世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
249 / 714
第6章 別れの時

拓也の気がかり

しおりを挟む
 尚希の表情の変化を認めながら、拓也は自分の内にくすぶっている疑念を口にする。


「昨日から、姿を見せてないよな。尚希は一度家に戻ってるって言ってたけど……おれ、違うと思うんだよ。だって、おかしいんだ。おれの中できんの反動を食い止めている実の力が、だんだんと弱ってる。反動の勢力にじわじわ負けてるっていうより、実自身の力が弱ってるんだ。家に戻ってるだけなら、これはおかしいんじゃないか?」


 自分の中で奮闘する実の力が、徐々に弱ってきている。
 これが、大きな気がかりだった。


 変に律儀というか潔癖症というか、実は一度やると決めたことには手を抜かない。
 その姿勢は、魔法に対してもしかりだ。


 自分を助ける時間を稼ぐために、実は自分自身の命を削りかねないほどの魔力を費やしている。


 そんな実が、途中で投げ出すわけがないのだ。


 うぬれでもなんでもなく、それは疑いようのない事実。


 助けられないと分かりきっているなら、実はきっと最初から助けない。


 実が自分を助けようとしているのは、自分が友達である以前に、自分が助かると確信しているからだ。


 実なら、絶対に最後までやりきる。


 それなのに……実の力が弱くなっていくこの現実はなんだ?


 原因として考えられるのは、実が諦めたか、実の身に危険が及んだかの二つ。
 前者がありえない以上、残る可能性は一つだけだ。


「実は、どこで何をしてるんだ?」


 拓也は尚希に厳しく問う。


 あんな見え透いた嘘をついて、実の話題に触れた瞬間にあんな表情をするくらいだ。
 何も知らないはずがないだろう。


 尚希は目を閉じて、首を横に振る。
 だがその寸前、彼の瞳に動揺が走ったのをのがさなかった。


「知らない。」
「キース!!」


 どこか気まずげに顔をらした尚希に、拓也は勢いよく詰め寄る。


「お前、おれの嗅覚を忘れたか!? それが嘘だってのは、においで分かってんだぞ!! どうせ実に口止めでもされてるんだろうけど、今は律儀にそれを守ってる場合か!? 実が危ないかもしれないんだぞ!?」


「危ないのは、お前だって一緒だ。」


「はあっ!? 実よりも、おれの方が危ないって言いたいのか? だったらなおさら、実の心配をすべきだろ! 実が弱ればその分、おれだってきんの反動にやられるんだから。」


「実は、お前が死なない限り死なないよ。」


「そんな保証がどこにある!? あいつは、自分の限界なんてじんも考えずに突っ走るアホだぞ!? それは、キースだって分かってるはずじゃねぇか! 実のことはどうでもいいっていうのかよ!?」


「実の居場所は、本当に知らないんだ!!」


 耐えかねたように尚希が叫ぶ。
 その叫びに含まれた悲痛な響きに、拓也は用意していた罵声を思わず引っ込めた。


 戸惑う拓也の前で、尚希は心底つらそうに言葉を絞り出す。


「それどころか、実が今どんな状況にあるのかすら……オレにも分からないんだよ。オレだって、いっそのこと全部話してしまいたいさ。だけど……そんなことすれば、余計に実の命が危なくなるんだ! どうしようもないんだよ!!」


「なっ…!?」


 拓也は言葉を失う。


 よくは分からないが、実が危機的状況にあるのは間違いないようだ。
 しかも、何か詳細を話せない事情があるらしい。


「オレには……どうすることも、できないんだよ。………くそ…っ」


 ぎゃく的に呟きながら、尚希は自分の無力さを呪う。


 そう。
 自分には何もできない。


 結末がどうなるか。
 それは全て、拓也の判断に左右される。


 自分としては、全てを拓也に打ち明け、実を助けるために魔法を解除してもらいたい。


 しかし……


 拓也の背後で揺れる黒い影が、視界の端にちらつく。
 あれが拓也にいている限り、それはできないのだ。


 拓也を守るために、実が自らの命を賭けに差し出したのだ。
 自分がそれを無駄にすることなど、できるわけがないじゃないか。


 結局……自分は、見ているしかないのだ。


 事情を知っていても所詮は部外者でしかなく、事の顛末てんまつをただ傍観することしかできない。


 それは自分にとって、限りなく絶望に近い苦痛だった。
 本当にやりきれない。


 どうしていつも、自分の気付かないところで、事態は進退きわまるところまで悪化しているのだろう。


 自分が普段からもっと拓也に注意を向けて、早く異変に気付いていれば、拓也がここまで追い詰められることもなかったかもしれない。


 実が命を賭けに差し出すことにもならなかったかもしれない。


 この状況に、尚希は歯噛みするしかなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...