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第2章 蟻地獄
拓也に憑くのは―――
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電話からおよそ一時間。
尚希は、駅前の大通りを早足で駆け抜けていた。
『察しているとは思いますが、あまりいい話ではありません。』
すぐに折り返しの電話を入れた自分に、実が告げた言葉だ。
その言葉が、自分をこうして急がせている。
確かに電話を受けた時、直感的に嫌なものを察知していた。
他人に深く関わろうとしなくなっている実は、あまり外部と連絡を取り合わない。
そんな実が、メールではなく電話をしてきたのだ。
それは、実が自分だけでは対処しきれないと判断したということであり、それだけ事態が深刻である可能性が高いということ。
危機感を持つには十分だった。
仕事はその場で影に任せ、大急ぎで帰路について今に至る。
尚希は大通りに並ぶ店を忙しなく見回し、その中にあるファミレスの扉を開けた。
来店を告げるベルの音でやってきた店員に待ち合わせの旨を伝え、店内を見渡す。
程なくして捜していた姿を見つけ、大股でその席へと向かった。
「悪い。待たせたよな。」
声をかけると、席に座って携帯電話の画面を忙しく叩いていた細い手がピタリと止まる。
うつむいていた頭が上がり、さらりと揺れる淡い栗毛色の髪の隙間から覗く薄茶色の双眸が、わずかに息を上げるこちらの姿をガラス玉のように映した。
「いえ、大丈夫ですよ。」
実は静かに答える。
そこに、いつもなら浮かべる愛想笑いはない。
その反応に、危機感と不安がより一層煽られるようだった。
「で、話って?」
実の向かいの席に腰を下ろしつつ、尚希はすぐに本題へと入った。
実は、そんな尚希をじっと見据えて―――
「その様子だと、尚希さんにはアレが見えてないんですね。」
そう口にした。
「アレ?」
おうむ返しに訊ねる尚希。
一方の実は、そこで少しばかり悩む仕草を見せた。
「多分、見てもらった方が早いかな…? ちょっと、手を貸してもらえますか?」
実が手を差し出してくる。
それが何を意図したものかを瞬時に察し、尚希は実の手に自分の手を重ねた。
互いの手が触れている部分に熱がこもる。
その熱を受け入れると、脳裏に何かの映像が流れ込んできた。
そして―――その映像が何であるかを理解した瞬間、背筋がぞっと凍りついた。
「これは……」
「それが、今朝拓也と会った時に見えたものです。」
実が溜め息混じりに告げる。
その言葉を境に、二人の間に沈黙が落ちた。
「………」
尚希は、険しい表情でテーブルを見つめる。
脳裏には、今しがた実に見せられた映像がくっきりと焼きついていた。
実の視界から見た拓也と―――拓也にまとわりつく、黒い靄のようなもの。
思い返せばそうするほどに、どす黒い不安が増していくようで気分が悪くなる。
(実が急に電話を寄越してきたわけが、これか……)
一目見れば分かる。
これはかなり危険なものだ。
不気味に揺れる靄は、今にも拓也を飲み込もうとしているようだった。
ひどく気味が悪くて、不吉な何かを感じさせる。
「なんなんだ、これは…?」
月並みな呟きだけが、唇からひっそりと漏れた。
「そうですね……とりあえず、向こうに関するものではないのは確かです。」
そう答えた実は、思案げに手で口元を覆った。
「………?」
その沈黙に、尚希は違和感を抱く。
じっと考え込む実。
そこに見えるのは、明らかな迷いだったのだ。
「実?」
尚希が訊ねると、実はハッとしたように目を見開き、次に詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
「すみません。呼び出しておいて言うのを躊躇うってのも、おかしな話なんですけどね……」
その言動で確信する。
実はきっと、拓也にまとわりつく靄の正体に見当がついているのだ。
「実。オレは大丈夫だから、正直に話してくれ。」
あんなものを見た以上、話は最後まで聞きたい。
それが拓也に関することなら、なおさらに。
真剣な表情で実の言葉を待つ尚希。
実はそんな尚希をしばらく見つめ、やがて唇を薄く開いた。
「見た感じでは……」
実は静かにそう切り出し、そこで一旦言葉を止める。
そして……
