世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
326 / 714
第1章 束の間の平和

季節は変わり―――

しおりを挟む
 そこはまるで、西洋の宮殿のようだった。


 巨大な両開きの門を超えた先にはつた植物が絡んだ緑のアーチが三つほど続き、その奥の建物を貫くように短いトンネルじみた通路がある。


 そこを抜けて、ようやく建物に入るための大きな玄関が出迎えてくるのだ。


 広大な敷地には、大きな建物が五~六棟ほど建ち並んでいる。
 中庭には芝生が青々と茂っており、こじゃれた噴水やベンチまで設置されていた。


 何を見ても、豪奢ごうしゃできらびやかなイメージを受ける場所。
 この建物はさぞ多くの人に感動を与え、愛されることだろう。


 ―――ここが学校でさえなければ、の話であるが。


 ここは私立聖清学園。
 県内最大の私立高校だ。


 創立百三十三年の歴史を持つ伝統校であり、数多くの著名人を輩出している有名校の一つでもある。


 莫大な金がかかる私立高校にも関わらず、県内外から入学志望者が殺到する聖清学園。
 必然的に、ここには頭脳明晰な生徒が集うようになっていた。


 進学校として勉学にもかなりの力を注いでおり、学園を卒業した暁には多彩な道が用意されている。


 卒業後は名門大学へ進学する者がほとんどだが、仮に別の道を選んだとしても、聖清学園を卒業したという学歴は社会でも絶大だという。


 それ故に、親の見栄でここへ進学する者も少なくない。


 ここは、将来に名を上げるための登竜門ともいえる場所だった。


「………」


 そんな雲の上にでもあるような学園を、拓也は道路を挟んだ向かい側の歩道から見つめていた。


 大通りに面したこの学園は、そんじょそこらの大型デパートなんかよりもよっぽど目立つ。


 今の時間帯は、大きく開いた門から制服を着た生徒たちがぞろぞろと出てくる頃だった。


 男子は薄い水色のシャツと、藍色の生地に青いラインが斜めの格子状に入ったネクタイ、ダークグレーのスラックスに紺のブレザー。


 女子は上半身は男子と同じ服装で、グレーのチェック柄のプリーツスカートを身に着けている。


 校舎の豪華さからすると、意外に落ち着いた制服である。


 拓也は時おり携帯電話に目を落としながら、下校中の生徒たちをぼんやりと眺める。


 やがて、その生徒たちの中にこちらに向かって手を振ってくる人物が現れた。
 彼は早足に人波を抜け、横断歩道を渡ってこちらに近付いてくる。


「門の前にいりゃいいのに。」


 来た早々、彼はそう口にした。


「やだよ。この前門の前で待ってたら声をかけられまくったし、お前の友達だってだけで、なんかすごく驚かれたし。ここで気配を消して待ってる方が楽。」


「ああ…。そういえば、そんなこともあったね。」


「一体どんなことをしたら、おれがあんなに注目される状況になるんだ? 実。」


 横目に呆れた視線をくれてやったが、当の実は涼しい顔。


 季節は変わって五月。
 実と拓也は、お互いに高校へと進学していた。


 実が聖清学園に入学した理由は、ここが家から一番近い高校だったからという点に尽きる。


 なんとも単純でいい加減な理由だが、あれだけ事件に巻き込まれていてまともに学校に行けなかったくせに、普通に受験してあっさり受かったというのだから、まあすごい話である。


 一方の拓也もその秀才振りを大いに発揮し、県内一の県立高校へと進学していた。


 拓也自身は進学しなくてもいいと言っていたのだが、〝 高校は出ないとだめだ!〟という親じみた尚希の強い反対により、こうして今に至る。


 ちなみに、梨央は陸上部の推薦でスポーツに強い市外の私立高校に進んだ。


 心の距離にならうように開いた、物理的な距離。


 卒業式の日に彼女が後ろ髪を引かれるような顔をしていたのは分かっていたが、これで梨央を事件に巻き込む危険性が減ると思うと、安心しているのが本音という実だった。


「んー? 別に、つっけんどんな態度を取ってるつもりはないんだけどなぁ……」


 実は大きく伸びをしながら、のんな口調で欠伸あくびを一つ。
 対する拓也は渋い顔だ。


「そんなこと言って、自覚がないだけなんじゃないのか?」


「知らないよ、そんなの。周りがどう思っていようと、それは個人の勝手じゃん。俺が口出しすることじゃないさ。それより、学校はもう慣れた? そろそろ、テストの話も出始めてるでしょ?」


 実がそう訊ねた瞬間、拓也の顔が若干ひきつる。


「ああ……出てたな。うーん……地球の勉強にも慣れたし、今回は実の手を借りなくてもどうにかなると思う。まあ、頑張るしかないよな。」


 深々と息を吐く拓也。


「まあまあ、あんまり気張らないでよ? ここのところ珍しく平和が続いてるんだし、楽しまなきゃ損だって。」


「まったく、お前は相変わらず余裕だよな。……あ。」


 ふいに、拓也の目が動いた。
 実もすでに気付いているのか、頷きを返す。


 そこに……


「みーのーるっ!!」


 背後から、両手を広げた人物が飛び込んできた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...