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第2章 諍い
使命か、命か―――
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使命を果たしたいという蓮の意見に、真っ向から述べられた反対意見。
隆文の困った視線と蓮の厳しい視線を浴びながらも、叫んだ本人である紫苑は必死に言い募る。
「蓮だって、よく分かっただろ!? あいつは、人間が敵うような存在じゃないんだ! あいつが本気を出したら、蓮も伯父さんも下手すれば死ぬぞ!? おれは、そんなの絶対に嫌だ!」
「じゃあ、実君を見捨てるって言うのか?」
「―――っ!! でも、おれたちだって、責任を持って依頼を受けるんだ。自分たちの力量は見極めるべきだ。はっきり言って、おれは無理だと思うんだ。実は……きっと、助からない。」
「紫苑!!」
その瞬間、蓮が紫苑の胸ぐらに掴みかかった。
これまであまり感情の浮き沈みを表さなかった彼の表情が、今は苛烈な怒りに染まっている。
「お前っ……拓也君や植松さんがいる前で、なんてことを言うんだ!! 僕たちを頼ってここに来た人は全力で助ける。誰一人として見捨てない。それが九条の掲げる信念だ! 僕はそれが正しいと思うから従う。自分の力量を推し量るばかりじゃ、できるかもしれないことだってできなくなるんだぞ!?」
「………っ」
「確かに、僕たちは全能じゃない。助けられない人もいるだろうさ。だけど、まだ何もしていないくせに、被害者の前で助けられないと断言するのは間違ってる! お前がそうやって弱気な発言をするのは、結局のところ保身のためだろ!?」
「そうだよ! 保身的になって何が悪い!!」
蓮の発言が癪に障ったのか、一瞬は口をつぐんだ紫苑も負けじと言い返す。
すると、蓮の表情がさらに険しく歪んだ。
「この…っ」
「やめなさい!」
「二人とも落ち着け!」
そのまま取っ組み合いになりそうだった二人の間に拓也が割り込み、蓮を隆文が、紫苑を尚希が後ろから抱えてお互いから引き剥がす。
しかし、二人の興奮は一向に冷める様子がなかった。
「おれは……蓮みたいにはなれない。」
紫苑は蓮を睨む。
「おれは蓮みたいにここを継ぐわけでもないし、純に九条の血を引いてるわけでもないから、そうやってがむしゃらに九条の血に従うことなんかできない。人一人の命を預かる責任なんて持てないよ。蓮は実を助けるために、宣言どおり全力をかけるんだろう。ついさっきあんな大怪我をしておいて、今度は下手すれば死ぬかもしれないのに、それでも闘うんだ。」
紫苑の声が、徐々に震え始める。
「傍から聞けば、それは勇気ある行動だって評価されるんだろうさ。だけど……そんなの、自分が命を懸ける側だから言えるんだ! 大切な人に死んでほしくないって思う周りの親しい人たちのことを、これっぽっちも考えていない言葉だ!! おれは、蓮にも伯父さんにも死んでほしくない。そうやって、自分を簡単に投げ出してほしくない。そう思うから……そんな無責任なことは言えない!!」
「―――っ!!」
それに動揺を見せたのは、拓也と尚希の方だった。
ヒートアップしている蓮は、それにより一層眉を寄せるだけ。
「お前には、失望したよ。」
「………っ! おれは……自分が間違ってるなんて思わない。」
一瞬だけ、紫苑の顔が傷ついたように歪む。
だが、紫苑はぎゅっと唇を噛み締めると、尚希の腕を振り払って台所から早足で出ていった。
「すみませんでした!」
深く頭を下げてくる蓮。
それに、拓也と尚希は困惑して互いの顔を見合わせた。
「とりあえず、顔を上げてくれ。」
無言のやり取りの結果、尚希がそう言いながら蓮の肩に手を置いた。
「いいんだ。紫苑君が言うことも、もっともだと思うし。」
「……え?」
尚希の言葉に、蓮はひどく驚いたようだった。
それも、無理のない反応かもしれない。
「………」
