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第1章 異変
転校生の疑念
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始業式が行われている体育館にて。
広いステージ上では、校長が立派に生やした髭を時々なでながら、やたらと長い話を続けていた。
それをまともに聞く生徒はいない。
休み明けというのも重なって、大半の生徒が半分眠っているような状態になっていた。
何人かの体が、ふらふらと危なげに揺れる。
実も、その例外ではなかった。
(はあ……ねむ……)
眠気をこらえながら、ぼんやりと前を見る。
しばらくはそうやって努力していたが、ふとした瞬間に眠気に負けそうになり、無意識にうつむいてしまっていた。
最近ずっと寝不足な自分にとっては、校長の長ったらしい話が子守唄のように聞こえてならない。
ふと目を閉じると、それだけで心地よい微睡みに引き込まれそうになった。
周りの音も、一気に遠退いてしまう。
「まずい……」
一人で呟く。
まるで、船に揺られているかのような気分だ。
おそらくは錯覚であろう揺れが、意識を眠りの海へ誘う。
そんな中、またあの声が―――
…………おいで
誰もその声に反応しない。
実も、それに反応できるほどの気力はなかった。
ただ無為に、声が木霊する。
……おいで……こっちに…………こっちにおいで……
ずっと声を聞いているうちに、だんだんと意識が声の方に引きずられる。
まるでそれが自然な流れであるかのように、ゆっくりと声に近付いていく。
そう……そのまま、何も考えないで……こっちに……
「―――っ!!」
その時、実は急に我に返る。
体中を支配するのは、夢から覚めたような気だるさだ。
「え…?」
慌てて前を向いて状況確認。
壇上では相変わらず校長の話が続いているし、時計で時間を確認したところ、さっきから数分しか経っていない。
それにほっと一息ついて、ようやく自分の手が後ろから掴まれていることに気がつく。
驚いて後ろを向くと、転校生がこちらの手をしっかりと握っていた。
その表情は、何故か緊迫した焦りに満ちている。
「……村田?」
「あ……悪い。」
首を傾けると、拓也はさっと手を離す。
「ふらふらしてたから、調子が悪いのかと思って。」
「げ…っ。マジ?」
ぎょっとして訊ねると、拓也は無言で頷いた。
(しっかりしろって、俺……)
内心でそう叱咤しながら、実はぎこちない笑顔を拓也に向けた。
「そっか。ありがとう。最近、ちょっと寝不足でさ。疲れが出てるみたい。」
「気をつけろよ?」
拓也が気遣わしげに言ってくる。
そんな拓也を見て、実は肩の力を抜いて自然な微笑みを浮かべた。
教室での出来事のせいで妙に肩に力が入っていたけど、冷静に考えれば、妙な親近感があるからといって彼を警戒する必要はないじゃないか。
拓也にもう一度礼を言ってから、実は彼に背を向ける。
それから少し時間を置いて、拓也に気付かれないように溜め息を一つ。
この気持ち悪い感覚。
またあの夢を見たのかもしれない。
―――でも、なんだか腑に落ちない。
今は寝ていたわけではなかった。
確かに微睡んではいたけれど、ぼんやりとした意識の中でも校長の話は聞こえていたし、その内容だって覚えているのだ。
この状況で校長の話は覚えていて、夢の内容だけ覚えていないなんて、そんなことがあります?
それに、今回は夢の最後に聞く〝だめだ〟という声も聞こえなかったし……
体が訴える疲労感と靄のかかった意識はあの夢を見たことを示しているのに、心は体の訴えに納得できなくて気持ち悪い。
(やっぱ、疲れてるのかな…?)
実は、静かに目を伏せた。
「………」
そんな実の後ろで、拓也もまた深刻そうな表情で床を睨んでいた。
紙のように白くなった手で、額に浮いた汗を拭う。
(やっぱり、そうなのか…?)
自分が見知ったものと同じ残滓を感じて、拓也は実の手を掴んだ己の手を握り締める。
初めて実を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
思い起こされる過去の出来事。
たまたまあの人と一緒にいたから聞くはめになった、とある啓示。
どうせ他人事だと思って特に気にもしていなかったのに、こんな偶然があるのか?
