俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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最後の講義②

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 じじい共が、生きるつもりがないことなんか、わかってた。
 でも、実際死の間際になれば、土壇場で気持ちが変わることもあるし。
 そう思って口にした言葉は、自分が思ってた以上に、情けなく震えていた。

「……お前が泣いた顔、久々に見たなぁ」

「……昔は、稽古のたびに泣いてたのにな」

 違ぇよ。あんたらの前で見せなくなっただけで、今だって俺は、昔と変わらず泣き虫なまんまなんだよ。
 昔はあんたらの前でしか泣けなかったけど、今はあんたらの代わりにアストルディアの前でしか泣けなくなっただけでさ。

『ししょう、ししょう、どうして父上は、おれをあいしてくれないの』

『いっしょにけいこをしてたお兄ちゃんが、おれをばけものだっていってるの、きいちゃった……』

『つよくなったら……【こっきょうのしゅごしゃ】になれれば……みんなおれのこと、あいしてくれるかな』
 
 幼い頃から+10歳くらい精神年齢が高かった俺だけど、それでも物心がついたばかりの時は、そんなことを言ってじじいに泣きついたこともあった。
 今となっては完全に黒歴史ではあるけど、当時の俺にとっては、厳しくもどこか温かいじじい共は、暗闇の中に差した一筋の光のような存在だった。

『ああ。そうだな。エド坊。【国境の守護者】になれば、お前は周りの奴らからめちゃくちゃ尊敬されて、慕われるようになるさ』

『お前なら、きっと誰よりも優れた【国境の守護者】になれる。私達が、必ずそう育ててみせる』

 二人は実の両親より、ずっと「家族」のような存在で。
 戦う術だけじゃなく、温もりも、優しさも、一番最初に教えてくれた。
 アストルディアと出会う前の俺にとって、誰よりも大切だった二人。

「……馬鹿なこと言ってねぇで、さっさと殺せ。エド坊。人を殺したことがねぇお前には、何よりの講義だろ……?」

「……私達は半世紀前に、既に死んでるんだ……再びセネーバと戦う機会を待ち望んで、今まで死人のまま生き永らえてきたが……望みが潰えた今、最早生きる意味はない……育てた弟子に殺されて死ねるなら、本望だ」

 ……わかってたよ。あんたらが、そう言う奴らだって。

「……さよなら。師匠」

 剣を掲げたのと同時に、真空波を放つ風魔法を展開して、一瞬で二人同時に絶命させる。

「あんたらのこと、愛してたよ」

 最後に告げた言葉は、死に行く二人に届いただろうか。



 親父の私兵のトップにじじい共の死体を丁重に葬る指示を出すと、俺は領主室にいる親父に事の次第を報告して、自室に戻った。
 親父は俺の顔を見て何か言いたげな顔をしていたが、敢えてそれは気づかないふりをした。
 自室に入るなり、扉に持たれかかるようにして床に崩れ落ちて、鞘に収めた剣と腕輪をかき抱く。
 胸の中には、新たに生まれた闇が渦巻いてたが、闇魔法が暴走する気配はない。
 この胸の苦しさは、闇魔法でもどうにもできないことはわかっていたから。

「……いや、忘却の魔法を使えば、楽にはなるだろうけどな」

 じじい共の存在そのものを忘れてしまえば、この苦しみも全部消えるだろう。
 けどそうすれば、じじい共が命を賭けた最後の講義も、今までの思い出も、全部忘れてしまうわけで。
 どれほど苦しくても、この痛みを覚えていたいと思った。否、覚えてなくてはいけないんだ。
 これは全て、俺の選択の結果なのだから。

「っ」

 不意に左手薬指の指輪が、震えた。
 普段はこんな時間に連絡なんか来ないのに、どういうことだろう。
 少し悩んだ末に、指輪に魔力を流し込んで、通話できるようにする。

『……エディ、今話してもいいか』

「構わないけど……どうした?」

 昨日の収穫祭で領民に結婚のことを話すことは伝えていたが、今日じじい共と戦うだろうことは黙っていた。これはあくまで内輪の問題で、アストルディアに伝える必要はないと思ってたから。
 だから、アストルディアは今俺がどんな状態かなんて、知るはずがないのだけど。

『ーーお前が、泣いている気がしたから』

 ……なんで、お前にはわかってしまうんだろうな。

「アスティ……今日、俺さ。生まれて初めて、人を殺したよ」

 




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