世界の十字路

時雨青葉

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第6章 帰郷

神にも並ぶほどの力

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「サリアム、この者がそうか?」


 レティルと呼ばれた彼は、その身分に見合う優雅な仕草でサリアムに訊ねた。


「はい。」


 サリアムは低く頭を下げて答える。


「そうか。成長したら、ますますエリオスに似たな。」


 レティルは涼やかに笑った。


「レティル様…っ! このような無様な結果となり、申し訳ございません。あなたのご期待に応えられなかったこと、いかようにも処罰を受ける覚悟でございます!」


「まあ待て。」


 早口にまくし立てるサリアムを、レティルは優しげな口調で制した。


「私は、お前を責めるつもりはない。お前には、少々荷が重いと思っていたからな。生きているだけで十分だ。あれの相手は、多分私にしかできまいよ。」


 レティルはそう言うと、実に顔を向けた。
 二人の視線が静かに、しかし剣呑にぶつかる。


「ずっと見ていたが、あのサリアムの獣を一撃で倒すとはさすがだ。私が次の器に選んだだけのことはある。」


「誰が大人しく体をやるって? 生憎あいにく、俺はここで育ってないもんでね。あんたへの病的なまでの忠誠心なんか、これっぽっちもないんだけど。」


「神のめいに背くのか? その気になれば、お前をたたることもできるぞ。」


「ふーん。……で? それはおどしのつもり? そのくらいで、俺が素直に従うと思うなよ? その気なら、今すぐ祟ってみろよ。」


 実は不敵に笑った。
 その笑顔を見たレティルは、満足そうに頬をほころばせる。


「なるほど。ならば、お前の実力をとくと見せてもらおうではないか。」


 次の瞬間、彼の体から強力な力が噴き出した。
 それと同時に、実は笑顔を消す。


 さっきの攻撃は全く見えなかった。
 きっと、サリアムのようにはいくまい。


 全身の神経を研ぎ澄まして、レティルの攻撃を待つ。
 そのなか―――


「レティル様!」


 下草を乱暴に掻き分けて、数人の兵士たちがレティルの前に立ち塞がった。


 彼らはレティルを守るように立ちはだかり、こちらに剣を向ける。
 その兵士たちの闘気のせいで、集中して感じ取っていたレティルの力がぼやけた。


 実は舌打ちする。


「―――邪魔。」


 低く言い捨てた実の目が、すっと細められた。




 ―――――――――




「………」


 拓也はしばらく、目の前で何が起こったのか分からなかった。
 梨央とサリアムも、目を見開いて呆けている。


 実とレティルの間で、剣を抜いていたはずの兵士たちが倒れていた。
 彼らはピクリとも動かない。


 一体、何が起こったのか。


 無意識に実へと目をやって、拓也は戦慄せんりつした。


 実は、彼らを一切見ていなかったのだ。
 彼らが突然倒れたことを、不思議ともなんとも思っていない風だった。


(まさか……)


 自分の体から、すっと血が引いていく。


 絶句する拓也の前で、レティルが軽く腕を振るう。
 すると、兵士たちの体が光に包まれ、もう一度彼が腕を振ると同時に消えた。


 レティルは、どこか嬉しそうに微笑む。


「……ふふ。瞬殺とは、随分と容赦がないな。」
「―――っ!!」


 その一言で、自分の予感が的中していたことを知る。


 当然ながら、動揺した自分が口を挟める隙などあるはずもなく、実とレティルの戦いに火蓋が切って落とされてしまった。


 レティルが無言で放った細かい針のようなものが、猛スピードで実たちに迫る。
 実が上空に高く跳躍することで、針は方向を変えてそちらへ。


 こちら目がけて飛んできた一部の針を飛び退きながらけた拓也は、針が実に向かう間に立ちすくむ梨央の元へ向かい、その体を抱いて安全圏へ避難した。


 一方の実は、自分に向かって飛んでくる針をぎ払うように腕を横に振る。
 すると、実を貫こうとする針の全てが爆発した。


 地面に着地すると同時に、実はまた腕を振る。


 実を標的に放たれていた彼の攻撃と実の攻撃が正面からぶつかり、その場で大爆発を起こした。


 その余波の影響で、周辺に爆風と土煙が巻き起こる。
 土煙が収まったところで、実はにやりと口角を吊り上げた。


「互角…か。」
「………っ」


 拓也とサリアムは愕然がくぜんとする。


 相手は、人間の体を借りているとはいえ神だ。
 いくら実の力が他に類を見ないほど強力だからといって、神に並び立てるわけがない。


 それなのに、実はレティルとほぼ互角に張り合っているのだ。


「ほう、面白い。」


 楽しそうに笑うレティルの魔力が、さらに強力さと濃厚さを増す。
 対する実の魔力も、レティルの力に触発されるようにどんどん強くなっていく。


「―――っ!! 実!!」


 拓也は思わず、その後ろ姿に向かって叫んでいた。


 実の魔力は、果てを知らないかのように強くなっていく。
 その力は、すでに人間の限界を超えているように思えた。


 いくら実が〝鍵〟だといっても、人間である以上魔力の限界があるはず。
 魔力を限界まで出し切ってしまったら、それは死に直結する。


「挑発に乗るな! しっかりしろ! 実!!」
「!?」


 必死な拓也の呼びかけに、実がハッと目を見開いた。


 敏捷びんしょうだった動きが、ピタリと停止する。
 その隙を、レティルはのがさなかった。


「うぐっ…」


 レティルの手から放たれた鋭い一閃が、サリアムがつけた実の腕の傷をさらにえぐった。
 二の腕から噴き出す激痛に、実はうめき声をあげてうずくまる。


「馬鹿者が。正気を取り戻させてどうする。」


 べつを含んだレティルの言葉は、拓也に向けられたもの。
 それを聞きながら、実は唇を噛み締める。


 何か細工をしてあったのか、攻撃を受けた左腕から全身に強いしびれが広がって、本来使えるはずの治癒魔法が使えない。


 血がだらだらと流れていき、制服の袖口そでぐちまでを赤く染める。


 それでも血は流れ続け、手が血だらけになっていき、そこを中心に血だまりができあがっていく。


 急速に全身から熱が抜けて、体の芯が冷えていく。
 そして、それと同時に意識がまた切り替わろうとしていた。


(俺……今、何を……)


 ぼんやりとしてくる頭とまとまらない思考では、いまいち状況を判断できない。


 しかしさっき、自分はとんでもないことをしなかっただろうか?


 顔を青ざめさせる実に、レティルは興醒めしたといわんばかりに肩を落とした。


 掲げられた彼の手に生まれたのは、不気味な黒い球体。
 それは彼の手から弾け、まるでアメーバのように形を変えながら実に襲いかかった。


 全身がしびれて動けない実には、それをけることができない。




 彼の放ったそれは、いとも簡単に実を飲み込んだ。



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