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第5章 それぞれの選択
決別
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血が飛び散っていた。
たくさんの人が殺されている。
―――他でもない、自分の手によって。
それを見たくないと願っても、どこからともなく伸びた大量の手が体を拘束していて身動きが取れない。
まるで、目を逸らすことを許さないとでも言われているようだ。
何もできない自分の前で繰り広げられる、凄惨な光景。
もう一人の自分が、とうとう最後の一人を殺し終えた。
そんな自分の後ろ姿を、虚ろな気持ちで見つめる。
壮絶な風景に落ちる、重苦しい沈黙。
―――くすくすくす……
闇が嗤う。
感情が停止する。
眼前に広がる光景を、理性が全身全霊で拒絶していた。
もう、何も感じられない……
動くこともままならずに座り込む自分を、ふいにもう一人の自分が振り返った。
目が合って、一瞬心が揺れる。
返り血に汚れるもう一人の自分は、悲しげな表情で涙を流していたのだ。
「―――行こう。」
彼は、微かな声でそう言った。
「俺だって……こんなことしたくないよ。」
一歩一歩、時々ふらつきながらこちらに近付いて、彼は必死に訴えてくる。
「どうして、こんなことをしなきゃいけないの…? どうして…? 俺は、ここにいるだけなのに。どうして、こんなにつらい気持ちばかり……」
滂沱の涙を流しながら、彼は自分の前に立った。
「行こう。全部、この闇に預けてしまおう。そうすれば、こんなことしなくて済む。運命だって、俺たちを追ってこられない。誰も、俺たちの存在を責めないんだ。だから……」
血に濡れた手で、彼は頬を優しく挟んでくる。
うつむいた彼の涙が、何滴も顔に落ちてきた。
「………」
感情が消えて、体の髄までもが冷めていく気がした。
「―――――ふざけるな。」
それは、波が引いた後に起こる巨大な津波に似ていた。
感情が消えた次の瞬間、胸の奥で抗いきれない激情の奔流が爆発する。
無意識に、手の先に力が集まる。
それまで全身を拘束していた手に構わず、実は感情の赴くままに、血だらけの自分を切り捨てていた。
その手にはいつの間にか、水晶のように透き通った剣が握られている。
「ふざけるなよ?」
立ち上がった実は倒れた自分を見下ろし、その顔に不敵な笑みを浮かべる。
「こいつに、俺の重荷が背負えるわけないだろう。俺が持って生まれた運命は、他人に預けられるほど軽いもんじゃないんだよ。見くびるな。これは、俺が背負っていく。誰にも背負わせない。お前は、弱い俺だ。一瞬でも帰ることを躊躇った、弱い俺の姿だ。」
―――どうして? どうして? 全部くれれば、もうつらくない。毎日幸せに生きられるのに。
「黙れ!」
服に絡みつく手を横薙ぎに斬って、実は果てのない闇を睨みつける。
「幸せ? 違うね。」
実は、はっきりと闇の言葉を否定する。
「俺は、一度全部から逃げた。桜理の面影から逃げたくて、全部を捨てた。確かに重荷からは解放されて、夢は見られたさ。だけど、自分が空っぽだっていう感覚だけは消えなかった。全部を捨てて得られたのは仮初めの幸せと、尽きない喪失感と虚しさだ。」
ここで闇に全てを預けたら、自分は自分であることをまた放棄することになる。
そう思うと、腸が煮えくり返りそうだった。
「俺は一度捨てて、また取り戻して、色んなものを失って、色んなことを思い知って……それでも、色んなものを得た。また逃げるなんて、俺が許さない。」
絶対に帰ってこいと言った拓也。
自分が無理する度に怒って、それでも強く見守ってくれる尚希。
一度は裏切ったのに、そんな自分を許して笑ってくれた桜理。
晴人や梨央や、今まで出会ったたくさんの人々。
巻き込みたくない。
近付いてほしくない。
できることなら、自分の知らないどこかで笑っていてほしい。
でも―――失いたくない。
脳裏に映像が弾ける。
それは様々なシーンを継ぎ接ぎしたような、途切れてばかりで一貫性のない映像。
実は拳を握り締める。
「ふざけるな……未来なんか、変えてやる。俺の行く先にこんな結末しか待ってないなら、その時は俺が俺を殺してやる。誰の手も汚させなんかしない。自分の始末は、自分でつける。」
実はすっと剣を構える。
その表情には、怜悧な美しさすら感じさせるような無がたたえられていた。
