387 / 714
第6章 悲しい別れ
自分の答えを―――
しおりを挟む「ちょっ……実、どこ行くんだよ!?」
「うるさい! いいから走れ!!」
広い屋敷を、実と晴人は走る。
遠くで高い笛の音のようなものが聞こえたが、それに構っている暇はない。
走りながら、実は無言で手を横に一閃。
すると、廊下に一本の光の筋が走った。
それに従って屋敷の中を進むと、やがて光が向かう先に壁が見えてくる。
「突っ込むぞ!」
「ええっ!?」
素っ頓狂な声をあげる晴人を無視して、実は一切スピードを落とさずに壁に飛び込んだ。
ぶつかると思って目を閉じていた晴人だが、予想した衝撃がないのでおそるおそる目を開ける。
そこに、壁はなかった。
「あれ…? どういうこと?」
「あの壁はまやかしだ。俺たちがこっちに来られないようにするためのな。」
まったく。
備えあって憂いなし、転ばぬ先の杖である。
晴人に向けて説明しながら、そんなことを思う。
以前連れていかれる生徒を追ってここに足を踏み入れた時、再調査の可能性も踏まえて自分が通った道に印をつけておいたのだ。
結局、帰りはシルヴィスに案内されたのでこの印を使うことはなかったが、念のために消さないでおいてよかった。
「な…っ!? 待ちなさい!」
進行方向にいた数人が、突然飛び込んできた実たちに目を剥く。
ここに誰かが迷い込んでくることはないと思っていたのか、いつもの黒い外套は身につけていなかった。
実は一つ舌打ちをすると、晴人を壁に突き飛ばした。
「いった……何する―――」
晴人の言葉は途中で消える。
視線の先では、実が数人に対して一人で特攻していたからだ。
実は素早く相手の後ろに回り込み、その相手に反応する隙を与えることなく一瞬で気絶させる。
驚いた他の人々が二人がかりで実を押さえにかかったが、実はまるで羽のような軽い身のこなしでそれを避けた。
「寝てろ!」
晴人が呆気に取られている間に、実はそこにいた全員を片付けてしまっていた。
「行くぞ。」
晴人の腕を引いて、実はまた走り出す。
その後もシルヴィスが集めたらしい防衛要員が待ち構えていたが、実はその全員をほぼ一撃で倒していった。
ようやく見えてくる巨大な扉。
だが、その前にも多くの人々が立ちはだかっていた。
いちいち相手にするのも面倒になって、実は敵の隙間をくぐり抜けて晴人を扉の前に押し出す。
「晴人、よく聞け!」
向かってきた男性二人を一蹴りで黙らせた実は、扉の前で困惑する晴人に告げる。
「この先にどんな現実が待ってるのか……それは、俺が説明したって分かんないだろ。だから、自分の目で見てこい!」
言葉を紡いでいる間にも、実は晴人に向かおうとする人々を片っ端から倒していく。
「いいか、十五分やる! その中で自分の目で真実を見て、自分の答えを出してこい!」
そこでようやく、晴人は実が自分をここまで連れてきた理由を察した。
華奈美に会いに行け、と。
実はそう言っているのだ。
「………」
晴人は、目の前にそびえる扉を見上げる。
この先に華奈美がいるはずだけど……自分を受け入れられないだろう彼女に、何ができるのだろうか。
そう思うと、少し怖かった。
「怯むな! 諦めたくないんだろ!!」
こちらの躊躇いを見抜いたような、実の叱咤。
それで、晴人は覚悟を決める。
扉は開いて、その向こうにゆっくりと足を踏み入れる。
次の瞬間には、足が自然と地面を蹴っていた。
晴人が進んだことを確認して、実はほっと息をつく。
「もうやめなさい。彼が行ってしまった以上、この戦いに意味はありません。」
ちょうどその時、実たちの間に静かな声が割って入った。
その声に従って、実の周りから人が離れていく。
「今頃着いたの?」
実は大きく息を吐き出して、歩いてくるシルヴィスを見やった。
一方のシルヴィスは、なんとも言えない表情で周りを見回しながら実へと近付く。
「これでも皆さんを誘導しながら、人を掻き集められるだけ掻き集めたんですよ? それをこんなにして……あなたは、一体何者なんですか。」
怪我人こそいないものの、多くの人々が気絶しているか、確実に急所を攻撃されてうずくまっているという悲惨な状況。
とても、こんなに華奢な少年が作り出したものとは思えない。
シルヴィスは溜め息をつきながら、手に持っていたものを実に差し出した。
それは、実が晴人を連れて走り出す直前に外した腕輪である。
「父さんの教育と、経験の賜物だな。」
腕輪を受け取りながら言ってやると、シルヴィスは渋面を作った。
次に表情を曇らせた彼は、晴人が消えた扉の先を見つめる。
「いいんですか? 彼、戻ってこないかもしれませんよ。それに、場合によっては相手の命を危険にさらしかねない。」
「分かってるよ。」
実は頷く。
「でも、あいつなら月宮を殺すようなへまはしないさ。あとは……どんな答えを出そうと、晴人の自由だ。俺の覚悟はできてる。」
そう言う実の目は、口調と同じように揺らぎなかった。
なんと肝の据わった少年だろう。
シルヴィスは実の言葉に驚いてしまう。
彼は、友人の下した選択ならば、友人と別れることになっても構わないと言っているのだ。
ここまでのリスクを冒して、扉の先に晴人を送り込んだのだ。
決して浅い関係ではないはずなのに。
「本当に、損な性格してますよ。あなたは……」
シルヴィスは、苦々しくそう呟くしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる