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第3章 ゲーム
拓也から手を引く条件
しおりを挟む「魂…」
茫然と呟く実の言葉を、彼は当然のように肯定した。
「そのとおり。これは、私が今までに集めてきた魂だ。昔は私が見えた人間も多かった故、魂集めもそこそこ愉快だったのだがな。最近では、私を見る人間はほとんどいない。魂を狩るのに手応えもなく、ちょうど飽き飽きしていたところだったのだよ。」
壁に並ぶ魂の数は、数えることもできないほど。
これほどの量になるまでの長い間、彼は気まぐれに魂を狩ってきたのだろう。
「………」
実は地面を見下ろす。
そこには、まだ空っぽのかごが一つ。
―――このかごは、つまり……
「さて、人の子よ。」
彼が口を開いたと同時に、壁の明かりが消える。
実は下ろしていた視線を上げ、まっすぐに彼を見据えた。
こんな光景を見せられても、逃げ出そうとはしない実。
それを見て満足そうな笑顔を浮かべる彼は、まさに死神を彷彿とさせる不気味な雰囲気を醸し出していた。
「あの者に目をつけたのは、正解だったかもしれんな。なんとなく、あの者に揺さぶりをかけてみれば面白いことが起こるかもしれないと思ったが……よもや、こうして私を視認する者が再び現れるとは。なかなかに楽しいことになった。」
「……それは、拓也から手を引く気はないってことか?」
実はきつく眉を寄せて死神を睨んだ。
そんな実の反応に、彼はくすくすと笑い始める。
「誰も、そうとは言っておらんだろう? ただ、まだ何も面白いことが起こっていないのに、素直に手を引くのも少々つまらんのだ。それに、あの者の魂もかなりの上物でな。無条件に手放すのは惜しい。あの者から手を引いてほしければ、その分私を楽しませてくれ。」
「楽しませる?」
胡乱げに問う実に、彼はゆるりと頷く。
「そうだ。今のところ、私はあの者の運命に死を招くきっかけを作ったに過ぎない。今後のあの者の運命は、まだあの者の判断と行動に委ねられている。つまり、あの者の周りにいる人間の働き次第では、その展開を阻止できるというわけだ。―――そこで、一つ提案だ。ゲームをしないか?」
やっぱり胡散臭い。
この物言いは、絶対にろくなことを考えちゃいないだろう。
とはいえ、交渉は最後まで話を聞かないと始まらないものだ。
ひとまずは、乗るしかあるまい。
「……内容は?」
警戒態勢を崩さないまま低く問うと、死神はまた小さく噴き出す。
いちいちこちらの反応を面白がるところは、不愉快極まりないがレティルにそっくりである。
「お主は、本当にいい返答をしてくれるな。気に入ったぞ。」
彼の言葉に、実は思わず嫌悪感を露わにしていた。
「嬉しくない。そんな好意はいらないから、さっさと先を続けてくれ。」
これ以上、神様という類いのものに絡まれるのはごめん被りたい。
にべもなく言い捨てた実に死神は数秒きょとんとして、次に盛大に笑い出した。
「はははっ。私相手にそんなことを言ったのは、お主が初めてだ。……なるほど。どうやら、この手の厄介事には慣れていると見える。」
「………っ」
もはや言葉を返すことすら嫌になり、実は彼を全力で睨むにとどめた。
「分かった。話を続けよう。」
彼は楽しげに言って、一つ咳払いをした。
「私が手を加えれば、あの者の運命を死に固定することはできる。しかし、私はこれ以上あの者に手を加えないと約束しよう。あの者がこの先、死ぬのか生きるのか。それを賭けて遊ぶのだ。ただ、あの者の運命は現段階で限りなく死に近付いておる。このままでは、お主に不利であろうな。ふむ……では、彼が死なぬように、それとなく干渉することはよしとしよう。私の存在を気取られぬようにしつつ、あの者を死の淵から救い出してみるがいい。もしも努力の甲斐なく、あの者が死ぬことになるのなら―――」
妖しく光る死神の目。
それは拓也だけではなく、こちらをも捕らえていた。
フードに隠れた翡翠色の瞳が狩人のようだと感じて、背筋に悪寒が走っていく。
フードを介しても、痛いほどに感じられる視線。
分かった。
彼が何を言わんとしているのか。
実の予想は的中する。
「―――その時には、お主の魂も一緒に狩らせてもらうぞ。」
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