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第五章 朧月
冷暗所、蠱毒の地
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放り出された際にぶつけた腕をさすりながら周囲を見回す。薄暗くひんやりとした空間、壁に寄りかかるような姿勢で黙りこくっている複数の人。今のところ、わたしが認識できたのはそれだけ。
研究所へ来る数日前、鈴から聞いた話を思い出した。強力な異能者ばかりを集めた上で、彼らにバトルロワイヤルを行わせる――それが「蠱毒」だったはずだ。ならば、ここにいる他の人たちは……。
「ねぇ」
呼びかけると、うなだれていた人たちが一斉にこちらへ視線を向けてくる。あまりの勢いにうろたえてしまい、半歩後ずさった。
「あんたたちも異能者なの?」
首を傾げながら問いかける。すると、次々に肯定の言動が返ってきた。ここにいるのは全員異能者らしい。先ほどの男が「蠱毒」と言っていたことを考えれば当然の答えだが。
予想通りの答えを受け止め、わたしはさらに質問を繰り出す。――それぞれが持つ異能と、ここへ来た経緯を。
話を聞くと、面々のほとんどは研究員によって連れてこられたらしい。しかし、同じ髪色をした少年少女は顔を見合わせる。そして意を決したように少女が口を開いた。
「……あたしたちは、ここで生まれ育った人間」
「ここで……?」
反射的に聞き返すと、少年が黙ったまま何度も頷く。不穏にざわつく人々はひとまず無視することにして、わたしは二人に話の続きを促した。
赤城響と名乗った少女は、至極当然のように「管理番号八十二番」と自らを示す。そして傍らの少年を指さすと「赤城奏、管理番号八十一番」と続けた。
「……そっか。あんたたち二人も研究対象なんだね」
「管理番号をつけられたあたしたちは、外の世界を知ることもできない。……でも、あの人たちが教えてくれた」
「あの人たち、って誰のこと?」
わたしの質問を耳にした少年が、困ったように眉を下げて少女を見つめる。しかし彼女は気にした様子も見せないまま話を続けた。
「あたしたちが『蠱毒』を生き延びれば外に出してやる、って。――やるよ、奏」
少女が少年を呼んだ瞬間、猛烈に嫌な予感がした。無意識のうちに飛び退くと、直前までわたしがいた場所に巨大な槍が突き刺さる。
「っ、危ないな……!」
無駄だとは思いながらも文句を言う。少女は床に突き刺さった槍を引き抜き、穂先を他の異能者たちへと向けた。
「あたしは、あたしたちは、自由のためにあなたたちを殺す。……嫌なら殺す気で抵抗して」
そう言うなり、少女が再び攻撃に出る。時折わたしに向けても飛んでくる槍をかわしながら、狭い室内を逃げ回る異能者たちの動きを読み続けた。
恐らく、ここにいるのは特殊な異能を持つ者ばかりだろう。誰が何の異能を持っているかわからない状況で手の内を明かすのは望ましくない。……だが。
「悪いけど、わたしはこんなところで死んでる場合じゃないから」
殺し合いなんてしたら、それこそ研究員の思うつぼだ。わたしが今すべきことは、彼らを説得すること。そして――全員でここから脱出するのだ。
方針を決め、深呼吸を繰り返しながら決意する。そして槍から視線を外さないまま声を張り上げた。
「二人に攻撃はしないで。あんたたちは全力で逃げ続けて!」
「わ、わかった……!」
戸惑ったような返事に頷きだけを返し、わたしは降り注ぐ槍の雨を避けることだけに集中する。攻撃が止まったほんのわずかな隙を突いて異能を発動した。
槍を操るあの異能を模倣できれば最善だ。二人への対抗手段としても、ここを外界と隔てる扉への攻撃手段としても使えるだろう。そんなことを考えていると、指先から何かが浸透していくような感覚がした。
「変わった異能を持ってるのはあんただけじゃない。勝算があるかもわからない戦いを続けるより、全員で脱出するべきだよ」
模倣した異能を発動する。しかし、槍やそれに近い武器のようなものは一向に現れなかった。……模倣に失敗した、のだろうか。それとも、別の人の異能を模倣した……?