他人の空似。
そういうことで済ませようと思っていたのに……
(向こうから呼ばれているってことは、やっぱりこいつは―――)
広いステージ上では、校長が立派に生やした髭を時々なでながら、やたらと長い話を続けていた。
それをまともに聞く生徒はいない。
休み明けというのも重なって、大半の生徒が半分眠っているような状態になっていた。
何人かの体が、ふらふらと危なげに揺れる。
実も、その例外ではなかった。
(はあ……ねむ……)
眠気をこらえながら、ぼんやりと前を見る。
しばらくはそうやって努力していたが、ふとした瞬間に眠気に負けそうになり、無意識にうつむいてしまっていた。
最近ずっと寝不足な自分にとっては、校長の長ったらしい話が子守唄のように聞こえてならない。
ふと目を閉じると、それだけで心地よい微睡みに引き込まれそうになった。
周りの音も、一気に遠退いてしまう。
「まずい……」
一人で呟く。
まるで、船に揺られているかのような気分だ。
おそらくは錯覚であろう揺れが、意識を眠りの海へ誘う。
そんな中、またあの声が―――
…………おいで
誰もその声に反応しない。
実も、それに反応できるほどの気力はなかった。
ただ無為に、声が木霊する。
……おいで……こっちに…………こっちにおいで……
ずっと声を聞いているうちに、だんだんと意識が声の方に引きずられる。
まるでそれが自然な流れであるかのように、ゆっくりと声に近付いていく。
そう……そのまま、何も考えないで……こっちに……
「―――っ!!」
その時、実は急に我に返る。
体中を支配するのは、夢から覚めたような気だるさだ。
「え…?」
慌てて前を向いて状況確認。
壇上では相変わらず校長の話が続いているし、時計で時間を確認したところ、さっきから数分しか経っていない。
それにほっと一息ついて、ようやく自分の手が後ろから掴まれていることに気がつく。
驚いて後ろを向くと、転校生がこちらの手をしっかりと握っていた。
その表情は、何故か緊迫した焦りに満ちている。
「……村田?」
「あ……悪い。」
首を傾けると、拓也はさっと手を離す。
「ふらふらしてたから、調子が悪いのかと思って。」
「げ…っ。マジ?」
ぎょっとして訊ねると、拓也は無言で頷いた。
(しっかりしろって、俺……)
内心でそう叱咤しながら、実はぎこちない笑顔を拓也に向けた。
「そっか。ありがとう。最近、ちょっと寝不足でさ。疲れが出てるみたい。」
「気をつけろよ?」
拓也が気遣わしげに言ってくる。
そんな拓也を見て、実は肩の力を抜いて自然な微笑みを浮かべた。
教室での出来事のせいで妙に肩に力が入っていたけど、冷静に考えれば、妙な親近感があるからといって彼を警戒する必要はないじゃないか。
拓也にもう一度礼を言ってから、実は彼に背を向ける。
それから少し時間を置いて、拓也に気付かれないように溜め息を一つ。
この気持ち悪い感覚。
またあの夢を見たのかもしれない。
―――でも、なんだか腑に落ちない。
今は寝ていたわけではなかった。
確かに微睡んではいたけれど、ぼんやりとした意識の中でも校長の話は聞こえていたし、その内容だって覚えているのだ。
この状況で校長の話は覚えていて、夢の内容だけ覚えていないなんて、そんなことがあります?
それに、今回は夢の最後に聞く〝だめだ〟という声も聞こえなかったし……
体が訴える疲労感と靄のかかった意識はあの夢を見たことを示しているのに、心は体の訴えに納得できなくて気持ち悪い。
(やっぱ、疲れてるのかな…?)
実は、静かに目を伏せた。
「………」
そんな実の後ろで、拓也もまた深刻そうな表情で床を睨んでいた。
紙のように白くなった手で、額に浮いた汗を拭う。
(やっぱり、そうなのか…?)
自分が見知ったものと同じ残滓を感じて、拓也は実の手を掴んだ己の手を握り締める。
初めて実を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
思い起こされる過去の出来事。
たまたまあの人と一緒にいたから聞くはめになった、とある啓示。
どうせ他人事だと思って特に気にもしていなかったのに、こんな偶然があるのか?
他人の空似。
そういうことで済ませようと思っていたのに……
(向こうから呼ばれているってことは、やっぱりこいつは―――)
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