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第7章 本当の気持ち
桜理たちを守る誓約
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実は、再びこの場所に立つ。
「おや、思わぬ客だ。」
桜は、少しだけ驚いたようにそう告げた。
以前の一件で何があったのか、あれ以来の自分には同調なしにこの桜の声が聞こえるようになっていた。
いちいち同調しなくていいのは楽だが、聞こえなくてもいい時に声が聞こえてくることもあるので、なんとも複雑だ。
彼に用がない時は、雑音でしかない。
まあ普通に考えて、ある程度の距離を置けば、意識しない限り声を聞かないようにすることはできるだろう。
その辺りの対策は後回しにするとして……
「ふーん。少しは生気を取り戻したみたいだね。」
実は桜を見上げる。
この桜から、死の気配はもう感じない。
だが、完璧ではない。
「そうだな。かなり良質な力を吸収した故、当分は我に死が訪れることはないだろう。だが、それは桜理が天寿を全うするには足りないだろうな。汝は、桜理の命を完全には救えていないぞ。」
桜が告げるのは、自分が思っていたことと同じこと。
仕方ない。
桜理がちゃんと生き抜くには自分の魔力の全てか、あるいはそれ以上の力が必要だ。
しかし、自分はこうして生きている。
桜理がそう望んだから。
おそらく、桜が吸収した力は自分が本来持つ魔力の三分の一から半分に満たないくらいだろう。
これで桜理の命を繋ぐことはできない。
現実は厳しかった。
しかし、その現実を前にして実は笑っていた。
「ああ、そうだな。だけど、俺がなんの予備策もなしに命を投げ出したと思ってるわけ?」
不敵に口の端を吊り上げる実。
実は右手を掲げると、くるりと手を捻った。
右手が円を描くように回り、そこに光の玉に包まれた何かが現れる。
それは、小さな種子のような宝石だった。
透明度の高い黄緑色が、太陽の光を透過している。
石をつまんだ実は、含みを持たせた表情で桜を見やった。
「……それは?」
「まあ見てなって。」
次の瞬間、実の雰囲気が一変する。
とてつもなく強い魔力がその身を迸り、この場を神聖な空気で満たす。
実はゆっくり息を吸い込んで、長い呪文を朗読し始めた。
それは、どの世界の言葉にも当てはまらないような不思議な言葉。
宝石が淡く発光し、実の右手から浮き上がる。
実の足元に複雑な魔法陣が現れ、それを媒介にして実の魔力が凝縮されていく。
凝縮された魔力は石へと集まり、それに比例するように石が放つ光が強くなっていく。
ふと、十分に光を蓄えた石が動き出した。
実から離れ、桜の元へ。
石は、桜の太い幹の中へと消えていった。
それと同時に幹に実の足元で光る魔法陣と同じ文様が浮き上がり、また消える。
桜が、ざあっとざわめいた。
枝が大きく揺れ、花びらが普段の倍近くも落ちてくる。
しばらくして、実の呪文の詠唱が終わった。
魔法陣が消え、神聖な空気が風に流されて霧散する。
一仕事終えた実は深呼吸をすると、ポケットからか取り出した銀の腕輪を左手首にはめた。
すると、実から迸っていた魔力が一気に静まる。
「……何を、した?」
桜が、珍しく取り乱した様子で訊ねてきた。
「我に、力が流れ込んでくる。しかも、これは人間の力ではないな。これは―――」
「ああ。お察しのとおり、聖木の力だよ。」
端的に答えて、実は種明かしを始める。
「この世界に数本しかないとされる、あんたみたいに心を持ち、長い年月を生き続ける聖木。やっぱり植物には植物の力の方がいいだろうし、それなら聖木の力も借りられないかと思って、直接交渉に出たわけさ。今の術は、その聖木に教えてもらったんだ。」
遥か昔、砂漠だった地域に木を増やすために考案された術がこれなのだそう。
聖木の葉に自分の魔力を合わせて作る宝樹石。
それを同化させた植物には聖木の力が流れ、どんな環境でも成長できるほどの生命力を分け与えられる。
元々桜理に三日の時間をもらったのは聖木と交渉するためだったのだが、そこでこんな術を教えてもらうことになろうとは。
