106 / 714
第4章 転落
〝一つ貸しだからな〟
しおりを挟む
実の部屋に入ってみると、カーテンが全て閉め切られている室内はかなり薄暗かった。
ベッドの上には、昨日よりは幾分か顔色がよくなった実が横たわっている。
しかし、よくなったとはいうものの、その顔はやはり紙のように白く、その姿は人形か死人のようだ。
実は深い眠りに落ちているらしく、身動ぎ一つしない。
そして、ベッドから少し離れた位置にある長椅子の上には、これまた死んだような尚希が横になっていた。
部屋に入ってきた拓也たちに気付いて、尚希は力なく手を振る。
「おはよう、キース。まさか、一晩中実につきっきりだったのか?」
真上から顔を覗き込んできた拓也を、鬱陶しそうに半目で睨む尚希。
その後拓也の顔をしっしっと手で追い払って、尚希はのろのろと起き上がった。
「いや、夜中はちゃんとベッドで寝かせてもらったよ。さっきオレの魔力を実に流したから、少し疲れただけだ。まあ、お前が魔力の回復能力を上げてくれてるし、早ければ明日には目を覚ますだろう。まったく、あの馬鹿は……」
「まあまあ、そう怒るなって。」
拓也がなだめるも、拓也をじろりと射すくめる尚希の目には、未だに冷めやらぬ怒りが燃えているように見えた。
「怒るな? これを? 誰だって怒るだろうが。こんな突発的に命をぼんと投げ出すようなことをやらかされて、怒らない奴がいるか?」
「いやいや、確かに衝動的な行動とはいえ実が悪いよ。おれだって気に食わねぇさ。だけど、お前のキレ方は異常だって。実の親じゃあるまいし。」
「エリオス様がいない分、オレが怒らないでどうする。大体、実は周りが敵だらけだからって、人の好意ってものに対する意識が薄くなってるんだよ。自分のことを大事に思ってる奴が少なからずいるんだって考えもせずに、何もかも一人で背負い込もうとして……」
そのまま、尚希はどんどん機嫌が悪くしていく。
ほとぼりも冷めた頃だろうなんて、幻想だったようだ。
拓也は溜め息をつきながら、尚希の頭を小突く。
(……すみません。キースのためだ。)
心の内で、拓也はある人物に謝った。
「まあ、キースがそこまで怒る気持ちも分かるけどな~。……いいのか? お前がそうやって実のことばっか考えてるから、エーリリテさんがヤキモチを焼いてるけど?」
「え?」
「ちょっ…!?」
尚希が間の抜けた声で呟き、エーリリテの顔に火がつく。
「なっ、何言ってるのよ、あんた!?」
パニックになるエーリリテを横目に、拓也はにやりと笑って尚希の耳に顔を寄せる。
「それがさっき……」
「あーっ! やめてってば!! キース、そいつの言うことに耳を貸さないでよ!? 嘘なんだからね!?」
「嘘? 本当に?」
拓也は面白おかしそうに目を細める。
「そんなに慌てたら、おれの言うことが本当だってキースにばれちゃいますよ?」
拓也の指摘にぐうの音も出ないエーリリテは、ぐっと唇を噛んで拓也を睨んだ。
「あんた、どういうつもりよ…っ」
「いや、別に大したことは企んでませんよ。ただ、現状報告も兼ねて、キースがあんまりよそ見をしないようにって……」
「よっ、余計なお世話よ!」
「ふーん…。じゃあ、エーリリテさんはキースの頭が実一色でも構わないんですか?」
「………っ。いっ、いいわよ。」
「嫌だって、顔に思い切り書いてありますけど。」
「くっ、あんたね…っ」
「でも、図星でしょ?」
「~~~っ」
畳み掛けられまくった結果、羞恥心が限界を突破したらしい。
エーリリテが声にならない絶叫をあげた。
「あ、あんたって奴は…っ。ちょっとでも同情した私が馬鹿だったわよ! 最っ低!! 言いたきゃ、なんでも言えばいいでしょ!? わっ、私は知らないんだからぁ!!」
真っ赤な顔で捨て台詞を吐いて、エーリリテはどかどかと部屋を出ていく。
「あ、エーリリテ!」
椅子から腰を浮かせた尚希が呼び止めるも、聞こえるのは猛ダッシュで遠ざかっていく足音だけだ。
茫然と立ち尽くす尚希から実への怒りが吹き飛んだのを確認して、拓也はふと表情を和らげる。
「行ってあげろよ。今のあの人、マジで可哀想だから。」
「いや、追い込んだのはお前だろ!?」
「そうだっけ?」
拓也はわざとらしく肩をすくめる。
「ほら、行ってやれって。実はおれが見てるから。」
ぐいぐいと尚希を引っ張り、拓也は問答無用で彼を部屋の外へ放り出した。
急に追い出された尚希は困惑していたが、エーリリテのことが気になるのは確かなようで、すぐに行動を切り替えて廊下を駆けていった。
小さくなっていく足音を聞きながら、拓也は不満そうに唇を尖らせる。
「まったく、なんでおれがこんなことを……」
ぼやくも、自分の判断でやった行為なので仕方ないといえば仕方ない。
拓也は顔をしかめると、ベッドで眠る実に向かって言ってやった。