すぐに何も言えなくなり、尚希と拓也は静かに目線を落とした。
『大切な人に死んでほしくないって思う周りの親しい人たちのことを、これっぽっちも考えていない言葉だ!!』
紫苑がああ言った気持ちが、痛いほどに分かった。
自分の命を懸けてでもという決断は、確かに美談として語られることが多い。
しかし、それが必ずしも正しいとは限らないのもまた事実。
紫苑が言ったとおり、命を懸けた行動は本人や何も知らない部外者にとってはよくても、その人を大事に想う人にとってはひどくつらい。
大事だからこそ、たとえ無様でも生きていてほしい。
この気持ちを、自分たちは身に沁みて知っている。
周りを想って紫苑のような態度を取れば、それは蓮が言ったように保身的だと受け取られて非難されるのかもしれない。
だが、非難されると分かっていても自分の力量を弁えてああ言えるのは、一つの勇気だ。
「……怒らないんですか?」
毒気を抜かれたように、茫然とした口調で蓮が訊ねる。
それに、尚希は静かに首を振った。
「まさか。紫苑君がああ言うのは、蓮君たちのことがそれだけ大事だってことだよ。その気持ちを捨てろとは言えないさ。責められる……わけがない。」
そうだ。
責められるわけがない。
紫苑の想い。
あれは、いつだって簡単に命を投げ出そうとする実に、自分たちがずっと抱いている想いでもあるのだから。
だからといって、蓮が間違っているとは言わない。
そもそも、どちらも間違ってなどいないのだ。
蓮は使命を全うしようとしているだけだし、紫苑は大事な人たちを守りたいだけだ。
どちらも自分の信念に基づいて、自分なりの決断を下した。
どちらを支持することも、逆にどちらを非難することも、自分たちにはできないのである。
「紫苑君を、あまり責めないでやってくれ。それと、実を見捨てないって言ってくれてありがとう。」
尚希はくしゃりと蓮の頭をなでた。
そんな行動を取ってから子供扱いをしてしまったと気まずく思ったが、蓮はそれに対して何も言わなかった。
「……少し、頭を冷やしてきます。」
どこか落ち込んだ風に台所を出ていく蓮を、誰も引き止めることはできなかった。
隆文の困った視線と蓮の厳しい視線を浴びながらも、叫んだ本人である紫苑は必死に言い募る。
「蓮だって、よく分かっただろ!? あいつは、人間が敵うような存在じゃないんだ! あいつが本気を出したら、蓮も伯父さんも下手すれば死ぬぞ!? おれは、そんなの絶対に嫌だ!」
「じゃあ、実君を見捨てるって言うのか?」
「―――っ!! でも、おれたちだって、責任を持って依頼を受けるんだ。自分たちの力量は見極めるべきだ。はっきり言って、おれは無理だと思うんだ。実は……きっと、助からない。」
「紫苑!!」
その瞬間、蓮が紫苑の胸ぐらに掴みかかった。
これまであまり感情の浮き沈みを表さなかった彼の表情が、今は苛烈な怒りに染まっている。
「お前っ……拓也君や植松さんがいる前で、なんてことを言うんだ!! 僕たちを頼ってここに来た人は全力で助ける。誰一人として見捨てない。それが九条の掲げる信念だ! 僕はそれが正しいと思うから従う。自分の力量を推し量るばかりじゃ、できるかもしれないことだってできなくなるんだぞ!?」
「………っ」
「確かに、僕たちは全能じゃない。助けられない人もいるだろうさ。だけど、まだ何もしていないくせに、被害者の前で助けられないと断言するのは間違ってる! お前がそうやって弱気な発言をするのは、結局のところ保身のためだろ!?」
「そうだよ! 保身的になって何が悪い!!」
蓮の発言が癪に障ったのか、一瞬は口をつぐんだ紫苑も負けじと言い返す。
すると、蓮の表情がさらに険しく歪んだ。
「この…っ」
「やめなさい!」
「二人とも落ち着け!」
そのまま取っ組み合いになりそうだった二人の間に拓也が割り込み、蓮を隆文が、紫苑を尚希が後ろから抱えてお互いから引き剥がす。
しかし、二人の興奮は一向に冷める様子がなかった。