「聖木たちは、あんたの存在を知っていたよ。ひどく気になっていて、運が巡れば助けたかったんだって。人間があんたにくくりつけた、終わらない生という呪いを断ち切ってやりたいって。」
「なんと……」
そんなことは思ってもいなかったのか、桜は意外そうにそう呟くだけだった。
実は先を続ける。
「というわけで、交換条件を出された。聖木は、桜理を生かせる分だけの力をあんたに提供する。桜理の命をまかなう分だけってことは、桜理が死んだ瞬間、聖木からの力の供給が途切れてあんたも一緒に死ぬことになる。新たな契約が結ばれるのを阻止しながら、あんたの死を見届けること。これが俺に課された対価。俺は条件を飲んだ……ってか、飲むしかなかった。しかも、その条件を守るって、三本もの聖木と誓約させられたよ。」
聖木とのやり取りを思い出して、実は辟易とした溜め息を吐き出す。
こちらは時間がなくて急いでいるというのに、色々とややこしく条件を突きつけられたものだ。
動くことができない彼らとしては、自分が交渉に来たことが幸運に他ならなかったのだろう。
しかし、こちらとしてはなかなかに迷惑な展開だった。
「あんたの中に埋め込んだ宝樹石は、三本の聖木の宝樹石を融合させて一つにしたものだ。契約とは違って、誓約は破ることを許されない。これはこの世界の絶対法則だ。だから、あんたにも約束しておくよ。桜理が死んだ後、あんたには永遠の眠りが来る。俺はそれを誰にも邪魔させない。終わりの瞬間まで、あんたを守るよ。」
誓約は誓約だ。
今こうして桜理が生きているのだから、それを違える気は一切ない。
それに、この桜は自分が桜理のために命を投げ出すことを止めはせず、むしろ協力を申し出てくれた。
人間を食らう自身が許せないと、そう言っていたにもかかわらずだ。
あの時は自分を試しただけだと笑っていたが、それを鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。
自身の気持ちを飲み込んで協力してくれた桜には、本当に感謝している。
恩着せがましいから言わないけど、これは自分がやりたくてする恩返しなのだ。
いつか、この桜に穏やかな眠りが訪れることを願って。
「これから最期の時まで、よろしく。」
実は、柔らかく微笑んだ。
「おや、思わぬ客だ。」
桜は、少しだけ驚いたようにそう告げた。
以前の一件で何があったのか、あれ以来の自分には同調なしにこの桜の声が聞こえるようになっていた。
いちいち同調しなくていいのは楽だが、聞こえなくてもいい時に声が聞こえてくることもあるので、なんとも複雑だ。
彼に用がない時は、雑音でしかない。
まあ普通に考えて、ある程度の距離を置けば、意識しない限り声を聞かないようにすることはできるだろう。
その辺りの対策は後回しにするとして……
「ふーん。少しは生気を取り戻したみたいだね。」
実は桜を見上げる。
この桜から、死の気配はもう感じない。
だが、完璧ではない。
「そうだな。かなり良質な力を吸収した故、当分は我に死が訪れることはないだろう。だが、それは桜理が天寿を全うするには足りないだろうな。汝は、桜理の命を完全には救えていないぞ。」
桜が告げるのは、自分が思っていたことと同じこと。
仕方ない。
桜理がちゃんと生き抜くには自分の魔力の全てか、あるいはそれ以上の力が必要だ。
しかし、自分はこうして生きている。
桜理がそう望んだから。
おそらく、桜が吸収した力は自分が本来持つ魔力の三分の一から半分に満たないくらいだろう。
これで桜理の命を繋ぐことはできない。
現実は厳しかった。
しかし、その現実を前にして実は笑っていた。
「ああ、そうだな。だけど、俺がなんの予備策もなしに命を投げ出したと思ってるわけ?」
不敵に口の端を吊り上げる実。
実は右手を掲げると、くるりと手を捻った。
右手が円を描くように回り、そこに光の玉に包まれた何かが現れる。
それは、小さな種子のような宝石だった。
透明度の高い黄緑色が、太陽の光を透過している。
石をつまんだ実は、含みを持たせた表情で桜を見やった。
「……それは?」
「まあ見てなって。」
次の瞬間、実の雰囲気が一変する。
とてつもなく強い魔力がその身を迸り、この場を神聖な空気で満たす。
