世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
121 / 714
第5章 夜の獣と統一の儀

実に対するそれぞれの想い

しおりを挟む

「ハエル!」


 ハエルが説明を終えたその時、これまで必死に感情を押し殺していたエーリリテが、しびれを切らしたようにハエルに掴みかかった。


「あんたね、なんで実を止めなかったのよ!? あの子がどんなに無茶をしてたのか分かってたはずでしょ!? 実を殺す気なの!?」


「もちろんお止めはしました。でも……」


 ハエルは胸ぐらを掴まれたまま、涙をめいいっぱいに溜めたエーリリテの双眸を見つめた。


「死体がごろごろと転がる場面は見たくない、と。そう言われて、エーリリテ様なら無理に止めることができますか?」


「!?」


 その言葉に、直接問われたエーリリテだけではなく、絶句していた拓也と尚希も大きく目を見開いた。


「実様は、私たちとは明らかに違う場所から物事を見つめています。きっと、実様にしか分からない何かがあるのでしょう。自分の考えが認められないと知れば、この方は躊躇ためらいなく一人で行ってしまう。私にできることは……せめて、この方をひとりにしないことだけだったのですよ。」


 ハエルは唇を噛んだ。


 出会ってから、まだほんの数週間。
 そんな短い時間の中で、実の本音を聞くことはたまにあった。


 しかし、その本音の中でさえも、実は絶対に自分のことを分かってほしいとは言わなかった。


 どんなにつらいと本音を零しても、最後には自分は普通じゃないから理解されないのは当たり前だと、そう自分に言い聞かせて終わるのだ。


 そうすることで、実は一人であることに慣れようとしている。
 他人から理解されず、拒絶されることが普通であると思おうとしている。


 そして―――理不尽に向けられる敵意や殺意を、仕方ないものとして受け入れようとしているのだ。


 突き放してしまえば、この子はそれを受け入れて離れていってしまうだろう。
 決してこちらを責めはぜず、自分に原因があるのだと納得して。


 人間へのさい心に苦悩するこの子に今必要なのは、何があっても離れない誰かの存在だ。


 自分は、この子が素直に心を許してくれている今のうちに、あなたにもちゃんと味方がいるんだということをしっかり教えてやらねばならないのだ。


 そうしないと、この子は簡単にひとりになって人知れぬところで傷つき、そしてその痛みに独りで耐えることになってしまう。


 この世界ではただでさえ、この子は孤立しやすい存在なのだから……


ひとりにしないこと……か。確かにそのとおりだな。分かってやれなくても、頼りにされなくても……傍にいることだけは、オレたちにもできるんだもんな。」


 誰もが言葉を失った中で、ぽつりと尚希が呟いた。


 寂しげに微笑む尚希。
 その隣では、拓也が何かをこらえるような表情で床を見つめている。


 尚希はベッドに横たわる実を見下ろし、その白い頬にそっと触れた。


「なあ、実……」


 ささやくような小さい声。
 それは、聞く者の胸を切なくさせるような響きを伴っていた。


 尚希の呼びかけに対する実の反応はなく、閉じたまぶたは開く気配すらない。
 しかし、尚希はそれに構うことなく、独白のように言葉を連ねる。


「もし訊くことが許されるなら、教えてほしい。実の目には、どんな世界が映ってるんだ? 実が見据みすえる未来に、オレたちはちゃんといるか? 一人で……独りでいないよな? 実……」


 当然、答えは返ってこない。
 尚希は深く息をついて目を閉じると、静かに実から離れて部屋を出ていってしまった。


「実……あんた、馬鹿じゃないの?」


 ドアが閉まる音を後ろに聞きながら、ハエルに掴みかかったままのエーリリテが、怒りと悲しさが混じったような声を絞り出す。


 その声と同じく、ハエルの服を掴む両手も微かに震えていた。


「私だって……一応、心配はしてるんだからね。なんでもかんでも、一人で背負うんじゃないわよ。これ以上優しいキースを苦しめるっていうなら……あんたを殺したとしても、許さないからね…っ」


 彼女の声には、ともすれば憎しみすら込められていたかもしれない。


 エーリリテはそこまで言うと、くるりときびすを返して急ぎ足で部屋を出ていった。


 おそらく、尚希を追いかけにいったのだろう。


 今度はやや乱暴にドアが閉まり、次に訪れる静寂をより一層際立たせる。


 次の瞬間―――


「あーあ。いっそのこと、殺してくれないかな?」


 狙いすましたように、実の唇が弧を描いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...