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第3章 始動
〝絶対に助ける〟
しおりを挟む「拓也、尚希さん。大変だとは思いますが、改めてよろしくお願いします。」
時間がないので仕方ないとはいえ、拓也にも尚希にも相当な無理を課してしまった。
そんな申し訳なさがあって、実は二人に深く頭を下げた。
「大丈夫だって。」
やたらとにこにこしながら、拓也たちが言う。
その笑顔は心底嬉しそうで、そのうち口笛でも吹き出しそうなほど上機嫌に見えた。
「なんか、二人とも……すごく嬉しそうなんだけど。」
思ったことを率直に述べると……
「そりゃあ、もちろん。」
拓也が即答し、尚希と二人で顔を見合わせて頷き合った。
「お前がこうやって自分から協力してくれって言ってくれるなんて、初めてのことじゃんか。」
「え? そう?」
指摘を受けた実は、ぱちくりと瞼を叩く。
そんなこと、意識したこともなかった。
だがよく考えてみると、協力してくれと言ったことがなかった気がしないでもない。
「そうだっての。いっつも一人で何もかも背負って、おれたちには何もさせようとしないじゃねぇか。無茶して自分を傷つけて、それでもやるべきことはやるんだって余計に無茶して。一体、何度死にかけてる?」
「あ……いや、それは……」
それには、さすがに返す言葉がない。
今だって死にかけているのだ。
きっと、何を言っても信用には足りないだろう。
「そんな実が協力してくれって言ってきたら、嬉しいに決まってるだろ?」
そう告げた拓也は、実の手を両手で握る。
「お前がどんな運命を背負っているのかは知ってる。周りを信じられない気持ちも仕方ないと思う。でもな、実。おれたちは、何があってもお前の味方だ。おれたちは、お前の敵には絶対にならない。なんたって、おれは一度お前を殺そうとして、できなかったしな。」
本当に情けないけど、と。
拓也は苦笑する。
「あの時、言ったよな? できうる限りの協力はするからって。なのに、お前はそれを忘れてるんだ。いつもいつもいつもいつも……」
実の手を包む拓也の手に、どんどん力がこもっていく。
「ま……まあまあ、もうそのくらいに。」
乾いた笑い声をあげながら、実は控えめに拓也を抑える。
これは、随分と鬱憤が溜まっていたと見える。
冷や汗を浮かべる実を拓也は一度恨めしそうに見据えてから、溜め息と共に表情を和らげた。
「何度でも言う。おれたちは、絶対に裏切らない。だから、もっと肩の力を抜け。できないと思ったり、疲れたと思ったりしたら、いくらでもおれたちを頼っていいんだ。じゃないと、なんのためにおれたちがいるのか分からないだろ?」
拓也の後ろで、尚希も大きく頷く。
「だから、こうやって頼られて、本当にすごく嬉しい。」
最後に満面の笑みで笑いかけられ、実は言葉を失った。
……本当に、自分は彼らを頼っているのだろうか。
胸中に、複雑な気持ちが揺れる。
自分は、桜理の命を繋ぐためにどうしても生き続けなければならない。
今回は、そのために拓也たちを利用しているだけ。
誰かにそう指摘されたら、自分はそれを否定できない。
拓也たちは、自分に頼られて嬉しいと言う。
その優しさすら利用して、自分は自分のために生きようとしている。
都合のいい時だけ彼らに気を許したように錯覚させているだけだと、そう思わずにはいられない。
本当はこんなに申し訳なくて、こんなに怖いのに……
(俺は、卑怯だ……)
決して、拓也たちを信用していないわけではない。
けれど、彼らを完全に信じることができずに、心のどこかで疑っているのもまた事実。
目を伏せてうつむいていると、急に背中を叩かれた。
「いった!」
驚いてそちらを見ると、背中を叩いた拓也が呆れたような半目でこちらを見下ろしていた。
「まったく…。まーた悩んでるな? 本当にお前は、人の好意を受け取るのが下手だよな。いい加減、素直になればいいのにさ。」
「……ごめん。」
なんと言っていいのか分からずに、ただ謝罪を口にするしかなかった。
「別にいいんだよ。」
今度は、尚希が実の肩を叩く。
「お前のその性格は、もう嫌というほど知ってるんだ。お前が信じるのが怖くたって、オレたちが意地でも食い下がっていくだけさ。どれだけ邪険にされたって、どこまでもついていくから覚悟しろよ?」
尚希はにやりと挑むように実を見やり、ぐしゃぐしゃとその頭を掻き回した。
「待ってろ。絶対に助けてやる。」
笑う尚希も拓也も、その瞳に揺れは一切ない。
それに実は大きく目を見開いて、思わず顔を伏せた。
首から上が一気に熱くなるのが分かる。
それに気付かれたくなくて、顔を深く深く下に向けたけど……
「あれ? 実、もしかして照れてる?」
尚希が実の顔を覗き込む。
拓也もそれを見て、口の端を上げた。
「本当だ。耳まで真っ赤だぞ? ……ってか、においでモロバレだけどな。」
ばっちりばれていた。
こんな時は、彼らの能力の高さが恨めしい。
「そんなことないもん……」
いたたまれなくなって、実はさらに縮こまる。
火照った顔とじわじわと温かくなる胸が、とある思いを訴えていた。
「………っ」
実は奥歯を噛み締める。
自分が何を感じ、何を思っているか。
それは、自分自身が一番よく分かっている。
けれど、その感情を口に出すことはできない。
言葉にしてしまえば、それがあふれ出して、自分がどうなるか分からなかったから。
「よく、そんな恥ずかしいことが言えるよね……」
戸惑いをごまかそうとして絞り出した声は、消え入るように小さい。
実はうつむいたまま、拓也たちから顔を逸らす。
「でも……ありがと。」
それを聞いた拓也たちが、しばし固まった後に盛大に噴き出したのは言うまでもない。
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