のじゅうたんが敷き詰められている。
なんてマメな植物だろう。マメ科なだけに。
あ、お呼びでない。だって豆知識を披露したかったんだもの。
あっハリセンはやめて!
クローバーは冬には枯れて、寒さをバネに春になると花を咲かせる。
これだけ広い面積なら、春になったら移動養蜂家たちも、独自の開花ネットワークを元にやってくるだろう。
今から四月が待ち遠しい。辺り一面の白と緑の広大なじゅうたんが今から目に見えるようだ。
アーサーを見て牛たちが寄って来る。もう誰もこの光景に驚かなくなっていた。
彼がお別れを言うと、モーモー大合唱になった。心なしか悲し気な声なのを、ついてきた皆は言葉こそ分からなかったけれど全員が感じ取った。自分たちも気持ちは一緒だったから。
「それで家に帰るんですけれど、僕についてきてくれる出産経験のあるレディはいませんか?」
アーサーが大真面目に牛たちに向かって尋ねた。
"わたしが行きたい"
”自分だってアーサーと一緒に行きたい”
"でも……"
牛たちの考えることはやがて一つになった。
"一番若くて頑健な子をアーサーのために"
やがて合唱のような鳴き声がピタリと止むと、一頭の雌牛がアーサーの前までやってくる。
「二歳の雌だ。最初から安産だったから、こいつなら環境が変わっても大丈夫だろう」
リーさんが太鼓判を押してくれる。
牛たちは本来ならとてもお高い。
まだ十歳の子供のひと夏の賃金なんて本来ならたかが知れている。それでも出し惜しみをすることなく、お給料は牛一頭とリーさんは約束してくれていた。そして約束をちゃんと守ってくれたのだ。
アーサーの行ってきた労働は十歳とは思えない成果を上げていたし、お金の価値では測れない様々な物を彼から受け取って来たから──
「ありがとうレディ。雰囲気的にミョルダって呼ぶね」
アーサーの名付けは致命的にセンスが無かった。
将来子供が産まれた時が思いやられるセンスだ。まだまだ先の話なので、その時には改善されていることを願おう。
ミョルダに乗って(ちゃんと正しく、乗るを使えるようになった)家に向かう。
メイに作ってもらった服と、たくさんのお土産を手に。
途中野宿する。秋だからそこそこ寒いけどお土産を包んでくれたのが毛布だからそれを使う。
お弁当も持たせてもらっていたので、ふたを開けると思わずアーサーは微笑んだ。
茶色メインのお弁当はとても美味しくてちょっぴり涙でしょっぱかった。
嬉しくて寂しくて泣きながらミョルダに寄り添って眠った。
翌日──
ミョルダに早くご飯食べさせてあげたいなーと思いながら進む。野宿した場所の草を食べていたけれど牛は結構食べるんだ。足りなかったに違いない。
こんなに大きいのに草しか食べないんだから無理もないよね。
アーサーは疲れたときにだけミョルダに乗せてもらっていた。
一人と一頭は気付いていなかったけれど、母のスキルで生長した植物を食べてきたから、身体の調子は素晴らしく万全だ。
一夏の縁で生まれた絆は、ゆるやかに流れる大河のように続いていく。
それが顕著に現れたのはミョルダだった。
──何十年も先のことだけれど、とうとうその日がやってくる……
ミョルダは静かに首を地面に伏せ、アーサーはそばにしゃがみ込み、額を優しく撫で続けた。
小さな吐息が途切れると、風がふたりの間をやさしく通り抜けていく……
その瞳が閉じる最期の瞬間まで、彼等は盟友のようだったと周りの者は語っている。
──でもそれは、ずっとずっと先の未来の話。今はまだ柔らかい秋の空の下、帰路の途中だ。
"おいしそうな草のにおいがするもー"ミョルダがそう言ってる気がした。
「そろそろ家だよ。ミョルダありがとう。早くみんなに会いたいな。君を紹介したいんだ」
まるで恋人を家族に紹介したい男のようである。
アーサーはとても大真面目にそう言っている。
秋のポカポカ陽気の中、一人の人間と一頭の牛は仲良く進む。
一歩一歩ゆっくりだけれど確実に、コツコツと。
積み重ねることならばアクアオッジ一家はみんな得意中の得意だ。
きっとジャングルになったトウモロコシ畑が迎えてくれるだろう。
緑の海のようになった景色を胸に秘め、彼らは足を止めずに歩き続ける。
もちろん大好きな家族たちにも……もうすぐ会える。
両手を広げて迎えてくれる、皆の姿と笑顔──
『おかえりなさい!』
声までもが鮮やかな一つの情景となって目に浮かぶようだ──
おしまい♪
読んで頂いてありがとうございました!
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