世界の十字路

時雨青葉

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第6章 悲しい別れ

自分の答えを―――

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「ちょっ……実、どこ行くんだよ!?」
「うるさい! いいから走れ!!」


 広い屋敷を、実と晴人は走る。
 遠くで高い笛の音のようなものが聞こえたが、それに構っている暇はない。


 走りながら、実は無言で手を横に一閃。
 すると、廊下に一本の光の筋が走った。


 それに従って屋敷の中を進むと、やがて光が向かう先に壁が見えてくる。


「突っ込むぞ!」
「ええっ!?」


 素っ頓狂な声をあげる晴人を無視して、実は一切スピードを落とさずに壁に飛び込んだ。


 ぶつかると思って目を閉じていた晴人だが、予想した衝撃がないのでおそるおそる目を開ける。


 そこに、壁はなかった。


「あれ…? どういうこと?」
「あの壁はまやかしだ。俺たちがこっちに来られないようにするためのな。」


 まったく。
 備えあってうれいなし、転ばぬ先の杖である。


 晴人に向けて説明しながら、そんなことを思う。


 以前連れていかれる生徒を追ってここに足を踏み入れた時、再調査の可能性も踏まえて自分が通った道に印をつけておいたのだ。


 結局、帰りはシルヴィスに案内されたのでこの印を使うことはなかったが、念のために消さないでおいてよかった。


「な…っ!? 待ちなさい!」


 進行方向にいた数人が、突然飛び込んできた実たちに目をく。


 ここに誰かが迷い込んでくることはないと思っていたのか、いつもの黒い外套がいとうは身につけていなかった。


 実は一つ舌打ちをすると、晴人を壁に突き飛ばした。


「いった……何する―――」


 晴人の言葉は途中で消える。
 視線の先では、実が数人に対して一人で特攻していたからだ。


 実は素早く相手の後ろに回り込み、その相手に反応する隙を与えることなく一瞬で気絶させる。


 驚いた他の人々が二人がかりで実を押さえにかかったが、実はまるで羽のような軽い身のこなしでそれをけた。


「寝てろ!」


 晴人が呆気に取られている間に、実はそこにいた全員を片付けてしまっていた。


「行くぞ。」


 晴人の腕を引いて、実はまた走り出す。


 その後もシルヴィスが集めたらしい防衛要員が待ち構えていたが、実はその全員をほぼ一撃で倒していった。


 ようやく見えてくる巨大な扉。
 だが、その前にも多くの人々が立ちはだかっていた。


 いちいち相手にするのも面倒になって、実は敵の隙間をくぐり抜けて晴人を扉の前に押し出す。


「晴人、よく聞け!」


 向かってきた男性二人を一蹴りで黙らせた実は、扉の前で困惑する晴人に告げる。


「この先にどんな現実が待ってるのか……それは、俺が説明したって分かんないだろ。だから、自分の目で見てこい!」


 言葉をつむいでいる間にも、実は晴人に向かおうとする人々を片っ端から倒していく。


「いいか、十五分やる! その中で自分の目で真実を見て、自分の答えを出してこい!」


 そこでようやく、晴人は実が自分をここまで連れてきた理由を察した。


 華奈美に会いに行け、と。
 実はそう言っているのだ。


「………」


 晴人は、目の前にそびえる扉を見上げる。


 この先に華奈美がいるはずだけど……自分を受け入れられないだろう彼女に、何ができるのだろうか。


 そう思うと、少し怖かった。


「怯むな! 諦めたくないんだろ!!」


 こちらの躊躇ためらいを見抜いたような、実の叱咤。
 それで、晴人は覚悟を決める。


 扉は開いて、その向こうにゆっくりと足を踏み入れる。
 次の瞬間には、足が自然と地面を蹴っていた。


 晴人が進んだことを確認して、実はほっと息をつく。


「もうやめなさい。彼が行ってしまった以上、この戦いに意味はありません。」


 ちょうどその時、実たちの間に静かな声が割って入った。
 その声に従って、実の周りから人が離れていく。


「今頃着いたの?」


 実は大きく息を吐き出して、歩いてくるシルヴィスを見やった。
 一方のシルヴィスは、なんとも言えない表情で周りを見回しながら実へと近付く。


「これでも皆さんを誘導しながら、人を掻き集められるだけ掻き集めたんですよ? それをこんなにして……あなたは、一体何者なんですか。」


 怪我人こそいないものの、多くの人々が気絶しているか、確実に急所を攻撃されてうずくまっているという悲惨な状況。


 とても、こんなに華奢きゃしゃな少年が作り出したものとは思えない。


 シルヴィスは溜め息をつきながら、手に持っていたものを実に差し出した。
 それは、実が晴人を連れて走り出す直前に外した腕輪である。


「父さんの教育と、経験の賜物たまものだな。」


 腕輪を受け取りながら言ってやると、シルヴィスは渋面を作った。
 次に表情を曇らせた彼は、晴人が消えた扉の先を見つめる。


「いいんですか? 彼、戻ってこないかもしれませんよ。それに、場合によっては相手の命を危険にさらしかねない。」


「分かってるよ。」


 実は頷く。


「でも、あいつなら月宮を殺すようなへまはしないさ。あとは……どんな答えを出そうと、晴人の自由だ。俺の覚悟はできてる。」


 そう言う実の目は、口調と同じように揺らぎなかった。


 なんと肝のわった少年だろう。
 シルヴィスは実の言葉に驚いてしまう。


 彼は、友人の下した選択ならば、友人と別れることになっても構わないと言っているのだ。


 ここまでのリスクを冒して、扉の先に晴人を送り込んだのだ。
 決して浅い関係ではないはずなのに。


「本当に、損な性格してますよ。あなたは……」


 シルヴィスは、苦々しくそう呟くしかなかった。

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