「俺に、この闇はいらない。―――――さよならだ。」
次の瞬間、実は足元の闇に思い切り剣を突き立てた。
たくさんの人が殺されている。
―――他でもない、自分の手によって。
それを見たくないと願っても、どこからともなく伸びた大量の手が体を拘束していて身動きが取れない。
まるで、目を逸らすことを許さないとでも言われているようだ。
何もできない自分の前で繰り広げられる、凄惨な光景。
もう一人の自分が、とうとう最後の一人を殺し終えた。
そんな自分の後ろ姿を、虚ろな気持ちで見つめる。
壮絶な風景に落ちる、重苦しい沈黙。
―――くすくすくす……
闇が嗤う。
感情が停止する。
眼前に広がる光景を、理性が全身全霊で拒絶していた。
もう、何も感じられない……
動くこともままならずに座り込む自分を、ふいにもう一人の自分が振り返った。
目が合って、一瞬心が揺れる。
返り血に汚れるもう一人の自分は、悲しげな表情で涙を流していたのだ。
「―――行こう。」
彼は、微かな声でそう言った。
「俺だって……こんなことしたくないよ。」
一歩一歩、時々ふらつきながらこちらに近付いて、彼は必死に訴えてくる。
「どうして、こんなことをしなきゃいけないの…? どうして…? 俺は、ここにいるだけなのに。どうして、こんなにつらい気持ちばかり……」
滂沱の涙を流しながら、彼は自分の前に立った。
「行こう。全部、この闇に預けてしまおう。そうすれば、こんなことしなくて済む。運命だって、俺たちを追ってこられない。誰も、俺たちの存在を責めないんだ。だから……」
血に濡れた手で、彼は頬を優しく挟んでくる。
うつむいた彼の涙が、何滴も顔に落ちてきた。
「………」
感情が消えて、体の髄までもが冷めていく気がした。
「―――――ふざけるな。」
それは、波が引いた後に起こる巨大な津波に似ていた。
感情が消えた次の瞬間、胸の奥で抗いきれない激情の奔流が爆発する。
無意識に、手の先に力が集まる。
それまで全身を拘束していた手に構わず、実は感情の赴くままに、血だらけの自分を切り捨てていた。
その手にはいつの間にか、水晶のように透き通った剣が握られている。
「ふざけるなよ?」
立ち上がった実は倒れた自分を見下ろし、その顔に不敵な笑みを浮かべる。
「こいつに、俺の重荷が背負えるわけないだろう。俺が持って生まれた運命は、他人に預けられるほど軽いもんじゃないんだよ。見くびるな。これは、俺が背負っていく。誰にも背負わせない。お前は、弱い俺だ。一瞬でも帰ることを躊躇った、弱い俺の姿だ。」
―――どうして? どうして? 全部くれれば、もうつらくない。毎日幸せに生きられるのに。
「黙れ!」
服に絡みつく手を横薙ぎに斬って、実は果てのない闇を睨みつける。
「幸せ? 違うね。」
実は、はっきりと闇の言葉を否定する。
「俺は、一度全部から逃げた。桜理の面影から逃げたくて、全部を捨てた。確かに重荷からは解放されて、夢は見られたさ。だけど、自分が空っぽだっていう感覚だけは消えなかった。全部を捨てて得られたのは仮初めの幸せと、尽きない喪失感と虚しさだ。」
ここで闇に全てを預けたら、自分は自分であることをまた放棄することになる。
そう思うと、腸が煮えくり返りそうだった。
「俺は一度捨てて、また取り戻して、色んなものを失って、色んなことを思い知って……それでも、色んなものを得た。また逃げるなんて、俺が許さない。」
絶対に帰ってこいと言った拓也。
自分が無理する度に怒って、それでも強く見守ってくれる尚希。
一度は裏切ったのに、そんな自分を許して笑ってくれた桜理。
晴人や梨央や、今まで出会ったたくさんの人々。
巻き込みたくない。
近付いてほしくない。
できることなら、自分の知らないどこかで笑っていてほしい。
でも―――失いたくない。
脳裏に映像が弾ける。
それは様々なシーンを継ぎ接ぎしたような、途切れてばかりで一貫性のない映像。
実は拳を握り締める。
「ふざけるな……未来なんか、変えてやる。俺の行く先にこんな結末しか待ってないなら、その時は俺が俺を殺してやる。誰の手も汚させなんかしない。自分の始末は、自分でつける。」
実はすっと剣を構える。
その表情には、怜悧な美しさすら感じさせるような無がたたえられていた。
「俺に、この闇はいらない。―――――さよならだ。」
次の瞬間、実は足元の闇に思い切り剣を突き立てた。
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