「―――おそらく、死神の類いかと。」
重々しく、そう告げた。
尚希は、駅前の大通りを早足で駆け抜けていた。
『察しているとは思いますが、あまりいい話ではありません。』
すぐに折り返しの電話を入れた自分に、実が告げた言葉だ。
その言葉が、自分をこうして急がせている。
確かに電話を受けた時、直感的に嫌なものを察知していた。
他人に深く関わろうとしなくなっている実は、あまり外部と連絡を取り合わない。
そんな実が、メールではなく電話をしてきたのだ。
それは、実が自分だけでは対処しきれないと判断したということであり、それだけ事態が深刻である可能性が高いということ。
危機感を持つには十分だった。
仕事はその場で影に任せ、大急ぎで帰路について今に至る。
尚希は大通りに並ぶ店を忙しなく見回し、その中にあるファミレスの扉を開けた。
来店を告げるベルの音でやってきた店員に待ち合わせの旨を伝え、店内を見渡す。
程なくして捜していた姿を見つけ、大股でその席へと向かった。
「悪い。待たせたよな。」
声をかけると、席に座って携帯電話の画面を忙しく叩いていた細い手がピタリと止まる。
うつむいていた頭が上がり、さらりと揺れる淡い栗毛色の髪の隙間から覗く薄茶色の双眸が、わずかに息を上げるこちらの姿をガラス玉のように映した。
「いえ、大丈夫ですよ。」
実は静かに答える。
そこに、いつもなら浮かべる愛想笑いはない。
その反応に、危機感と不安がより一層煽られるようだった。
「で、話って?」
実の向かいの席に腰を下ろしつつ、尚希はすぐに本題へと入った。
実は、そんな尚希をじっと見据えて―――
「その様子だと、尚希さんにはアレが見えてないんですね。」
そう口にした。
「アレ?」
おうむ返しに訊ねる尚希。
一方の実は、そこで少しばかり悩む仕草を見せた。
「多分、見てもらった方が早いかな…? ちょっと、手を貸してもらえますか?」
実が手を差し出してくる。
それが何を意図したものかを瞬時に察し、尚希は実の手に自分の手を重ねた。
互いの手が触れている部分に熱がこもる。
その熱を受け入れると、脳裏に何かの映像が流れ込んできた。
そして―――その映像が何であるかを理解した瞬間、背筋がぞっと凍りついた。
「これは……」
「それが、今朝拓也と会った時に見えたものです。」
実が溜め息混じりに告げる。
その言葉を境に、二人の間に沈黙が落ちた。
「………」
尚希は、険しい表情でテーブルを見つめる。
脳裏には、今しがた実に見せられた映像がくっきりと焼きついていた。
実の視界から見た拓也と―――拓也にまとわりつく、黒い靄のようなもの。
思い返せばそうするほどに、どす黒い不安が増していくようで気分が悪くなる。
(実が急に電話を寄越してきたわけが、これか……)
一目見れば分かる。
これはかなり危険なものだ。
不気味に揺れる靄は、今にも拓也を飲み込もうとしているようだった。
ひどく気味が悪くて、不吉な何かを感じさせる。
「なんなんだ、これは…?」
月並みな呟きだけが、唇からひっそりと漏れた。
「そうですね……とりあえず、向こうに関するものではないのは確かです。」
そう答えた実は、思案げに手で口元を覆った。
「………?」
その沈黙に、尚希は違和感を抱く。
じっと考え込む実。
そこに見えるのは、明らかな迷いだったのだ。
「実?」
尚希が訊ねると、実はハッとしたように目を見開き、次に詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
「すみません。呼び出しておいて言うのを躊躇うってのも、おかしな話なんですけどね……」
その言動で確信する。
実はきっと、拓也にまとわりつく靄の正体に見当がついているのだ。
「実。オレは大丈夫だから、正直に話してくれ。」
あんなものを見た以上、話は最後まで聞きたい。
それが拓也に関することなら、なおさらに。
真剣な表情で実の言葉を待つ尚希。
実はそんな尚希をしばらく見つめ、やがて唇を薄く開いた。
「見た感じでは……」
実は静かにそう切り出し、そこで一旦言葉を止める。
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重々しく、そう告げた。
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