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アンゼベルグ
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「……結局最期の最期まで、お前のこと、理解できなかったな」
満ち足りた顔で死んでる黒い狼の首を拾いながら、ため息を吐く。
もし出会い方が違ったら。お前を一番に考えることができる未来もあったのだろうか。……いや、俺がエドワード・ネルドゥースである限り、不可能だな。物心ついた時から、俺の一番はランドルーク辺境伯領で、けしてそれは揺るがなかったから。
原作のように特別な共犯関係こそ築けても、俺が俺である限り、ヴィダルスに同じものは返せなかっただろう。
首に付いていた泥汚れを払い、亜空間に収納する。
ヴィダルスはランドルーク家の末子で、王族。しかも今回の出撃は、女王陛下の命令に従った結果だ。せめて遺体くらいはランドルーク家に持って帰らなければ、義理が立たない。
遅れて倒れ伏している体も収納して、惨劇の後を見渡す。
……ヴィダルスの部下の死体も持ち帰るべきだろうが、まだ生死不明の状態だしな。
それよりもまず、最優先すべきなのは。
戦闘に巻き込まれないように隅に避難させていた、小さな茶色の塊を抱き上げ、その耳に囁く。
「……おい。アンゼ。全部終わったぞ。いつまで気絶してんだ」
俺の聖魔法は、即死の場合以外は有効だ。
そして聖魔法では、死体についた傷を癒やすことはできない。
ヴィダルスが本気で無属性の力を使っていれば、即死じゃなくても傷を癒やすことはできなかっただろうが、現在アンゼの体には傷はない。
つまりは、そういうことなのだ。……そういうこと、だよな? 呼びかけても、全く起きる気配ないんだが。
「っだから、いい加減目を覚ませって!」
「…………っぴゃっ!!!」
気付けくらいの威力で、雷魔法を流すと、腕の中のアンゼが黒ひ◯危機一髪のようにピョーンっと飛び出した。
「うわあああ! 俺、死んだ! 殺された! こ、ここが天国……って、え? え? え?」
パニックを起こしながら、辺りを走り回っていたアンゼが、キョトンとした表情で俺を見る。
「……エド様がいる。……え、エド様まで、死んじゃったの?」
「生きてるよ。馬鹿……」
「ぐえっ!」
ぬいぐるみのように小さな体を、思わず力加減も忘れて抱き潰した。
……良かった。やっぱり、生きてた。
アンゼが、生きてた。
「……無茶しやがって……ヴィダルスの爪がもう少しズレてたら、今頃本当に死んでたかもしれないんだぞ」
本当にただ、幸運だった。
ヴィダルスの爪が心臓を貫いてたら、即死だったかもしれないし、何より本気の無属性で攻撃してたら、アンゼは今頃この世にはいなかった。
そう思ったら、涙が止まらなかった。
もし、アンゼがいなかったら。タンクが俺を救出に来ることはなかった。
タンクがいなかったら、俺は今も牢の中にいたし。
ポンダーがいなければ、ヒュールデリドに捕まって、カーディンクルから首輪を外してもらうことができなかったかもしれない。
前世妹の書いた原作小説には存在しなかった、アン・ポン・タン。
もし運命が変えられたなら、この三人がいたからだ。
三人が俺を友だと思ってくれたからだ。
「……ありがとう……ありがとう、アンゼ……俺、お前と友達になれて良かったよ」
返しきれない恩に泣きじゃくる俺を、アンゼは黒い目をまん丸にした。
「……エド様、そんな口調だっけ?」
「……そうだよ。忘れたか?」
「あれー? 敬語キャラだった気ぃしたんだけど。まぁ、いっか。そっちのが、エド様に似合うし」
……友達の為に死にかけても、アンゼはアンゼだな。呆れ通りこして、本気で癒されるわ。
「そういや、俺の部隊の人達って……」
「……ごめんな。全員俺が殺しちまった」
ヴィダルスが殺した奴もいたが、それは敢えて言わないでいいだろう。
俺にとっては敵でも、アンゼにとっては同僚だった奴らだ。アンゼは少しだけショックを受けたような顔をした後、ぎゅっと目をつぶった。
「……そっか……」
「ごめん。アンゼ。お前が親しかった奴もいただろ」
「それは大丈夫。基本、選ばれた奴って大型肉食獣至上主義の奴らばっかだったからさ。俺みたいな、小型種は馬鹿にされてたし。全然仲良くなんかねーんだ。仲良くなんかなかったんだけど……」
少しだけ黙り込んだ後、アンゼは泣きそうな顔で笑った。
「……やっぱり知り合いが死ぬって、それだけで悲しいわ。エド様が死んでた方が、もっとずっと悲しかったろうから、後悔なんかしてねーけどさ」
……本当に、俺はアンゼにどれだけのものを返せるだろうか。
俺との友情の為に、同僚を裏切ることを選んでくれたアンゼに。
タンクも同じだけど、少なくともタンクの場合は同僚は死んでない。
俺のせいで、アンゼに負わせてしまったものは、あまりに重かった。
「……いつか必ず、この恩は返すよ。アンゼ」
「気にすんなよ。エド様。ダチだろ! ……でも、そうだな。恩を返してくれるって言うなら」
ニィっと歯を出して、アンゼが笑う。
「平和な国を作ってくれよ。戦争なんかしなくても、みんな安心して生きられる国を、アストルディア様と作ってくれ。そしたら俺は、自分の選択を間違ってなかったと思えるから」
