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【第3部】エピローグ
唯一の〝特別〟
しおりを挟む「私、どうすればいい?」
こちらの負担になるような態度はしたくない、と。
桜理は、真摯にそう言ってくれた。
(桜理は、こんな俺でも受け入れてくれるんだ……)
なんだか、桜理を見ているとこの胸の不安も驚くほど和らいでいくから不思議だ。
実は思わず、桜理の頭を優しくなでた。
「桜理。こうなっちゃったけど、俺は俺だよ。それは変わらない。だから、何も気にしないで。いつもどおりに、桜理の思うように接してくれればいいよ。俺は、それに従うだけ。」
実はまた寂しげに笑う。
その笑顔が胸に沁みるようで、桜理は少しだけ目元を歪める。
実が、今にも脆く崩れそうな気がしてならなかった。
お願い。
このまま、消えていかないで。
そんな思いに急かされた桜理は、衝動的に実の手を握る手に力を込めた。
「実。今の実がどんな実でも、私は実の味方だからね? いつだって、誰よりも実を信じてるから。私だけは、二度とあなたを裏切らないから!」
桜理がそう言うと、実の目が驚いたように見開かれた。
桜理は、そんな実をじっと見つめる。
しばしの沈黙の後、実の笑顔が崩れた。
「はは……やっぱり、桜理も昔から変わんないね。」
泣きそうな顔で笑って、実はくすくすと肩を震わせる。
これだから、桜理にはいつも嘘をつけないのだ。
こんなにまっすぐ、自分と等身大で向き合ってくれるから。
馬鹿らしいほど、ひたむきに信じてくれるから。
そして―――いつだって、躊躇わずに手を差し伸べてくれるから。
だから、どんどん離れられなくなっていく。
初めてをたくさんくれた、優しくてまぶしいこの少女から。
過去の自分が唯一認めた特別は、何があっても特別のままで。
『お前が見たものには、何が映っていた?』
ふいに、レティルの言葉が脳裏をよぎった。
次の瞬間、頭の中に闇と様々な色彩が通り過ぎる。
「―――っ!!」
実の顔から、笑顔が消えた。
「実?」
息を飲む実に、桜理が怪訝そうに首を傾げる。
取り繕うには遅すぎて、実は少しだけ表情を曇らせてしまう。
様々な感情が飛び交っている。
情報が交錯して、葛藤や迷い、恐怖や焦りが思考を満たそうと勢いづく。
一度目を閉じて、深呼吸。
次に、再び目を開く。
それだけで、実は何もかもを収めた。
(絶対に、あいつの思い通りにはならない。)
平常心を取り戻した実は、胸に強く思いを刻む。
「……桜理。」
実は、そっと桜理を呼んだ。
その響きに含まれた緊張を敏感に察知して、桜理の目により真剣な光が宿る。
「これから、色んなことが起こる。多分、この世界全てが揺れるだろう。そう遠くない未来、俺はとんでもない選択を迫られることになると思う。」
実の口調は、どこか予言めいていた。
「どうして、そう思うの?」
桜理が静かに問う。
「どうやら、この事件をきっかけにちょっと厄介な能力が開花したみたいでさ。今までちょくちょく感じてた虫の知らせも、この能力のせいだったのかもね…。それに伴って、一つ確認したいことがあるんだ。」
桜理は無言で頷いた。
実はそれを確認し、口を開く。
「俺は、桜理にだけは全てを明かしておこうかなって考えてる。でも……桜理はそれを知らない方がいいってことも、分かってはいるんだ。もしかしたら、危険な目に遭わせちゃうかもしれない。」
自分でそう言うと、反射的に喉が痙攣して言葉がつまった。
怖気づきそうになる心を叱咤して、桜理に向かって問いかける。
「……それでも、桜理は俺の唯一の理解者になってくれる? このまま、俺の味方でいてくれるのかな…?」
「馬鹿。」
答えは即答だった。
が、予想外の回答内容。
実は虚を突かれたように固まってしまう。
「言ったでしょ。私はいつだって実の味方だって。何があったって実のことを信じるし、どんな現実からも逃げない。今さら何を知っても、実を裏切るなんてしない。どんなことが起こっても、この気持ちは変わらないわ。それに、実は昔からずっと、すぐに独りになろうとするんだもの。放っておけるわけないでしょ?」
桜理はそう言って、優しく笑った。
その笑顔にほだされるように、実の表情も和らぐ。
「そっか。……桜理、ありがとう。」
他にも言いたいことはたくさんあったが、この一言だけにとどめておく。
この言葉だけで、全てが伝わる気がしたのだ。
実は桜理の肩に手を置いた。
桜理を引き寄せて、その額に自分の額をつける。
桜理は驚いていたが、実が目を閉じたのでそれに倣った。
実は一呼吸して意識を集中させる。
これが、正しい選択なのかは分からない。
もしかしたら、取り返しのつかない間違いを犯しているのかもしれない。
仮にそうだとしても、今はただ自分の思うようにやる他は道が無いのだ。
後悔することは、それこそ嫌になるくらいあるだろう。
だが、ねちねちと迷っている時間はない。
そうやって迷っている時間が、全ての判断を遅らせる要因となる。
だからこうして、手探りでも動いて前に進むしかない。
今した選択を、正しいものにするために。
二人が佇む場所を囲むように、桜の花びらが風に舞った。
◆ ◇ ◆
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました!!
【第4部~その腕は禁忌への誘い~】あらすじ
「あなたまで、おれの前で―――」
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そんなこと分かっている。
それでも―――目の前の死に顔を、見ていることはできなくて……
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