実はゆっくり息を吸い込んで、長い呪文を朗読し始めた。
それは、どの世界の言葉にも当てはまらないような不思議な言葉。
宝石が淡く発光し、実の右手から浮き上がる。
実の足元に複雑な魔法陣が現れ、それを媒介にして実の魔力が凝縮されていく。
凝縮された魔力は石へと集まり、それに比例するように石が放つ光が強くなっていく。
ふと、十分に光を蓄えた石が動き出した。
実から離れ、桜の元へ。
石は、桜の太い幹の中へと消えていった。
それと同時に幹に実の足元で光る魔法陣と同じ文様が浮き上がり、また消える。
桜が、ざあっとざわめいた。
枝が大きく揺れ、花びらが普段の倍近くも落ちてくる。
しばらくして、実の呪文の詠唱が終わった。
魔法陣が消え、神聖な空気が風に流されて霧散する。
一仕事終えた実は深呼吸をすると、ポケットからか取り出した銀の腕輪を左手首にはめた。
すると、実から迸っていた魔力が一気に静まる。
「……何を、した?」
桜が、珍しく取り乱した様子で訊ねてきた。
「我に、力が流れ込んでくる。しかも、これは人間の力ではないな。これは―――」
「ああ。お察しのとおり、聖木の力だよ。」
端的に答えて、実は種明かしを始める。
「この世界に数本しかないとされる、あんたみたいに心を持ち、長い年月を生き続ける聖木。やっぱり植物には植物の力の方がいいだろうし、それなら聖木の力も借りられないかと思って、直接交渉に出たわけさ。今の術は、その聖木に教えてもらったんだ。」
遥か昔、砂漠だった地域に木を増やすために考案された術がこれなのだそう。
聖木の葉に自分の魔力を合わせて作る宝樹石。
それを同化させた植物には聖木の力が流れ、どんな環境でも成長できるほどの生命力を分け与えられる。
元々桜理に三日の時間をもらったのは聖木と交渉するためだったのだが、そこでこんな術を教えてもらうことになろうとは。
「聖木たちは、あんたの存在を知っていたよ。ひどく気になっていて、運が巡れば助けたかったんだって。人間があんたにくくりつけた、終わらない生という呪いを断ち切ってやりたいって。」
「なんと……」
そんなことは思ってもいなかったのか、桜は意外そうにそう呟くだけだった。
実は先を続ける。
「というわけで、交換条件を出された。聖木は、桜理を生かせる分だけの力をあんたに提供する。桜理の命をまかなう分だけってことは、桜理が死んだ瞬間、聖木からの力の供給が途切れてあんたも一緒に死ぬことになる。新たな契約が結ばれるのを阻止しながら、あんたの死を見届けること。これが俺に課された対価。俺は条件を飲んだ……ってか、飲むしかなかった。しかも、その条件を守るって、三本もの聖木と誓約させられたよ。」
聖木とのやり取りを思い出して、実は辟易とした溜め息を吐き出す。
こちらは時間がなくて急いでいるというのに、色々とややこしく条件を突きつけられたものだ。
動くことができない彼らとしては、自分が交渉に来たことが幸運に他ならなかったのだろう。
しかし、こちらとしてはなかなかに迷惑な展開だった。
「あんたの中に埋め込んだ宝樹石は、三本の聖木の宝樹石を融合させて一つにしたものだ。契約とは違って、誓約は破ることを許されない。これはこの世界の絶対法則だ。だから、あんたにも約束しておくよ。桜理が死んだ後、あんたには永遠の眠りが来る。俺はそれを誰にも邪魔させない。終わりの瞬間まで、あんたを守るよ。」
誓約は誓約だ。
今こうして桜理が生きているのだから、それを違える気は一切ない。
それに、この桜は自分が桜理のために命を投げ出すことを止めはせず、むしろ協力を申し出てくれた。
人間を食らう自身が許せないと、そう言っていたにもかかわらずだ。
あの時は自分を試しただけだと笑っていたが、それを鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。
自身の気持ちを飲み込んで協力してくれた桜には、本当に感謝している。
恩着せがましいから言わないけど、これは自分がやりたくてする恩返しなのだ。
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