世界の十字路

時雨青葉

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第1章 ニューヴェル

ニューヴェルのアイレン家

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「!?」


 実と拓也は、反射的に声の方向から距離を取って身構える。


 そこにあるのは、とある民家のへい
 その内側から、家人らしき老婆がこちらを覗き込んでいた。


「ふふふ、若いねぇ。」

 
 微笑ましげに眉を下げる老婆を、実たちは警戒心をき出しにして睨む。


 ―――気配に気付かなかった。


 これまでの教育から、自分たちは意識せずとも身の周りの気配に常に神経を尖らせている。


 それなのに、この老婆の気配を感じ取れなかったのだ。


「……何者ですか?」


 低く問う実に、老婆は鷹揚おうように笑う。


「その身のこなし、お前さんたちは知恵のそのの子供かい?」
「なっ…!?」


 瞠目して言葉を失う実たち。
 老婆は、細い目をさらに細めた。


「ああ、やっぱりそうかい。懐かしいねぇ。なに、そう警戒する必要はないさ。私もかつては、あそこで暮らしていた人間だからねぇ。」


 もう随分前に引退したけれど、と。
 老婆は、実たちに好意的な目を向けた。


 そんな彼女を警戒したまま実に対し、拓也は少し体から力を抜くと実の肩を叩く。


「この人は大丈夫だ。実際にそういう人はいるし、この人からは嘘臭いにおいもしない。」


 聞いたことがある。


 知恵のそので育った人間は、一定の年齢に達すると、城に残るか故郷に帰るかを選べたはずだ。


 その大多数が、残り少ない余生くらいは故郷で暮らしたいと引退しているらしい。


 拓也が断言すると、老婆が感心したように目を見開いた。


「おや、お前さんはにおいに敏感なのかい。そりゃあ、酔いもするだろう。災難だね。この街は貧富の差も大きいし、たくさんの人種が混ざっているから。」


「ええ、まったくです。」


 拓也が溜め息混じりにそう返すのを見て、実もようやく警戒心を解いた。
 それに、老婆が目尻を下げる。


「やれやれ、ようやく警戒を解いてくれた。やっと話を進められそうだね。」
「え?」


 老婆の突然の言葉に、実と拓也は目を丸くする。


 話を進められそうとは、一体どういう意味なのだろう。
 そんな実たちの内心は、老婆に筒抜けだったようだ。


「私は占いで生きてきたんだ。もう力は弱ってきちまったけど、今日お前さんたちが来ることは分かっていたよ。お探しものがあるってこともねぇ。」


「………っ!?」


 もはや、出る言葉もなかった。


 彼女は今朝の夢で自分たちがこの辺りに来ることを知り、面白そうだから日に当たりがてら到着を待っていたと言うのだ。


「吉凶占いに、お前さんたちがこの街の運を左右すると出ていたからねぇ…。ちょっと協力してやろうと思ったわけさ。さあ、何をお探しかな?」


 老婆は、ゆったりとした口調で訊ねてきた。


 警戒は解いたとはいえ、信用したかと言えば話は別。
 そんな実は、事情を話すことを躊躇ためらってしまう。


 その隣で、拓也が実とは逆に迷いなく口を開いた。


「親切心は感謝します。でも、おれたちが探しているのは人なんです。占い系統の術は失せ物探しには向いていても、人探しはできないと聞いていますが。」


 占いに強い術者は、くした物をその技術によって探すことができるという。


 ただし、あくまでもそれは全く動かない無機質な物体を対象とするもの。
 常に動き回る生き物を探すのは、魔力干渉などのノイズが激しいために難しいのだ。


「よく知っているね。優秀な子だ。」


 老婆はそう肯定した。
 そして次に、期待外れだと言わんばかりに息をつく。


「人捜しとは……さすがに、そこまでは見えなかったねぇ。探しているのはどこの家だい? 地元の人間なら、地図から探せないこともない。」


「アイレンです。」


 拓也が答えると―――


「は…?」


 途端に、老婆が驚愕したように息を飲んだ。


「お前さんたち……あの家に入り用かい? 一体なんで?」
「知ってるんですか!?」


 老婆の言葉に、拓也は思わずへいに飛びついていた。
 その食いつきように戸惑いを見せながらも、老婆が一つ頷く。


「知ってるも何も……ここいらじゃ、一番有名な家さ。逆に、知らない連中はいないんじゃないかい。」


 この後に続いた言葉に実たちは言葉をなくし、それと同時にこの事件の核心をかい見たのだった。




「なんたって、領主様の家だからね。」



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