世界の十字路

時雨青葉

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第3章 新たな異世界

闇が嗤う―――

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 その後、結局ついてきた晴人と共に、色んな人の元を巡った。


 会った全員にここへ来た時の状況を確認してみると、面白いほどに皆の状況が一致した。


 ここに来てすぐのことは、晴人も含めて皆一様に覚えていないとのことだ。
 ここに迷い込んだと同時に気絶させられて、起きたらこの屋敷にいたらしい。


 元から大して期待はしていなかったため、落胆するようなことはなかった。
 というか、それよりも少し気になることがあったのだ。


 それは、ここにいる人々の様子だ。


 話を聞いた人々は漏れなく青白い顔をしていて、中には眠りたくないと急に騒ぎ出す者もいた。


 いきなり理解できない状況に放り込まれたのだ。
 精神的に不安定になったとしても、おかしくはない。


 そう思いながらも、皆の状態にはどこか違和感があって戸惑った。


 一体、彼らに何が起こっているのか。
 その答えを、実はこの後自ら思い知ることになる。




 ―――……だ…い




 暗闇で、微かに何かが聞こえた。


「何?」


 反射的にそう答えると、闇がわらった。


 ―――……たくさん持ってる。たくさん抱えてる。たくさん背負ってる。


「………?」


 意味が分からない。
 首をひねると、闇はさらにわらう。


 ―――持ってる……たくさんのつらい記憶。抱えてる……誰よりもたくさんの秘密。背負ってる……―――誰よりも重たい、過去と運命。


「―――っ!!」


 闇が何のことを言っているのかが分かって、全身が戦慄せんりつで震えた。


 ―――つらいね……つらいね……


 闇がわらい、様々な記憶が目の前に映像として現れた。


 幼い頃のこと。
 全てを取り戻した時のこと。


 レティルとのやり取り。
 桜理や拓也に尚希が見せる、どこかつらそうな顔。




 そして―――人を殺した時の、おぞましい景色。




 脳裏が、血の色に染まる。


「やめろ!」


 目を閉じて、耳を塞いで、頭を必死に振りかぶる。
 なのに、視界にこびりついた映像は全然消えてくれない。


 ―――悲しい……つらい……立っていられなくなるくらい……


「やめろ! やめろ!」


 ―――誰も信じられない……一人……いつもひとり……怖い……怖くてたまらない。


「黙れ!」


 懸命に拒絶するも、事態はさらに悪化する。
 闇がさざめいて、そこから伸びた何かが腕を掴んだのだ。


「!?」


 とっさに振り払うと、それは瞬時に実体をくして消えた。
 それでも、一瞬見えた。


 自分の腕を掴んだもの。
 それは、闇と同じ色をした手だった。


 ―――怖い……怖い。周りが怖い。


 闇が歌う。


「やめろ! そんなこと言うな! そんなもの見せるな!」


 現れる映像に翻弄ほんろうされながら、必死に叫ぶ。
 しかし、闇はとどめとなる言葉を容赦なく放った。




 ―――でも……―――――一番怖いのは、自分自身。




「やめろーっ!!」


 たまらず、そこから駆け出した。


 ―――あははははっ


 追いかけてくる映像と笑い声を振り払おうと走る。
 しかし、すぐに何かに足を取られて思い切り転んでしまった。


「……つっ………っ」


 手と膝をついて起き上がるが、足を引っ張られたせいでそれ以上は身動きができなかった。


 反射的にそちら見ると、闇から伸びた手が足やふくらはぎをがっちりと掴んでいて、膝から下を完全に闇に縫いつけていた。


 ―――つらい……苦しい……なのに、立たなきゃいけない。


 闇がまたわらう。


「言うな。言わないでくれ……」


 のがれられないと分かっていながらも、耳を塞いで目をきつく閉じる。


 その間にも闇からどんどん手が伸びてきて、足だけではなく服や手や髪も掴んでくる。




 ―――ねえ、ちょうだい?




 ふいに、闇がささやいた。


 ―――つらいね、悲しいね。もう、座り込んでしまいたいくらいに疲れてる。だから、代わりに背負ってあげる。悲しい過去も重たい運命も、全部もらってあげる。だから……ねえ、ちょうだい?


「………っ」


 その囁きは、あまりにも優しくて穏やかだった。


 聞いてはいけない。
 頷いてはいけない。


 目と耳を強く塞いで誘惑に耐えていると、急に髪を後ろから強く引かれた。
 顎先あごさきを捕えられて上向かされ、それと同時に耳から自分の手を引きがされる。


 ―――見てごらん。


 闇が言って、映像が揺れる。


 目の前に現れたのは、自分を見下ろす多くの人々。
 見たことのない顔も、よく知っている顔もあった。


 拓也や尚希、桜理に梨央に晴人もいた。
 その全員が、暗い殺気を灯した冷たい視線でこちらを見下ろしている。


「………っ!!」


 背筋を、悪寒がい上がっていった。


 見たくない。


 そう思うのに、てついた瞳は言うことを聞かず、ただ目の前に広がるものを脳裏に焼きつけるばかり。


 映像が、また揺らぐ。


 次に映ったのは、こちらに背を向けて立っている誰かの姿だった。


 その人物の足元には、さっきまで自分を見下ろしていた人々が、まるで糸の切れた人形のように倒れている。


 そして、ふいに気付いた。




 地に倒れている人々の血溜まりの中に立つ人物が、他でもない自分であることに。




「―――――っ!?」


 声にならない絶叫がほとばしった。


 ―――これが、一番恐れていること。


 闇の言葉が、心の奥底をバラバラに切り裂いていく。


 ―――怖いね? 怖いね? いつかきっと、こうなっちゃうよ?


 闇がけたたましく哄笑こうしょうするが、それはすでに耳には入らなかった。


 血溜まりに立つ自分が、ゆっくりと振り向いてくる。




 返り血に汚れた顔と目が合って、その唇が不気味に歪んで―――そこまでが限界だった。



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