処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ

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連載2

神との戦い23

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 兄様の言葉に、予言者は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

「【人を作った神】は、そんな親切なことはしませんよ。彼は気まぐれに、現状から導き出される可能性を掲示してみせることで、私や私の予言に振り回される人間の姿を観測して楽しんでいるのですから。私もあなたたちも、【人を作った神】にとっては等しくただの玩具に過ぎません。……まあ、向こうからは直接的な干渉はできないというのが、救いと言えば救いですが」

 初めて会った時、予言者は身勝手で残酷な神を信奉していないと言っていたことを思い出す。
 あの時は彼自身も神の一種だなんて思いもしなかったけど、あの言葉自体には嘘はなかったのだと今確信することができた。
 【人を作った神】は予言者の味方ではなく、予言者自身も【人を作った神】を憎んでいる。
 ならきっと、【人を作った神】の名のもとに行われたきこの契約自体には、嘘はないのだろう。

 嘘がないとしたらーー

「ーー兄様、こんな契約なんかしなくてもいいよ」

 驚いたように私を見た兄様に、場違いなくらい明るい表情で微笑みかける。
 兄様の記憶に残る私の顔が、できるだけ綺麗なものであることを祈りながら。

「私、もう十分だから。兄様がこうやって私を助けに来てくれて、最後にこうやってもう一度会えただけで、もう十分過ぎるくらい幸せだから。……だから兄様は一人でここを脱出して」

 あの時、一緒に死ねてたらなんて思いもしたけど。

 兄様ならきっと助けに来てくれるなんて、駄々をこねたりしたけど。

 もう十分だ。もう私は兄様から十分過ぎるくらいのものをもらった。
 これだけもらったのだから、後はもう、もらったものを大切に握りしめて、笑って死ぬことができる。

「ねえ、予言者。私、今ならあなたとの心中だって受け入れられるよ。だから……もし兄様が賭けに乗らないで一人で帰る決断をしたなら、兄様を安全に大聖堂から脱出させてくれる?」

 突然私に名指しをされた予言者は、少し驚いたように目を見開いたあと、すぐに口の片端を吊り上げて笑った。

「ええ、もちろん。……傷一つなくお返ししますよ。あなたが最後に私だけを見ると、約束してくださるなら」

 言質はとった。
 これでもう、兄様は安全だ。

「ほら、兄様。予言者もこう言ってくれた。……ねえ、兄様。兄様は私の為なら命を捨てられるって言ってくれたけど、不老不老になるのはまた別の話だよ。兄様が人間をやめて、途方もない年月を孤独で苦しまないといけないなんて、私は絶対いや。私の命に、そんな価値はないよ。どうか兄様は私を忘れて人間のまま生きて。人間として幸せになって」

「…………」

 兄様はしばらく難しい顔で、黙り込んでいたけど。

「………馬鹿だな、ディアナ」

 不意に優しい笑みを浮かべると、迷いなく宙に浮いたままの羽根ペンを握りしめーー

「お前がいない未来に、俺の幸福なんかあるはずないだろう?」

「っ兄様! だめっ!」

 ーー止める私の声を無視して、あっさりと羊皮紙にサインを書き込んでしまったのだった。
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