「一つ貸しだからな。実、キース。」
ベッドの上には、昨日よりは幾分か顔色がよくなった実が横たわっている。
しかし、よくなったとはいうものの、その顔はやはり紙のように白く、その姿は人形か死人のようだ。
実は深い眠りに落ちているらしく、身動ぎ一つしない。
そして、ベッドから少し離れた位置にある長椅子の上には、これまた死んだような尚希が横になっていた。
部屋に入ってきた拓也たちに気付いて、尚希は力なく手を振る。
「おはよう、キース。まさか、一晩中実につきっきりだったのか?」
真上から顔を覗き込んできた拓也を、鬱陶しそうに半目で睨む尚希。
その後拓也の顔をしっしっと手で追い払って、尚希はのろのろと起き上がった。
「いや、夜中はちゃんとベッドで寝かせてもらったよ。さっきオレの魔力を実に流したから、少し疲れただけだ。まあ、お前が魔力の回復能力を上げてくれてるし、早ければ明日には目を覚ますだろう。まったく、あの馬鹿は……」
「まあまあ、そう怒るなって。」
拓也がなだめるも、拓也をじろりと射すくめる尚希の目には、未だに冷めやらぬ怒りが燃えているように見えた。
「怒るな? これを? 誰だって怒るだろうが。こんな突発的に命をぼんと投げ出すようなことをやらかされて、怒らない奴がいるか?」
「いやいや、確かに衝動的な行動とはいえ実が悪いよ。おれだって気に食わねぇさ。だけど、お前のキレ方は異常だって。実の親じゃあるまいし。」
「エリオス様がいない分、オレが怒らないでどうする。大体、実は周りが敵だらけだからって、人の好意ってものに対する意識が薄くなってるんだよ。自分のことを大事に思ってる奴が少なからずいるんだって考えもせずに、何もかも一人で背負い込もうとして……」
そのまま、尚希はどんどん機嫌が悪くしていく。
ほとぼりも冷めた頃だろうなんて、幻想だったようだ。
拓也は溜め息をつきながら、尚希の頭を小突く。
(……すみません。キースのためだ。)
心の内で、拓也はある人物に謝った。
「まあ、キースがそこまで怒る気持ちも分かるけどな~。……いいのか? お前がそうやって実のことばっか考えてるから、エーリリテさんがヤキモチを焼いてるけど?」
「え?」
「ちょっ…!?」
尚希が間の抜けた声で呟き、エーリリテの顔に火がつく。
「なっ、何言ってるのよ、あんた!?」
パニックになるエーリリテを横目に、拓也はにやりと笑って尚希の耳に顔を寄せる。
「それがさっき……」
「あーっ! やめてってば!! キース、そいつの言うことに耳を貸さないでよ!? 嘘なんだからね!?」
「嘘? 本当に?」
拓也は面白おかしそうに目を細める。
「そんなに慌てたら、おれの言うことが本当だってキースにばれちゃいますよ?」
拓也の指摘にぐうの音も出ないエーリリテは、ぐっと唇を噛んで拓也を睨んだ。
「あんた、どういうつもりよ…っ」
「いや、別に大したことは企んでませんよ。ただ、現状報告も兼ねて、キースがあんまりよそ見をしないようにって……」
「よっ、余計なお世話よ!」
「ふーん…。じゃあ、エーリリテさんはキースの頭が実一色でも構わないんですか?」
「………っ。いっ、いいわよ。」
「嫌だって、顔に思い切り書いてありますけど。」
「くっ、あんたね…っ」
「でも、図星でしょ?」
「~~~っ」
畳み掛けられまくった結果、羞恥心が限界を突破したらしい。
エーリリテが声にならない絶叫をあげた。
「あ、あんたって奴は…っ。ちょっとでも同情した私が馬鹿だったわよ! 最っ低!! 言いたきゃ、なんでも言えばいいでしょ!? わっ、私は知らないんだからぁ!!」
真っ赤な顔で捨て台詞を吐いて、エーリリテはどかどかと部屋を出ていく。
「あ、エーリリテ!」
椅子から腰を浮かせた尚希が呼び止めるも、聞こえるのは猛ダッシュで遠ざかっていく足音だけだ。
茫然と立ち尽くす尚希から実への怒りが吹き飛んだのを確認して、拓也はふと表情を和らげる。
「行ってあげろよ。今のあの人、マジで可哀想だから。」
「いや、追い込んだのはお前だろ!?」
「そうだっけ?」
拓也はわざとらしく肩をすくめる。
「ほら、行ってやれって。実はおれが見てるから。」
ぐいぐいと尚希を引っ張り、拓也は問答無用で彼を部屋の外へ放り出した。
急に追い出された尚希は困惑していたが、エーリリテのことが気になるのは確かなようで、すぐに行動を切り替えて廊下を駆けていった。
小さくなっていく足音を聞きながら、拓也は不満そうに唇を尖らせる。
「まったく、なんでおれがこんなことを……」
ぼやくも、自分の判断でやった行為なので仕方ないといえば仕方ない。
拓也は顔をしかめると、ベッドで眠る実に向かって言ってやった。
「一つ貸しだからな。実、キース。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる