俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
288 / 311

アンゼベルグ

しおりを挟む
「……結局最期の最期まで、お前のこと、理解できなかったな」

 満ち足りた顔で死んでる黒い狼の首を拾いながら、ため息を吐く。

 もし出会い方が違ったら。お前を一番に考えることができる未来もあったのだろうか。……いや、俺がエドワード・ネルドゥースである限り、不可能だな。物心ついた時から、俺の一番はランドルーク辺境伯領で、けしてそれは揺るがなかったから。 
 原作のように特別な共犯関係こそ築けても、俺が俺である限り、ヴィダルスに同じものは返せなかっただろう。

 首に付いていた泥汚れを払い、亜空間に収納する。
 ヴィダルスはランドルーク家の末子で、王族。しかも今回の出撃は、女王陛下の命令に従った結果だ。せめて遺体くらいはランドルーク家に持って帰らなければ、義理が立たない。
 遅れて倒れ伏している体も収納して、惨劇の後を見渡す。

 ……ヴィダルスの部下の死体も持ち帰るべきだろうが、まだ生死不明の状態だしな。
 それよりもまず、最優先すべきなのは。

 戦闘に巻き込まれないように隅に避難させていた、小さな茶色の塊を抱き上げ、その耳に囁く。

「……おい。アンゼ。全部終わったぞ。いつまで気絶してんだ」

 俺の聖魔法は、即死の場合以外は有効だ。
 そして聖魔法では、死体についた傷を癒やすことはできない。
 ヴィダルスが本気で無属性の力を使っていれば、即死じゃなくても傷を癒やすことはできなかっただろうが、現在アンゼの体には傷はない。
 つまりは、そういうことなのだ。……そういうこと、だよな? 呼びかけても、全く起きる気配ないんだが。

「っだから、いい加減目を覚ませって!」

「…………っぴゃっ!!!」

 気付けくらいの威力で、雷魔法を流すと、腕の中のアンゼが黒ひ◯危機一髪のようにピョーンっと飛び出した。

「うわあああ! 俺、死んだ! 殺された! こ、ここが天国……って、え? え? え?」

 パニックを起こしながら、辺りを走り回っていたアンゼが、キョトンとした表情で俺を見る。

「……エド様がいる。……え、エド様まで、死んじゃったの?」

「生きてるよ。馬鹿……」

「ぐえっ!」

 ぬいぐるみのように小さな体を、思わず力加減も忘れて抱き潰した。
 ……良かった。やっぱり、生きてた。
 アンゼが、生きてた。

「……無茶しやがって……ヴィダルスの爪がもう少しズレてたら、今頃本当に死んでたかもしれないんだぞ」

 本当にただ、幸運だった。
 ヴィダルスの爪が心臓を貫いてたら、即死だったかもしれないし、何より本気の無属性で攻撃してたら、アンゼは今頃この世にはいなかった。
 そう思ったら、涙が止まらなかった。

 もし、アンゼがいなかったら。タンクが俺を救出に来ることはなかった。
 タンクがいなかったら、俺は今も牢の中にいたし。
 ポンダーがいなければ、ヒュールデリドに捕まって、カーディンクルから首輪を外してもらうことができなかったかもしれない。

 前世妹の書いた原作小説には存在しなかった、アン・ポン・タン。
 もし運命が変えられたなら、この三人がいたからだ。
 三人が俺を友だと思ってくれたからだ。

「……ありがとう……ありがとう、アンゼ……俺、お前と友達になれて良かったよ」

 返しきれない恩に泣きじゃくる俺を、アンゼは黒い目をまん丸にした。

「……エド様、そんな口調だっけ?」

「……そうだよ。忘れたか?」

「あれー? 敬語キャラだった気ぃしたんだけど。まぁ、いっか。そっちのが、エド様に似合うし」

 ……友達の為に死にかけても、アンゼはアンゼだな。呆れ通りこして、本気で癒されるわ。

「そういや、俺の部隊の人達って……」

「……ごめんな。全員俺が殺しちまった」

 ヴィダルスが殺した奴もいたが、それは敢えて言わないでいいだろう。
 俺にとっては敵でも、アンゼにとっては同僚だった奴らだ。アンゼは少しだけショックを受けたような顔をした後、ぎゅっと目をつぶった。

「……そっか……」

「ごめん。アンゼ。お前が親しかった奴もいただろ」

「それは大丈夫。基本、選ばれた奴って大型肉食獣至上主義の奴らばっかだったからさ。俺みたいな、小型種は馬鹿にされてたし。全然仲良くなんかねーんだ。仲良くなんかなかったんだけど……」

 少しだけ黙り込んだ後、アンゼは泣きそうな顔で笑った。

「……やっぱり知り合いが死ぬって、それだけで悲しいわ。エド様が死んでた方が、もっとずっと悲しかったろうから、後悔なんかしてねーけどさ」 

 ……本当に、俺はアンゼにどれだけのものを返せるだろうか。
 俺との友情の為に、同僚を裏切ることを選んでくれたアンゼに。
 タンクも同じだけど、少なくともタンクの場合は同僚は死んでない。
 俺のせいで、アンゼに負わせてしまったものは、あまりに重かった。

「……いつか必ず、この恩は返すよ。アンゼ」

「気にすんなよ。エド様。ダチだろ! ……でも、そうだな。恩を返してくれるって言うなら」

 ニィっと歯を出して、アンゼが笑う。

「平和な国を作ってくれよ。戦争なんかしなくても、みんな安心して生きられる国を、アストルディア様と作ってくれ。そしたら俺は、自分の選択を間違ってなかったと思えるから」

「……ああ、必ず」

「あと、またエド様の飯を食べたい!」

「いくらでも作るよ」



しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...