「……ああ、必ず」
「あと、またエド様の飯を食べたい!」
「いくらでも作るよ」
満ち足りた顔で死んでる黒い狼の首を拾いながら、ため息を吐く。
もし出会い方が違ったら。お前を一番に考えることができる未来もあったのだろうか。……いや、俺がエドワード・ネルドゥースである限り、不可能だな。物心ついた時から、俺の一番はランドルーク辺境伯領で、けしてそれは揺るがなかったから。
原作のように特別な共犯関係こそ築けても、俺が俺である限り、ヴィダルスに同じものは返せなかっただろう。
首に付いていた泥汚れを払い、亜空間に収納する。
ヴィダルスはランドルーク家の末子で、王族。しかも今回の出撃は、女王陛下の命令に従った結果だ。せめて遺体くらいはランドルーク家に持って帰らなければ、義理が立たない。
遅れて倒れ伏している体も収納して、惨劇の後を見渡す。
……ヴィダルスの部下の死体も持ち帰るべきだろうが、まだ生死不明の状態だしな。
それよりもまず、最優先すべきなのは。
戦闘に巻き込まれないように隅に避難させていた、小さな茶色の塊を抱き上げ、その耳に囁く。
「……おい。アンゼ。全部終わったぞ。いつまで気絶してんだ」
俺の聖魔法は、即死の場合以外は有効だ。
そして聖魔法では、死体についた傷を癒やすことはできない。
ヴィダルスが本気で無属性の力を使っていれば、即死じゃなくても傷を癒やすことはできなかっただろうが、現在アンゼの体には傷はない。
つまりは、そういうことなのだ。……そういうこと、だよな? 呼びかけても、全く起きる気配ないんだが。
「っだから、いい加減目を覚ませって!」
「…………っぴゃっ!!!」
気付けくらいの威力で、雷魔法を流すと、腕の中のアンゼが黒ひ◯危機一髪のようにピョーンっと飛び出した。
「うわあああ! 俺、死んだ! 殺された! こ、ここが天国……って、え? え? え?」
パニックを起こしながら、辺りを走り回っていたアンゼが、キョトンとした表情で俺を見る。
「……エド様がいる。……え、エド様まで、死んじゃったの?」
「生きてるよ。馬鹿……」
「ぐえっ!」
ぬいぐるみのように小さな体を、思わず力加減も忘れて抱き潰した。
……良かった。やっぱり、生きてた。
アンゼが、生きてた。
「……無茶しやがって……ヴィダルスの爪がもう少しズレてたら、今頃本当に死んでたかもしれないんだぞ」
本当にただ、幸運だった。
ヴィダルスの爪が心臓を貫いてたら、即死だったかもしれないし、何より本気の無属性で攻撃してたら、アンゼは今頃この世にはいなかった。
そう思ったら、涙が止まらなかった。
もし、アンゼがいなかったら。タンクが俺を救出に来ることはなかった。
タンクがいなかったら、俺は今も牢の中にいたし。
ポンダーがいなければ、ヒュールデリドに捕まって、カーディンクルから首輪を外してもらうことができなかったかもしれない。
前世妹の書いた原作小説には存在しなかった、アン・ポン・タン。
もし運命が変えられたなら、この三人がいたからだ。
三人が俺を友だと思ってくれたからだ。
「……ありがとう……ありがとう、アンゼ……俺、お前と友達になれて良かったよ」
返しきれない恩に泣きじゃくる俺を、アンゼは黒い目をまん丸にした。
「……エド様、そんな口調だっけ?」
「……そうだよ。忘れたか?」
「あれー? 敬語キャラだった気ぃしたんだけど。まぁ、いっか。そっちのが、エド様に似合うし」
……友達の為に死にかけても、アンゼはアンゼだな。呆れ通りこして、本気で癒されるわ。
「そういや、俺の部隊の人達って……」
「……ごめんな。全員俺が殺しちまった」
ヴィダルスが殺した奴もいたが、それは敢えて言わないでいいだろう。
俺にとっては敵でも、アンゼにとっては同僚だった奴らだ。アンゼは少しだけショックを受けたような顔をした後、ぎゅっと目をつぶった。
「……そっか……」
「ごめん。アンゼ。お前が親しかった奴もいただろ」
「それは大丈夫。基本、選ばれた奴って大型肉食獣至上主義の奴らばっかだったからさ。俺みたいな、小型種は馬鹿にされてたし。全然仲良くなんかねーんだ。仲良くなんかなかったんだけど……」
少しだけ黙り込んだ後、アンゼは泣きそうな顔で笑った。
「……やっぱり知り合いが死ぬって、それだけで悲しいわ。エド様が死んでた方が、もっとずっと悲しかったろうから、後悔なんかしてねーけどさ」
……本当に、俺はアンゼにどれだけのものを返せるだろうか。
俺との友情の為に、同僚を裏切ることを選んでくれたアンゼに。
タンクも同じだけど、少なくともタンクの場合は同僚は死んでない。
俺のせいで、アンゼに負わせてしまったものは、あまりに重かった。
「……いつか必ず、この恩は返すよ。アンゼ」
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ニィっと歯を出して、アンゼが笑う。
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「いくらでも作るよ」
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