予想外の事態に頭脳をフル稼働させながらも、落ち着き払った言動を心がける。少女は目を瞬かせ、こてんと首を傾げた。
「……あなたは何が言いたいの?」
「わたしたちを攻撃しないで。全員で、ここから出るための方法を探そう」
言い含めるように、一音一音丁寧に言葉を紡ぐ。すると少女は大きく目を見開き――だらんと腕を脱力させた。カランカラン。槍が地面に転がり、ゆっくりと溶けるようにして消えていく。
「響」
地面にへたり込みかけた少女を支えたのは、ずっと彼女のそばに控えていた少年だ。彼は語りかけるように「大丈夫」と繰り返すと、わたしへ窺うような視線を向けてきた。
「どうして僕の異能が使えるんですか」
「多分、あんたの異能をわたしの異能で模倣したから。というか、そもそもあんたの異能って何なの?」
少年はわたしの質問を黙殺し、視線を少女へと戻す。しかし会話を続ける気はあるようで、小さく「僕は」と呟く声が聞こえた。
「あなたの言う通り、全員でここから出るべきだと思っています。そのために僕たちの力が使えるなら、全力で協力します」
「ありがとう。えっと……奏、だったっけ?」
こくりと頷く少年――奏と握手を交わし、わたしは自分の名前を教える。他の異能者たちから遠巻きにされていることには気づいていたが、そんなことに構う暇はなかった。
研究所へ来る数日前、鈴から聞いた話を思い出した。強力な異能者ばかりを集めた上で、彼らにバトルロワイヤルを行わせる――それが「蠱毒」だったはずだ。ならば、ここにいる他の人たちは……。
「ねぇ」
呼びかけると、うなだれていた人たちが一斉にこちらへ視線を向けてくる。あまりの勢いにうろたえてしまい、半歩後ずさった。
「あんたたちも異能者なの?」
首を傾げながら問いかける。すると、次々に肯定の言動が返ってきた。ここにいるのは全員異能者らしい。先ほどの男が「蠱毒」と言っていたことを考えれば当然の答えだが。
予想通りの答えを受け止め、わたしはさらに質問を繰り出す。――それぞれが持つ異能と、ここへ来た経緯を。
話を聞くと、面々のほとんどは研究員によって連れてこられたらしい。しかし、同じ髪色をした少年少女は顔を見合わせる。そして意を決したように少女が口を開いた。
「……あたしたちは、ここで生まれ育った人間」
「ここで……?」
反射的に聞き返すと、少年が黙ったまま何度も頷く。不穏にざわつく人々はひとまず無視することにして、わたしは二人に話の続きを促した。
赤城響と名乗った少女は、至極当然のように「管理番号八十二番」と自らを示す。そして傍らの少年を指さすと「赤城奏、管理番号八十一番」と続けた。
「……そっか。あんたたち二人も研究対象なんだね」
「管理番号をつけられたあたしたちは、外の世界を知ることもできない。……でも、あの人たちが教えてくれた」
「あの人たち、って誰のこと?」
わたしの質問を耳にした少年が、困ったように眉を下げて少女を見つめる。しかし彼女は気にした様子も見せないまま話を続けた。
「あたしたちが『蠱毒』を生き延びれば外に出してやる、って。――やるよ、奏」
少女が少年を呼んだ瞬間、猛烈に嫌な予感がした。無意識のうちに飛び退くと、直前までわたしがいた場所に巨大な槍が突き刺さる。
「っ、危ないな……!」
無駄だとは思いながらも文句を言う。少女は床に突き刺さった槍を引き抜き、穂先を他の異能者たちへと向けた。
「あたしは、あたしたちは、自由のためにあなたたちを殺す。……嫌なら殺す気で抵抗して」
そう言うなり、少女が再び攻撃に出る。時折わたしに向けても飛んでくる槍をかわしながら、狭い室内を逃げ回る異能者たちの動きを読み続けた。
恐らく、ここにいるのは特殊な異能を持つ者ばかりだろう。誰が何の異能を持っているかわからない状況で手の内を明かすのは望ましくない。……だが。
「悪いけど、わたしはこんなところで死んでる場合じゃないから」
殺し合いなんてしたら、それこそ研究員の思うつぼだ。わたしが今すべきことは、彼らを説得すること。そして――全員でここから脱出するのだ。
方針を決め、深呼吸を繰り返しながら決意する。そして槍から視線を外さないまま声を張り上げた。
「二人に攻撃はしないで。あんたたちは全力で逃げ続けて!」
「わ、わかった……!」
戸惑ったような返事に頷きだけを返し、わたしは降り注ぐ槍の雨を避けることだけに集中する。攻撃が止まったほんのわずかな隙を突いて異能を発動した。
槍を操るあの異能を模倣できれば最善だ。二人への対抗手段としても、ここを外界と隔てる扉への攻撃手段としても使えるだろう。そんなことを考えていると、指先から何かが浸透していくような感覚がした。
「変わった異能を持ってるのはあんただけじゃない。勝算があるかもわからない戦いを続けるより、全員で脱出するべきだよ」
模倣した異能を発動する。しかし、槍やそれに近い武器のようなものは一向に現れなかった。……模倣に失敗した、のだろうか。それとも、別の人の異能を模倣した……?
予想外の事態に頭脳をフル稼働させながらも、落ち着き払った言動を心がける。少女は目を瞬かせ、こてんと首を傾げた。
「……あなたは何が言いたいの?」
「わたしたちを攻撃しないで。全員で、ここから出るための方法を探そう」
言い含めるように、一音一音丁寧に言葉を紡ぐ。すると少女は大きく目を見開き――だらんと腕を脱力させた。カランカラン。槍が地面に転がり、ゆっくりと溶けるようにして消えていく。
「響」
地面にへたり込みかけた少女を支えたのは、ずっと彼女のそばに控えていた少年だ。彼は語りかけるように「大丈夫」と繰り返すと、わたしへ窺うような視線を向けてきた。
「どうして僕の異能が使えるんですか」
「多分、あんたの異能をわたしの異能で模倣したから。というか、そもそもあんたの異能って何なの?」
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「あなたの言う通り、全員でここから出るべきだと思っています。そのために僕たちの力が使えるなら、全力で協力します」
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