世界の十字路

時雨青葉

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第2章 力を嫌う少女

一番遭遇したくない状況

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 分かりきってはいたが、あのコーレンが尚希とエーリリテを素直に離すわけがなかった。


 きっと、今日はどれだけ待っても尚希たちが解放されることはないだろう。
 そう判断した実と拓也は、一足先に酒場を後にした。


 街の通りに人はいない。
 微かな足音さえも大きく聞こえる帰路の途中、二人はある光景に遭遇した。


 大通りの真ん中に作られた広場。
 その中央に立つ銅像の足元に、三人の男女が立っていた。


 一人はシェイラだ。
 もう一人は、昼間にエーリリテの所へ押しかけてきた男。
 そして最後の一人は、拓也が見たことのない少年だった。


 年格好はシェイラたちと同じくらいだろうが、線が細くまだ幼さも残る顔立ちから、他の二人よりもいくつか年下に見えた。


 おっとりとして、ふんわりとした印象を受ける少年だ。


 その三人の姿に拓也はきょとんとし、実は何故か不愉快そうに顔をしかめた。


 三人は、実と拓也の存在に気付いていない。


(まずい。近付きすぎた。)


 思わず、小さく舌打ちをしてしまう実。


 屋敷に戻るには、大通りを突っ切っていくのが一番早い。


 だからこうして大通りに出たのだが、出た先でこんな光景にぶち当たるとはついていない。


 考えうる限り、一番遭遇したくない状況だ。


 このままこっそり去ろうにも、この近距離だと誰かしらに気付かれてしまいそうだ。


 かといって、こんなことで移動魔法を使うのは大袈裟だ。
 その前に、腕輪をしている今の自分には大した魔法が扱えない。


 とはいえ、部外者面で横を通り過ぎることも無理。
 自分はもう、彼らの問題に何度も口を挟んでしまっているのだから。


 どうしたもんかと思考を巡らせる実と、石のように固まる拓也。


 会話を盗み聞きするつもりはさらさらないのだが、この妙に緊張した空気が嫌でも心臓に早鐘を打たせ始めた。


 自然と、息も抑えられる。


 やがて、シェイラがぽつりと言った。


「ねえ、グラン。しばらく、距離を置こう?」
「拓也、俺たちの気配を消してくれる?」


 シェイラの言葉を聞いた瞬間、実が拓也にささやいた。
 それに、拓也が無言で頷く。


 拓也が軽く指を振ると、視界が紗をかけたようにかげった。


 これはかなり込み入った話のようなので、さっさと退散した方がよさそうだ。


 気配を消しておけば、向こうが明確にこちらを視認しない限りは存在に気付かれない。


 とはいえ、このまま突っ切るのは忍びないので、今しがた出てきた細い通りに戻ろうときびすを返しかけた、その時―――


 ふと、少年がこちらを向いた。


「げっ…」


 反射的に肩を震わせる拓也。
 それとは対照的に、実は驚く素振りも焦る素振りも見せなかった。


 実は少年と目を合わせると、人差し指を立てて口元へ当てる。


 すると、少年は先ほどからずっとそうだった無表情の顔を少しだけ傾けて、次に微かに頷いた。


 ほんの数秒の、言葉のないやり取り。


 少年はそのやり取りを終えると視線をずらし、こちらを気にするような仕草を一切見せなくなった。


「よし。」
「あ、あれ…?」


 状況についていけず、ポカンとする拓也。


「あいつは、気配に気付きやすい性質たちなんだ。この程度の気配消しならばれる。今見なかったことにってことで同意したから、早く行こう。」


 早口に説明して、実は細い通りに入った。
 


「あれ? 実さんに、拓也さん?」


 そんな風に自分たちを呼ぶ声がなければ、面倒事を回避できたはずだったのに……

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