俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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狼獣人の業②

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「ハッ……そもそも相容れてぇと思ったことすらねぇよ。物心ついた時からずっと、俺はお前が大嫌いで、いつか必ず殺すつもりだったからなァ」

 唸り声をあげて、睨み合う二人。
 飛びかかったのは、恐らく同時だった。

 無属性は本来なら相手の攻撃を無効化するが、力が拮抗する同じ無属性持ちが相手の場合は、効果が相殺される。
 目視するのさえ大変な凄まじい速さなことを除けば、始まったのはまさに野生の獣同士の殺し合いだった。

「クソがっ! 大人しく、喉笛噛み切られとけよ!」

「それはこっちの台詞だ。ヴィダルス。お前、やはり今まで実力を隠していたな。……小賢しい」

「本気っつーのは、ここぞという時に出すもんなんだよ!」

 ヴィダルスがアストルディアと対等に渡り合っている姿に、俺が奴のことを過小評価していたとを否応なく実感させられる。
 勝つ自信があったからこそ、もしあの時アストルディアがやって来なかったら今頃……想像しただけで、ゾッとした。

 二体の獣が交差する度、互いの体に傷が刻まれていく。
 アストルディアを擁護すべきか迷ったが、結局俺はただその戦いを見ていることしかできなかった。
 二人の勝負を、邪魔してはいけない気がして。

 ……おかしな、話だ。
 本来なら間接的にヴィダルスを殺すのは俺の役割で、俺を殺すのがアストルディアの役割だったはずなのに。
 俺を蚊帳の外に、運命の宿敵にように、二人が殺しあっているのだから。

 ヴィダルスは強かった。恐らく、俺よりも強かった。

 ーーけれど、やっぱり、アストルディアはもっと強かった。

「っくそっ……」

 徐々に徐々に、ヴィダルスの体の傷の方が数を増していき、動きが少しずつ 鈍っていく。
 不意に、ヴィダルスの黒い瞳が俺に向いた。

「っぐぅぅぅっ!」

 ヴィダルスが俺の方に来るよりも、俺の方に意識が逸れたヴィダルスをアストルディアの爪が引き裂く方が速かった。
 宙に浮いたヴィダルスの体は、先ほどのアンゼのように地面に叩きつけられ、ぐったりと動かなくなる。

「……終わったぞ。エディ」

 白銀の毛皮を朱に染めたアストルディアは、再び人化姿を取りながらそう言って、荒い息を整えた。
 毛皮がなくなった分、その無残な傷が露わになる。

「っアスティ! 今、聖魔法で怪我の治療するからっ」

「無駄だ。エディ。全力の無属性の攻撃で作った怪我は、魔法ではけして癒せない。……もっともそれは、ヴィダルスも同じだがな」

「……あ……」

 つまり、俺がどれだけ聖魔法を駆使しようが、もう手遅れだと言うことだ。
 アストルディアの爪による傷は、魔法なしでは治癒できないくらいの明らかな致命傷。
 ヴィダルスは、もう助からない。

「……エド……ード……」

 瀕死のヴィダルスが、掠れた声で俺を呼ぶ。
 亜空間収納から取り出したポーションをアストルディアの傷口にふりかけてから、ヴィダルスのもとに行こうとする俺を、アストルディアが引き止めた。

「行くな。エディ」

「ポーションを使うつもりはない。……あの傷じゃ、使った所で助からない」

「なら、よけい行くな。あれはまだ、生きている」

「…………」

 そうだな。あいつなら、ついでに俺を道連れにしようとする可能性が高い。
 傍に行かない方が、賢明だろう。……でも。

「ごめん。アスティ。行かせてくれ。俺は自分の選択の結果を、見届けないといけないんだ」

 きっと、最期にもう一度だけ、ヴィダルスと話さなければ俺は一生後悔するから。
 俺はお前の手を振り切ってでも、ヴィダルスの所に行くよ。アスティ。

 掴んで来た手をゆっくり振りほどくと、アストルディアはひどく苦い表情を浮かべたけどそれ以上は止めなかった。
 念の為周囲に結界を張って……もっともヴィダルスなら破れる可能性も高いが……虫の息のヴィダルスに近づいていく。
 真っ黒な瞳が、すぐ近くでしゃがみ込む俺を捉えた。

「……ざまぁねぇな。ヴィダルス。だから忠告したんだ。俺に入れ込んだら、破滅するって」

 ヴィダルスの口元が、わずかに緩む。

「……よりによって、死にかけの俺に対する第一声がそれかよ……お前の為に命を賭けたんだから、もっと惜しんでくれていいんじゃねぇの……?」

「頼んでねぇどころか、俺にデメリットしかねぇことで、命賭けられてもな。……本当、馬鹿だよ。お前は」
 

 
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