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救いの手①
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自分で脱獄することは、叶わない。
見張りの兵やヴィダルスの扇動も、懐柔も失敗した。
囚われの姫君のように、ただ誰かが助けにきてくれるのを待つしかない状況に、目の前が真っ暗になる。
運命は、刻一刻と原作へと近づいていっているというのに。
「……いや、まだチャンスはある」
女王が、【隷属の首輪】の主の権限をヴィダルスに譲る時、それまでの命令は一時的にキャンセルされる可能性は高い。その一瞬の隙を使って、逃亡することはできないだろうか。
……いや、魔法自体は命令なしでも首輪に封じられていることを考えたら、当然転移魔法も行使できないから、結局は同じことか。主からの命令は、どれくらい距離があれば首輪に反映されなくなるのかはわからないけど、少なくとも走ってヴィダルスから逃げられる距離では無理だろう。
待てよ。ヴィダルスが命令を口にする前に急いで窓から飛び降りれば、俺の意思に関係なく重力が働いてくれるからワンチャンいけるか? いや、でもそれはそれ【自傷】とみなされて、首輪から止められる可能性はあるな。
今後のことをシミュレーションすればするほど、どんどん瞼が重くなり、頭の中が霞がかっていく。……もっともっと色々考えて足掻けるだけ足掻きたいに、首輪はそれすら許してくれない。
とうとう耐えきれなくなって、糸が切れたかのようにヴィダルスが持って来たふとんに突っ伏した俺は、そのまま眠りの淵に転がり落ちて行った。
「……さま……エド様、起きて……」
ーーああ、懐かしい声がする。
実際は先日一度再会しているから、それほど久しぶりってわけじゃないけど、それすらもはや遠い昔に思える。
……あいつらとアホな会話してんの、楽しかったな。
クリスもジェフも、それにブラッドリーも一応友人ではあったけど、あんなアホ話で一緒に笑えるのはあいつらくらいだった。なんか前世で気が合う奴らとゆるーく駄弁ってた時を思い出して、嬉しかったんだよな。
……俺、結局あいつらの前で敬語キャラ崩さなかったな。本性は、それでもうっかり見え隠れしてた気がするけど。
予防線張ったりしないで、普通に話せば良かったな。そしたらもっとあいつらと仲良くなれたかもしれないのに。
「ーーだから、起きてっててば! エド様!」
揺すり起こされ、寝ぼけ眼で確認した声の主に唖然とする。
「……タンク?」
「来ちゃった」
俺の顔を覗き込みながら、にこりと笑うカバの姿は、幻だろうか。
それとも俺はまだ、夢の中にいるのだろうか。
「俺は近衛じゃないけど、どうしてもエド様と二人で話したかったから。仲がいい近衛の人に頼み込んで、特別に牢の中に入れてもらったんだ。ヴィダルス様がいなくなった隙に」
「……それは女王の許可は」
「もちろん、得てるわけないよね。……多分こんなことしてるってバレたら、俺の首飛んじゃうなー。物理的に」
カラカラと笑うタンクの姿は、俺が知るタンクそのもので。だからこそ、胸が締めつけられた。
「……なんで、そんな危険を犯してまで」
「だって、どう考えてもエド様、無実なんだもん。女王陛下やアストルディア王子が鼻が良いのは有名だけど、近衛にも匂いで嘘を見極められる人は何人かいるよ? でも誰も冤罪を訴えるエド様から、嘘の匂いは検知できなかった。そもそもアストルディア王子を王位につける為に、ニルカグル様を暗殺しなきゃって考え自体がおかしいんだ。おじいちゃんになって弱ったニルカグル様には、かつてのような発言力はないし、そもそも本気でアストルディア王子が王位を欲しがってたなら、女王陛下と決闘して玉座を奪えば良かっただけなんだからさ」
「……え?」
「獣人は、力を何より重視するから。たとえかつての英雄であっても、年を取って力をなくせば権力は振るえなくなるし、力さえあれば正当な理由がなくても玉座は奪える。だからね。本気でアストルディア王子やエド様がニルカグル様を殺したと思っている獣人は、ほとんどいないんだ。みんな、番を亡くした女王陛下が、おかしくなったと思っている。それなのに……こんなの、ひどすぎるよ」
そう言ってタンクは、くしゃりと顔を歪めた。
「昨日の夜ね……アンゼが、俺に泣きついてきたんだ。女王陛下の命令には逆らえない。でも、こんなの間違ってるって」
