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彼女の動機
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その瞬間、エルディア女王の美しい仮面が崩れ落ち、その表情が絶望に染まった。
震える唇で彼女が言葉を発する前に、白くふわふわしたものが天井の穴から降ってくる。ーーまっすぐ、アストルディアに向かって。
「【風よ、運べ。我がもとに】」
詠唱と共に室内で起こった突風が、落ちてきた塊の軌道をずらした。
手を伸ばして、潰さないように気をつけながらそれを握った途端、掌に焼かれるような傷みが走る。即座に解毒の魔法陣を描き、傷みの原因ごと浄化した。
「……今度はヒドラの毒ですか。俺が毒が回りにくい聖属性持ちじゃなければ、解毒の聖魔法も間に合わずに死んでましたよ。この毒も、デワリュセの樹液同様、王家の宝物庫から持ち出したのですか? ルルーさん」
針を両手に握った白いネズミは、俺の手の中で悔しそうに暴れた。
セネーバ王家の宝物庫に、リシス王国からしか手に入らないと言われていたデワリュセの樹液の毒が保管されていたことは、アストルディアに確認済みだ。そして宝物庫の鍵は、エルディア女王が管理していたことも。
エルディア女王の身の回りの世話をただ一人で担っていた彼女なら、鍵を持ちだすことも可能だっただろう。
ニルカグルは魔力の匂いに敏感ではあったが、ネズミ獣人であるルルーさんの魔力は、人化もできないくらい少ない。眠っている時に近づかれたならば、老いた獅子の鼻では恐らく気づくことはできなかったはずだ。護衛の王宮兵もまた、天井裏に潜む弱く小さな魔力の持ち主を、一切警戒していなかった。
ネズミが獅子を殺すなど、天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたのだろう。
「ーー何故、ここにいるの、ルルー! すぐに、この大陸から出て行きなさいと言ったのにっ!!!」
すっかり演技ができなくなった女王が、金切り声で叫んだ。
「……大丈夫か。エディ。すまない。俺を庇ったせいで、毒を負わせてしまった」
「浄化したから、大丈夫だよ。アスティ。……もっとも、俺が庇わなかったとしても、無属性のアスティなら大丈夫だったかもしれないけど」
ぎりと歯を食いしばったアストルディアが、俺の手の中のルルーさんを冷たい眼差しで睨む。
「……母を慕っている貴女が、父を憎んでいることも、俺や兄を嫌っていることも知っていた。だが、まさかこのような愚かな真似をするとは」
「……貴方が言うのですか。アストルディア殿下。私に、ニルカグル暗殺を決意させたのは、他でもない貴方なのに」
観念したように暴れるのをやめたルルーさんは、俺の手の中からアストルディアを睨み返した。
「……俺が」
「ええ、そうです。結婚式の時、貴方はよりにもよってアルデフィア王と同じデザインの衣装を纏い、エドワード様にもエレナ姫のドレスを身につけさせましたね。あれを見た時に、私は貴方達に罪を着せて、ニルカグルを殺害することを決意したんです」
「っそんなことで」
「そんなことでと、言える貴方だから憎いのよっ! 両親に愛されずに育ったエルが、息子にそんな真似をされて傷つかないと思ったのっ!」
ルルーさんは憎悪を露わに、歯を剥きだしにした。
「エルを番にしたのに、アルデフィアアルデフィアと、エルを一度も愛さなかったニルカグルは、誰より憎いし、ずっと殺したいと思ってたわ。でも、貴方もカーディンクルも、アルデフィアもエレナも大嫌い! みんなみんな、エルにばかり負担を強いて、エルを傷つけてきたのだもの! 女王として生きる為に、エルがどれだけ自分を犠牲にして来たと思ってるの? それなのに誰もエルに寄り添うことはなく、ただただ自分と番のことばかり。その癖、エルからは愛されてるのよ……誰よりもずっと、傍でエルのことを愛してきた私は、エルから愛してもらえないのに」
ルルーさんの黒い瞳から、ぼろぼろと涙が溢れ落ちる。
「ネズミ獣人である私は、狼獣人のように貞淑な種族でないわ。魔力相性が影響されにくい繁殖力だけが取り柄だから、借り腹として生計を立てている人だって少なくない。……それでも、私はずっとエルだけを愛し続けてたの。誰にも体を許すことなく、いつかエルの子を産むことだけを望み続けていたの。分不相応な想いだと、わかっていたけれど、諦められなかった」
震える唇で彼女が言葉を発する前に、白くふわふわしたものが天井の穴から降ってくる。ーーまっすぐ、アストルディアに向かって。
「【風よ、運べ。我がもとに】」
詠唱と共に室内で起こった突風が、落ちてきた塊の軌道をずらした。
手を伸ばして、潰さないように気をつけながらそれを握った途端、掌に焼かれるような傷みが走る。即座に解毒の魔法陣を描き、傷みの原因ごと浄化した。
「……今度はヒドラの毒ですか。俺が毒が回りにくい聖属性持ちじゃなければ、解毒の聖魔法も間に合わずに死んでましたよ。この毒も、デワリュセの樹液同様、王家の宝物庫から持ち出したのですか? ルルーさん」
針を両手に握った白いネズミは、俺の手の中で悔しそうに暴れた。
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ニルカグルは魔力の匂いに敏感ではあったが、ネズミ獣人であるルルーさんの魔力は、人化もできないくらい少ない。眠っている時に近づかれたならば、老いた獅子の鼻では恐らく気づくことはできなかったはずだ。護衛の王宮兵もまた、天井裏に潜む弱く小さな魔力の持ち主を、一切警戒していなかった。
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「ーー何故、ここにいるの、ルルー! すぐに、この大陸から出て行きなさいと言ったのにっ!!!」
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ぎりと歯を食いしばったアストルディアが、俺の手の中のルルーさんを冷たい眼差しで睨む。
「……母を慕っている貴女が、父を憎んでいることも、俺や兄を嫌っていることも知っていた。だが、まさかこのような愚かな真似をするとは」
「……貴方が言うのですか。アストルディア殿下。私に、ニルカグル暗殺を決意させたのは、他でもない貴方なのに」
観念したように暴れるのをやめたルルーさんは、俺の手の中からアストルディアを睨み返した。
「……俺が」
「ええ、そうです。結婚式の時、貴方はよりにもよってアルデフィア王と同じデザインの衣装を纏い、エドワード様にもエレナ姫のドレスを身につけさせましたね。あれを見た時に、私は貴方達に罪を着せて、ニルカグルを殺害することを決意したんです」
「っそんなことで」
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