世界の十字路

時雨青葉

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第4章 異世界の仕組み

この世界の真実

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「失礼します。」


 応接室のドアが開いたのは、実と晴人がちょうどなごんで笑い合った時だった。


 そこから入ってきたのは、アイスブルーの瞳をした彼。
 晴人が身を強張らせたので、実は「大丈夫だよ」と声をかける。


「おや、起きていましたか。実君にノックはいいと言われたのですが、やはりノックした方が健全でしたね。」


 苦笑して、彼は後ろを見た。


「どうぞ。」


 彼にうながされて入ってきたのは、一人の女性だ。


 歳はおそらく、三十代なかば。
 長い栗色の髪を自然に下ろし、つぶらな垂れ目は気弱さを感じさせる。


 物腰も柔らかで、少女然とした雰囲気と大人びた雰囲気の両方を感じさせる、不思議な女性だった。


 彼女は実たちと向かい合う形でソファーに座り、その隣に彼が座った。


「はじめまして。私はヒスイ。僭越せんえつながら、ここを取りまとめさせていただいております。こちらはシルヴィス。私の補佐を受け持っています。突然このような場にお連れしたことを、まずはお詫びさせてください。」


 ヒスイは丁寧に頭を下げた。


「詫びとか堅苦しいのはそこまででいいから、まずはなんで俺たちがここに連れてこられたのかを教えてほしい。」


 前置きを全部飛ばして単刀直入に言うと、ヒスイは静かに頷いた。


「はい。今回はシルヴィスに勧められて、あなたをここにお連れした次第です。あなたには、全てをお話しした方がいいのではないかと。」


 実は思わずシルヴィスを見る。
 意外といえば意外だが、これ以上にありえる話の出どころもなかった。


「あなたは、中途半端にここを知りすぎている。このまま何も話さないでいたら、そのうちへいの向こうに無理やり行こうとするかもしれないでしょう?」


 シルヴィスの言葉に、実は口をつぐむしかない。
 その自信は大いにあったからだ。


「そういうことです、ヒスイさん。」


 ヒスイに話を渡すと、シルヴィスは口を横に結んだ。
 言うべきことは言った、ということらしい。


「分かりました。シルヴィスがここまで言うのなら、あなたには知る権利があるのでしょう。私の知りうる限りをお話します。」


 そうして、ヒスイは物静かな雰囲気で語り始めた。


「まずお分かりだとは思いますが、ここはあなた方の世界とは異なる次元に存在しています。そして私たちは、ここに暮らす永久とわの旅人。ろうの民族です。」


「………?」


 実は顔をしかめた。
 そんな率直な反応に、ヒスイは苦笑を呈する。


「そうですね。分かりにくい説明かも知れません。流浪の民だと言いながら、私たちは自分が放浪しているのだと実感できません。あなた方にも、私たちが放浪しているようには見えないでしょう? 正確に言うなら、放浪しているのは私たち自身ではなく、私たちが身を置くこの世界そのものなのです。」


「―――っ!?」


 実の顔色が、瞬時に変わった。


 そんなことがありえるのか。
 とっさにそう疑ったが、ヒスイに嘘をついている素振りは見受けられない。


「この世界自体が……次元のはざをさまよってるってこと…?」
「ご明察です。」


 実の呟きに、ヒスイがそう返す。


「ここは一つの次元にとどまらず、流れに身を任せるように放浪し続けています。そして、流れ着く先々の世界と一時的に重なることがあります。それで時々、森の扉の向こうから人が迷い込んでくることがあるのです。あなた方のように。」


 ヒスイの言葉に、実は納得の表情を浮かべた。


 やはり、地球での一連の事件は人為的なものではなかったのだ。


「つまり、あんたたちはここに迷い込んだ人たちを保護していただけだと。そういうことなんだな?」


「そのとおりです。」


「なら、どうして保護した人たちをすぐに帰さない? 扉が開く時間が限られていたとしても、そのタイミングを狙えば、一日で元の世界に帰せたはずだろ。」


 今の話を聞くと、なおさらに腑に落ちない。


 こちらに対してとても丁寧な対応をするのに、どうして保護をするだけで元の世界に帰さないのか。


 訊ねながら、それとほぼ同時並行で答えを推測する。


 彼女たちの態度に辻褄つじつまが合うように考えるなら―――


「帰さないのではありません。帰せないのです。」


 ちょうど実が辿り着いた答えを、ヒスイが口にした。


「ここに迷い込んだ人々は、必ず己の恐怖と向かい合うことになります。それにあなた方が打ち勝たない限りは、私たちもどうにもできないのです。しかも、あの扉は基本的に、向こうからこちらへの一方通行。こちらから元の世界に帰れるタイミングは、この世界とあなた方の世界が離れる瞬間の一時だけ。私たちもこれまでに様々な方法を模索しましたが、この仕組みを変えることはできませんでした。本当に、申し訳ない話ですが……」


「もし……帰れる時までに、自分の恐怖に勝てなかったら?」


 そう訊いたのは、実の隣で震える晴人だ。
 ヒスイは、そんな晴人を無言で見つめる。


 答えてもいいものか。
 そう考えているように見えた。


「それは俺も聞きたいな。」


 先手を打って、実は晴人に加勢する。


 ここまで話を聞いたのだ。
 今さら口を閉ざさせるつもりなど、毛頭もない。


 実が晴人に乗ったのは、絶大な効果を生んだ。


 ゆっくりと目を閉じたヒスイは、ソファーから立ち上がるとカーテンが閉まる窓際に近寄った。


「どうぞ。きっと、見た方が早いでしょう。」


 ヒスイの言葉に頷いて、実は窓際に向かう。
 晴人もその後に続いた。


 実たちが窓に近付くまで待って、ヒスイはカーテンを引いた。

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