「アンゼが?」
「うん……無実だとわかってて、開戦の為だけにエド様の故郷を滅ぼしたくなんかないってさ」
見張りの兵やヴィダルスの扇動も、懐柔も失敗した。
囚われの姫君のように、ただ誰かが助けにきてくれるのを待つしかない状況に、目の前が真っ暗になる。
運命は、刻一刻と原作へと近づいていっているというのに。
「……いや、まだチャンスはある」
女王が、【隷属の首輪】の主の権限をヴィダルスに譲る時、それまでの命令は一時的にキャンセルされる可能性は高い。その一瞬の隙を使って、逃亡することはできないだろうか。
……いや、魔法自体は命令なしでも首輪に封じられていることを考えたら、当然転移魔法も行使できないから、結局は同じことか。主からの命令は、どれくらい距離があれば首輪に反映されなくなるのかはわからないけど、少なくとも走ってヴィダルスから逃げられる距離では無理だろう。
待てよ。ヴィダルスが命令を口にする前に急いで窓から飛び降りれば、俺の意思に関係なく重力が働いてくれるからワンチャンいけるか? いや、でもそれはそれ【自傷】とみなされて、首輪から止められる可能性はあるな。
今後のことをシミュレーションすればするほど、どんどん瞼が重くなり、頭の中が霞がかっていく。……もっともっと色々考えて足掻けるだけ足掻きたいに、首輪はそれすら許してくれない。
とうとう耐えきれなくなって、糸が切れたかのようにヴィダルスが持って来たふとんに突っ伏した俺は、そのまま眠りの淵に転がり落ちて行った。
「……さま……エド様、起きて……」
ーーああ、懐かしい声がする。
実際は先日一度再会しているから、それほど久しぶりってわけじゃないけど、それすらもはや遠い昔に思える。
……あいつらとアホな会話してんの、楽しかったな。
クリスもジェフも、それにブラッドリーも一応友人ではあったけど、あんなアホ話で一緒に笑えるのはあいつらくらいだった。なんか前世で気が合う奴らとゆるーく駄弁ってた時を思い出して、嬉しかったんだよな。
……俺、結局あいつらの前で敬語キャラ崩さなかったな。本性は、それでもうっかり見え隠れしてた気がするけど。
予防線張ったりしないで、普通に話せば良かったな。そしたらもっとあいつらと仲良くなれたかもしれないのに。
「ーーだから、起きてっててば! エド様!」
揺すり起こされ、寝ぼけ眼で確認した声の主に唖然とする。
「……タンク?」
「来ちゃった」
俺の顔を覗き込みながら、にこりと笑うカバの姿は、幻だろうか。
それとも俺はまだ、夢の中にいるのだろうか。
「俺は近衛じゃないけど、どうしてもエド様と二人で話したかったから。仲がいい近衛の人に頼み込んで、特別に牢の中に入れてもらったんだ。ヴィダルス様がいなくなった隙に」
「……それは女王の許可は」
「もちろん、得てるわけないよね。……多分こんなことしてるってバレたら、俺の首飛んじゃうなー。物理的に」
カラカラと笑うタンクの姿は、俺が知るタンクそのもので。だからこそ、胸が締めつけられた。
「……なんで、そんな危険を犯してまで」
「だって、どう考えてもエド様、無実なんだもん。女王陛下やアストルディア王子が鼻が良いのは有名だけど、近衛にも匂いで嘘を見極められる人は何人かいるよ? でも誰も冤罪を訴えるエド様から、嘘の匂いは検知できなかった。そもそもアストルディア王子を王位につける為に、ニルカグル様を暗殺しなきゃって考え自体がおかしいんだ。おじいちゃんになって弱ったニルカグル様には、かつてのような発言力はないし、そもそも本気でアストルディア王子が王位を欲しがってたなら、女王陛下と決闘して玉座を奪えば良かっただけなんだからさ」
「……え?」
「獣人は、力を何より重視するから。たとえかつての英雄であっても、年を取って力をなくせば権力は振るえなくなるし、力さえあれば正当な理由がなくても玉座は奪える。だからね。本気でアストルディア王子やエド様がニルカグル様を殺したと思っている獣人は、ほとんどいないんだ。みんな、番を亡くした女王陛下が、おかしくなったと思っている。それなのに……こんなの、ひどすぎるよ」
そう言ってタンクは、くしゃりと顔を歪めた。
「昨日の夜ね……アンゼが、俺に泣きついてきたんだ。女王陛下の命令には逆らえない。でも、こんなの間違ってるって」
「アンゼが?」
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