世界の十字路

時雨青葉

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第3章 襲撃

昔から変わらない瞳

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 ドアを開くと、部屋の中では尚希がカルノと何やら真剣に話している様子だった。
 カルノの話に、尚希は難しそうな顔をしている。


 話の邪魔をしないよう、拓也は部屋のすみで持っていた本を読みながら待つことにした。


 しばらくして―――


「分かった。先方にはそのように伝えるよ。」


 渋々といった感じでカルノが言い、二人の話は終わった。


 いつものように大量の書類を持ったカルノが、拓也にしゃくで挨拶を交わしつつ部屋から出ていく。


「おお…。拓也、いたのか。」


 カルノの姿がなくなってから、尚希は盛大な溜め息と共に椅子にもたれかかった。


 拓也は本を閉じて、尚希の元に近付く。


 その手元を覗き込むと、豪奢ごうしゃな封筒と手紙が置いてあった。
 手紙は何枚にも渡り、一枚目の便箋びんせんには何かの日時が記されている。


「招待状?」


 訊ねると、尚希はうんざりとして肩を落とした。


「ああ。明後日、ニューヴェルのお偉いさんや交易相手を交えたパーティーがあるらしい。最近、挨拶回りで色んな所に顔を出してたからなぁ…。情報が流れて、急きょオレ宛てに招待状が届いたんだよ。」


「ふーん…。行くのか?」
「誰が。」


 尚希は拓也の問いを一蹴する。


「オレはまだ、正式な領主じゃないの。ある程度の仕事はするけど、社交的な場に顔を出すつもりはないよ。余計な情報は流したくないしな。さっきまで、どうやって断るかをカルノと話し合ってたんだ。」


 尚希は溜め息をつく。


 アイレン家の事情については、たとえニューヴェルの内部だろうと漏らしたくない。


 必要最低限の介入しかせず、情報も必要最低限しか与えない。
 できるだけ、今のうやむやな状況を保っておきたいのが本音だった。


 しかし、相手が並大抵の理由では引かないことも分かっている。
 なので、多少強引だが今日で知恵のそのに戻ると言って断ることにした。
 もう出立したことにするので、交渉はカルノが請け負ってくれることに。


 とはいえ、カルノが長い話し合いをしている間も、こちらはこちらで仕上げなければいけない資料や、目を通しておかなければならない報告書がたんまりあるので、休む時間などないのだが。


 目の前に積まれた書類の束に、尚希は辟易する思いで額を押さえた。


 やれやれ。
 領主補佐の立場にいる今でこんな状態なのだから、いざ本当に領主を継いだ時が怖い。


(領主、か……)


 脳内でその単語を繰り返し、胸中はますます複雑になる。


 領主を継いだ時。
 そんな未来のことなど、自分に考える余裕があるのだろうか。


 下手すれば、領主を継ぐよりも前に自分は―――


「尚希?」


 黙り込んで目を伏せる尚希に、拓也が不思議そうに首を傾げる。
 それで、尚希はハッとする。


 不思議そうにしながらも、何かを察知しているような表情。


 昔から拓也は、自分が何かに悩んでいると、必ずこんな顔でこちらを見てくる子供だった。


 国への憎悪で性格はひねくれていたが、目だけには純粋な光を宿したままだった拓也。


 拓也も成長して、自分の過去と決別することもできたのだ。
 拓也はようやく、拓也らしい生き方ができるはずだ。


 自分は、それをただ見守っていればいい。
 間違っても、この子にこれ以上の重荷を背負わせてはいけない。


 だから―――


「なんでもない。ちょっと考え事。」


 そう言えば、瞬時に拓也の顔が気にさわったように歪む。
 隠し事をされていることにねているかのような表情だ。


「……あっそ。」


 面白くなさそうに顔を背ける拓也に、尚希は苦笑するしかない。


 拓也が自分のことを心配して、少しでも力になってくれようとしてくれていることはひしひしと感じている。


 その気持ちを受け入れられないのは悪いと思っているが、こればかりは自分にも意地があるので、謝るのは心の中だけにしておく。


「あれ?」


 何気なく周囲を見て、いつもと違う光景に気付いた尚希は、思わず声をあげた。


「実は?」

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