「おれは……蓮みたいにはなれない。」
紫苑は蓮を睨む。
「おれは蓮みたいにここを継ぐわけでもないし、純に九条の血を引いてるわけでもないから、そうやってがむしゃらに九条の血に従うことなんかできない。人一人の命を預かる責任なんて持てないよ。蓮は実を助けるために、宣言どおり全力をかけるんだろう。ついさっきあんな大怪我をしておいて、今度は下手すれば死ぬかもしれないのに、それでも闘うんだ。」
紫苑の声が、徐々に震え始める。
「傍から聞けば、それは勇気ある行動だって評価されるんだろうさ。だけど……そんなの、自分が命を懸ける側だから言えるんだ! 大切な人に死んでほしくないって思う周りの親しい人たちのことを、これっぽっちも考えていない言葉だ!! おれは、蓮にも伯父さんにも死んでほしくない。そうやって、自分を簡単に投げ出してほしくない。そう思うから……そんな無責任なことは言えない!!」
「―――っ!!」
それに動揺を見せたのは、拓也と尚希の方だった。
ヒートアップしている蓮は、それにより一層眉を寄せるだけ。
「お前には、失望したよ。」
「………っ! おれは……自分が間違ってるなんて思わない。」
一瞬だけ、紫苑の顔が傷ついたように歪む。
だが、紫苑はぎゅっと唇を噛み締めると、尚希の腕を振り払って台所から早足で出ていった。
「すみませんでした!」
深く頭を下げてくる蓮。
それに、拓也と尚希は困惑して互いの顔を見合わせた。
「とりあえず、顔を上げてくれ。」
無言のやり取りの結果、尚希がそう言いながら蓮の肩に手を置いた。
「いいんだ。紫苑君が言うことも、もっともだと思うし。」
「……え?」
尚希の言葉に、蓮はひどく驚いたようだった。
それも、無理のない反応かもしれない。
「………」
すぐに何も言えなくなり、尚希と拓也は静かに目線を落とした。
『大切な人に死んでほしくないって思う周りの親しい人たちのことを、これっぽっちも考えていない言葉だ!!』
紫苑がああ言った気持ちが、痛いほどに分かった。
自分の命を懸けてでもという決断は、確かに美談として語られることが多い。
しかし、それが必ずしも正しいとは限らないのもまた事実。
紫苑が言ったとおり、命を懸けた行動は本人や何も知らない部外者にとってはよくても、その人を大事に想う人にとってはひどくつらい。
大事だからこそ、たとえ無様でも生きていてほしい。
この気持ちを、自分たちは身に沁みて知っている。
周りを想って紫苑のような態度を取れば、それは蓮が言ったように保身的だと受け取られて非難されるのかもしれない。
だが、非難されると分かっていても自分の力量を弁えてああ言えるのは、一つの勇気だ。
「……怒らないんですか?」
毒気を抜かれたように、茫然とした口調で蓮が訊ねる。
それに、尚希は静かに首を振った。
「まさか。紫苑君がああ言うのは、蓮君たちのことがそれだけ大事だってことだよ。その気持ちを捨てろとは言えないさ。責められる……わけがない。」
そうだ。
責められるわけがない。
紫苑の想い。
あれは、いつだって簡単に命を投げ出そうとする実に、自分たちがずっと抱いている想いでもあるのだから。
だからといって、蓮が間違っているとは言わない。
そもそも、どちらも間違ってなどいないのだ。
蓮は使命を全うしようとしているだけだし、紫苑は大事な人たちを守りたいだけだ。
どちらも自分の信念に基づいて、自分なりの決断を下した。
どちらを支持することも、逆にどちらを非難することも、自分たちにはできないのである。
「紫苑君を、あまり責めないでやってくれ。それと、実を見捨てないって言ってくれてありがとう。」
尚希はくしゃりと蓮の頭をなでた。
そんな行動を取ってから子供扱いをしてしまったと気まずく思ったが、蓮はそれに対して何も言わなかった。
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