俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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番成立の為に

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 迷いのない返事を聞いた瞬間、乾いたはずの涙が再びぶり返してきた。

「ーー俺を番にしてくれ、アストルディア」

 震える手で、目の前にある逞しい体をかき抱く。

「もう……一人で戦うのは、辛いんだ」

 これもまた、誰にも言うつもりがなかった言葉のはずなのに、思った以上にすんなり口から出てきた。
 たとえこれが本物の悪魔の誘惑だとしても、俺は断われなかったかもしれない。
 だってもう、一人で運命に足掻き続けるのは疲れたんだ。
 ずっとずっと……本当は誰かに、一緒に戦って欲しかった。
 そして俺が背中を預けられるような誰かは……アストルディアだけなんだ。

「……ああ、もちろんだ。エディ」

 優しくそう言って抱きしめ返され、すごく気恥ずかしい気分になる。
 アストルディアから抱きしめられるのなんて今さらなのに、番になるのを承諾しただけでこんなに違うものなのか。
 いたたまれなくてアストルディアの胸元に顔を埋めると、アストルディアの心臓がどくどくと脈打っているのが伝わってきた。……なんだ、アストルディアも密かに緊張してるのか。そう思ったら少しだけ、楽になった。

「エディが番になる承諾をしてくれたからには、今すぐにでもうなじを噛みたいのだが……」

 さっき同様に指先で優しくうなじを撫でながら、アストルディアがため息を吐く。

「獣人がうなじを噛めば、ここに一生消えない噛み跡が残る。それをヴィダルスが見つけたら、間違いなく面倒なことになる」

「? あんだけ痛めつけてやったんだから、あいつはもう二度と俺に近づいて来ないだろ。それより俺は獣人の顎で消えない噛み跡をつけられて、生き残れるかの方が心配なんだが……」

「番の噛み跡というのは、人間でいうところの契約痕のようなものだ。残留魔力によって一生涯保持されるだけで、そこまで強く噛まないでも跡は残る。多少血は滲むかもしれないがな。……それよりエディ、お前はアレの執着を甘く見過ぎだ」

 そう言ってアストルディアは、さっきよりも深々としたため息を吐いた。

「アレは一度意中の相手に試合で負けたくらいで諦めるような、殊勝な男ではないぞ。寧ろお前に打ち負かされたことで、一層執着は増したはずだ。今回の試合で力では敵わないことがわかった以上、今までのように絡んでくることはなくなるだろうが、裏では虎視眈々とお前を番にする機会を狙うに決まっている。絶対に油断はするな」

 ……え、あいつ、そこまで粘着質な野郎なの。勝っても駄目、負けたら即番って……目ぇつけられた時点でアウトじゃん。怖いし、キモいわ。

「ええと、じゃあ取り敢えず、噛み跡つけるのは卒業の時にするとか? アスティも最初はそれまで提案する気なかったんだろ?」

「……いや、今後のことを考えれば、少しでも早く番にはなっておきたい。認識阻害の魔法とかはないのか?」

「認識阻害は闇魔法の範疇だわ。馬鹿。ますます俺をメンヘラにしてどうする」

「俺が闇魔法の残留魔力を吸収すれば……いや、残留魔力を吸収した時点で、魔法自体が無効になるか」

 うーん……噛み跡が魔法の契約痕のようなものなら、方法があるっちゃあるけど。

「魔法の契約痕は、聖魔法で上にもう一枚皮膚を作って隠すことはできるんだが……獣人の噛み跡まで通用するかわからないからなあー」

 望まれない契約を強いられた過去を消すために、聖魔法の上級魔法師がたまに使う手だが……獣人の噛み跡に通用するか、わからないのに、一発本番で試すのはなあ……。
 ここはやっぱり、今後の契約に支障が出ても、卒業まで待った方が……って、アストルディアのしっぽ、めちゃくちゃ左右に揺れてる!?

「……なるほど。そんな方法があるなら、安心だ。早速うなじを噛ませてもらおう」

「い、いや……獣人の噛み跡に通用するか、わからなくて」

「魔法の契約痕に通用するのだろう? なら大丈夫だ。大丈夫でなくても、その時はヴィダルスを殺してでも、問題が起こらないようにする。さあ、うなじを俺に向けてくれ」

 ……あれ、もしかして俺、すげぇよけいなこと言った?
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