俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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期限付きの関係

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「……お前、それを本気で言っているのか」

 アストルディアの金の瞳に以前見たのと同じ……いや、それ以上の怒りの色が宿る。
 だが、どれだけアストルディアが怒り狂ったとしても、俺は前言撤回する気はなかった。

「だって、そうだろう? もし戦争になって負けたら、魔力の高い俺は死なない限り性奴隷だ。ヴィダルスのあの執着を考えれば、俺を他の奴に譲るとは思えないし。その時抗える力がないなら、早いか遅いかの違いだけだ」

「そんなことは、俺がさせないっ!」

 珍しく声を荒げたアストルディアが、歯ぎしりをしながら俺を睨みつける。

「万が一戦争が避けられずお前が捕虜になる時が来れば、その時は必ず俺がお前をもらい受ける。絶対に性奴隷なんかにさせるものかっ! お前は俺が守ってみせるっ!」

「守ってみせる、ね……」

 最強の獣人に守られて幸せになる……これが女の子だったり、原作の主人公だったりしたら、ハッピーエンドなんだろうとは思う。
 だけど、到底俺には受け入れられない話だ。

「アスティ……俺はお前に守ってほしいわけじゃないんだよ。俺はお前がいなくても、戦って勝てる強さが欲しいんだ。俺自身と……辺境伯領を守れる強さが」

 どっぷり依存した親友関係も、最初から期限付きなのはわかりきった話。
 俺は卒業すれば【国境の守護者】として、ネルドゥース辺境伯領に戻ることになる。
 誰も守っちゃくれないし、守られるつもりもない。
 俺は学生時代にアストルディアとの間に築いた友情だけを頼りに、一人で運命と戦わないといけない。

「だから、この親善試合はいい機会だと思ってる。いざと言う時に、どれくらい一人で戦えるのか。ヴィダルスとの戦闘を通じて俺自身を測ることができるからな」

「…………」

「だからアストルディア、お前も……ぶはっ!」

 思わず、シリアスな雰囲気も忘れて噴き出してしまった。
 ーー耳が、アストルディアの素直な三角お耳が、ぺたりと倒れてらっしゃる!

「くくくっ……そんな反応すんなよ。アスティ。俺はお前が思うより、ずっと強いぞ? 警告してもらったからには、油断する気もさらさらないしな」

「…………」

「ほら、おいで。アスティ。今日は遅いし、もう寝よう?」

 いつも通りベッドに促すと、珍しくアストルディアはお犬様モードにならず、人型で着いてきた。
 正直モフモフのが嬉しいが、まあアストルディアなら何も問題はない。預かった服を常備するようになったから、最初の時みたいな裸族でもないし。
 モフモフ毛皮の代わりに、ムキムキ筋肉を抱きしめてベッドに横になる。手触りは違っても、伝わる体温も魔力も、普段のお犬様モードのままだから、十分落ち着く。

「あー……やっぱりアスティと寝るのが、一番リラックスできるなあ。卒業して不眠症になっちゃったら、どうしよう」  

「……エディ」

「うん?」

 爪を短く切ったアストルディアの指が、不意に首の後ろを撫でた。
 一瞬びくりと体が跳ねたが、その手つきがあまり優しいので、すぐにリラックスして体の力が抜けた。

「これ以上俺に何か言われるのは嫌だろうが……どうか、ここだけはヴィダルスに噛まれないように気をつけてくれ」

「ここって……首の後ろ?」

「ああ……ここを噛めば、ヴィダルスはお前を番と認識するようになる」

 そう言ってアストルディアは、そこに口元を埋めるように、後ろから抱き込んできた。

「狼獣人が番と定めるのは、生涯ただ一人だけだ。ここを噛まれれば、あいつのお前への執着は今の比ではなくなる」

 ……そういえば、そんな設定もあったね。
 前世妹曰く、獣人物よりオメガなんちゃらで一般的な設定らしいけど。

「狼獣人の番への執着は、他の獣人に比べても異常だ。もしあれがお前を番に定めれば、あれかお前を殺すことでしか、逃がしてやれなくなる」

「でもヴィダルスは、獅子獣人の血が混ざっているから番を複数持てるとか言ってたぞ? そんな心配しなくてもいいんじゃないか?」
 
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