世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
356 / 714
第4章 異世界の仕組み

世界と世界の境目

しおりを挟む
 少し森に分け入ると、屋敷はあっという間にその姿を消してしまう。
 それに構わず、実は迷いなく歩を進めた。


 しかし、ただついてきただけの晴人はかなり不安なようだ。
 落ち着きがない様子でしきりに辺りを気にする挙動に、その不安が大いに表れていた。


「なあ……どこに行くんだ?」
「………」


 晴人が訊ねるも、実は黙して足を機械的に動かすだけ。
 それはまるで、晴人などいないかのような態度だった。


 晴人はむっとしながらも、一度は口を閉ざす。
 しかし、重苦しい空気に耐え続けるには、今の精神状況では無理があった。


「実…」


 再度背中に呼びかけてみるが、やはり返事はない。


「実ってば。」
「………」


「―――っ」


 晴人は表情を険しくする。


「みの――………っ!?」


 感情に任せて怒鳴ろうとした晴人の言葉は、急に立ち止まった実が晴人をはばむように出した手によってさえぎられた。


「実…?」
「しっ」


 この時になって、実は初めて晴人にまともな反応を示した。


「静かに。人の気配が近い。」
「え…?」


 そう言われて、晴人は周りを見渡す。
 しかし、周囲には深い森が広がるばかりで人の姿など見えない。


「さっきからずっとコレを追ってたんだけど……奴ら、この辺りで動きを止めそうだ。」


「?」


 実が何を言ってるのか、晴人にはさっぱり分からない。
 そんな晴人をしりに、実はまた歩き出す。


 ほどなくして、少しひらけた場所に出た。


「……ここっぽいな。」


 実は一人で呟いて、思案げにその周辺の木を見て回った。
 そしてまた、木々の密集地帯へと入っていく。


 実の行動の不可解さに唖然と立ち尽くしていた晴人は、実が下草を踏む乾いた音にハッとして、急ぎ足でその後を追った。


 実が消えた先に向かうと、実は一本の木の下に。


「実……お前、さっきから何してるわけ?」


 理解不能だと、その目が訴えている。


「まあ、色々とね。」


 実は、ざっくりとした答えを返すだけ。


 森には、すでに何人かの気配があった。


 途中まではそれを追って、先ほどからはその気配が向かうであろう場所を予測してここまで来たわけだ。


 ずっと晴人を無視していたのは、感じられる気配が微かで、少しでも意識をらせば気配を追うことができなくなりそうだったから。


 実はすぐ側の木を見上げる。
 高さも枝のつき方もちょうどいい。


「よっと。」


 実は手近の枝に手をかけると、一気に体を浮かせて枝に乗った。
 突然の行動に目を丸くする晴人に、実は手を伸ばす。


「何やってんの? お前も来いって。」
「え? ……なんで?」


 晴人は流れについていけず、棒立ちになって実を見る。


「いいから。理由なら、すぐに分かる。」


 実が手を伸ばしたままうながすと、晴人は困惑しながらもその手を取った。
 実が晴人の手を引っ張り、その力を利用して晴人も木に登る。


「よし、この辺でいいかな。」


 数本の枝を登ったところで、実は幹に手をついて一息。


「晴人、あそこ見て。」
「え?」


 少し遅れて実の隣に立った晴人は、実に言われてその指が示す方向を見た。


 先ほど一瞬だけ立ち寄ったひらけた空間。
 そこが、葉の隙間からよく見えている。


 遠すぎず近すぎない距離のここは、まるで計算したのかと思うくらいに見晴らしがよかった。


「そろそろ来るよ。」
「え? 誰が……あっ!!」


 晴人が声をあげた。
 実が言ったすぐ後、何人かの人々が視線の先に現れたのだ。


 黒い外套がいとうを、フードまですっぽりと被った人々。


 間違いない。
 彼らだ。


「晴人。返したケータイ、持ってる?」


 実は自分の携帯電話を見ながら、晴人にそう訊いた。
 唐突な問いに一瞬固まりつつも、晴人はズボンのポケットに手を突っ込む。


「えっと……確か、いつもの癖でポケットに……あった。」


 晴人の手には、メタリックブルーの携帯電話。
 実はそれを確認し、また彼らの方へ視線を戻した。


「空間が、歪んできてる。」


 呟いた実に、晴人も同じ方を向く。


 彼らは、そこに立っているだけだった。
 怪しい素振りを見せない彼らは、そこで何かを待っているようにも見える。


 何もないままに、時間だけが過ぎる。


 だが、隠しても隠しきれない空気の揺らぎが、この後確実に異変が起こることを実に知らせていた。


 そして数十秒後、変化は唐突に訪れる。


 ぐにゃり、と。


 彼らが立つ前の空間が、ふいに歪んだのだ。
 次に、ばっくりと空間が縦に裂ける。


 そこから現れたのは、一つの扉だった。


「あれが境目か……」


 実はまた、携帯電話に目を落とす。


「五時五十九分。」


 その言葉に、晴人も携帯電話を見る。


「………十、九…」


 静かに、カウントダウンを始める実。


「八…七……」


 晴人からは理解できない、異常な状況に響くカウント。


「六…五…四…」


 晴人が、無意識に携帯電話を握り締める。
 携帯電話の画面に映るデジタル時計が、一秒ごとに時を刻む。


「三…」


 時間は進む。


「二…」


 膨れ上がる晴人の緊張と、対照的に冷静な実の声。


いち…」


 もう、カウントが終わる。




 時計が―――六時を示した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...