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第4章 居場所
悲しいの?
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時は、刻一刻と過ぎていく。
ここに来てから、どれほどの時が流れたのは分からない。
実はベッドに寝転んで、ガラスの向こうを見つめる。
ここは、ただただ青い。
朝も昼も、夜でさえも変わらない青をたたえている。
「………」
時間の感覚が麻痺しているのが分かる。
そして、鈍麻しているのは時間の感覚だけじゃなかった。
「………」
何も考えたくない。
ただ流れる時間は、思考さえも鈍くさせていた。
ここに来てから、たくさんのことを思い出した。
ずっと受け入れられなかったことも受け入れるしかなくて、今まで散々考えてきた疑問の答えが、最初から存在し得なかったのだと理解した。
そして、理解したからこそ……分からなくなった。
人を信じるのか、信じないのか。
……いや。
結論は言うまでもなく、自分の中にあるのだ。
人を信じたい。
これは、ずっと昔からあった思いだ。
でも、その思いのせいでたくさん傷ついた。
そして、大切に思った人ほど自分の運命に巻き込んでしまった。
桜理がその最たる被害者だし、拓也や尚希だって……
「………っ」
胸がひやりとする。
この先、桜理たちを今まで以上の危険に巻き込むようなことになったらどうしよう。
何度目かも分からない気持ちが頭をよぎった瞬間、脳裏で映像が弾ける。
自分の恐怖を裏付けするように、それは縦横無尽に頭を駆け巡る。
たまらず、実はぎゅっと目をつぶった。
「違う……こんなの、絶対に違う…っ」
違うと思いたい。
そうじゃないと、胸を張って言いたい。
なのに―――どうしても、振り切れない。
それは、自分を奮い立たせていた気持ちが揺らいでいる証拠でしかなくて……
「あー、もう!」
半ば自棄になって、実は勢いに任せて起き上がる。
すると―――
「きゃっ」
小さい悲鳴と共に、肩から何かが転がり落ちた。
「ん?」
そちらを見ると、精霊の一人がベッドに転がっていた。
内気そうな雰囲気から察するに、多分この前イルシュエーレの日記を見せてきた精霊だと思う。
「大丈夫? いたなら、声をかければよかったのに。」
そう言うと、精霊は目を伏せて顔を背けてしまった。
「だって……実ったらすごく悩んでたから、声をかけにくかったんだもん。」
「そうだよ!」
彼女に続いて、シャールルがベッドの下からぴょこんと顔を出す。
「わっ……シャールルもいたんだ。」
「もちろん。実に席を外せって言われない限り、僕は実の傍にいるんだもんね。」
彼に人間の姿があったなら、きっとふんぞり返っているだろう。
そんなシャールルに癒された実が微笑むと、精霊もシャールルも、明らかに安心したようだった。
「ねえ、実……お願いがあるんだけど……」
精霊が上目遣いで実を見やる。
「お願い?」
首を傾げて訊くと、精霊はこくりと頷く。
「だめ、かな…?」
彼女は、ちょっと恥ずかしそうにしながらこちらの様子を窺っている。
「いいよ。俺にできることなら。」
そう答えた瞬間、精霊の表情がパッと輝いた。
「あのね、外のことを教えて?」
彼女は嬉しそうに、何度も服を引っ張ってくる。
「外のこと?」
「うん。私ね、いつも怖くて、ここから出られないの。でも、外に興味はあるんだ。実はずっと外にいたでしょ? 外って、どんな感じなの?」
目をキラキラさせてこちらを見つめてくる、精霊の瞳。
そこには、未知のものに期待する光があった。
自分自身で言うとおり、怖くても憧れは拭い去れないようだ。
いや。
もしかしたら、怖いからこそ憧れるのかもしれない。
(怖いからこそ……)
表情がまた強張りそうになる。
それを寸でのところで我慢して、実は笑みを浮かべて彼女の頭をなでてやった。
「いいよ。他の精霊やイルシュからは、外の話を聞いたことがあるの?」
「うん、あるよ! 外にはいっぱい人間がいて、とっても大きなお城があるの! 直接じゃないけど、見たこともあるよ。」
「そっか。……じゃあ、俺はイルシュたちも知らない世界の話をしてあげるよ。そこの人たちは俺たちみたいに魔法を使わないし、こうやって精霊と話したりもしないんだ。」
「そうなの!?」
精霊だけじゃなく、シャールルも驚嘆の声をあげた。
それに、一つ頷く実。
「でも、その代わりに色んな技術が発達してるんだ。電気の使い方もこっちより色々だし……そうだな、ちょうどいいのがあった。」
思い至って、実はポケットに手を突っ込んで携帯電話を取り出した。
「例えば、これとかね。」
「何それ!?」
「ま、見てれば分かるよ。」
実が携帯電話を操作し始めると、彼女たちは食い入るように画面を見つめた。
そんな彼女たちの様子に苦笑しつつ、実は携帯電話に保存されている写真を見せてやった。
城なんかを遥かに凌ぐ高層ビル。
道路を行き交う自動車。
街の電工掲示板や、その中で笑う人々。
「すごーい……」
彼女らの感想は、その一言に集約されていた。
言葉で言い表せない感動が全身から滲み出ているようだ。
「ねえ、次は―――」
ふと顔を上げた精霊が、そこで表情を一変させた。
「実……悲しいの?」
彼女から問われたのは、そんなことだった。
ここに来てから、どれほどの時が流れたのは分からない。
実はベッドに寝転んで、ガラスの向こうを見つめる。
ここは、ただただ青い。
朝も昼も、夜でさえも変わらない青をたたえている。
「………」
時間の感覚が麻痺しているのが分かる。
そして、鈍麻しているのは時間の感覚だけじゃなかった。
「………」
何も考えたくない。
ただ流れる時間は、思考さえも鈍くさせていた。
ここに来てから、たくさんのことを思い出した。
ずっと受け入れられなかったことも受け入れるしかなくて、今まで散々考えてきた疑問の答えが、最初から存在し得なかったのだと理解した。
そして、理解したからこそ……分からなくなった。
人を信じるのか、信じないのか。
……いや。
結論は言うまでもなく、自分の中にあるのだ。
人を信じたい。
これは、ずっと昔からあった思いだ。
でも、その思いのせいでたくさん傷ついた。
そして、大切に思った人ほど自分の運命に巻き込んでしまった。
桜理がその最たる被害者だし、拓也や尚希だって……
「………っ」
胸がひやりとする。
この先、桜理たちを今まで以上の危険に巻き込むようなことになったらどうしよう。
何度目かも分からない気持ちが頭をよぎった瞬間、脳裏で映像が弾ける。
自分の恐怖を裏付けするように、それは縦横無尽に頭を駆け巡る。
たまらず、実はぎゅっと目をつぶった。
「違う……こんなの、絶対に違う…っ」
違うと思いたい。
そうじゃないと、胸を張って言いたい。
なのに―――どうしても、振り切れない。
それは、自分を奮い立たせていた気持ちが揺らいでいる証拠でしかなくて……
「あー、もう!」
半ば自棄になって、実は勢いに任せて起き上がる。
すると―――
「きゃっ」
小さい悲鳴と共に、肩から何かが転がり落ちた。
「ん?」
そちらを見ると、精霊の一人がベッドに転がっていた。
内気そうな雰囲気から察するに、多分この前イルシュエーレの日記を見せてきた精霊だと思う。
「大丈夫? いたなら、声をかければよかったのに。」
そう言うと、精霊は目を伏せて顔を背けてしまった。
「だって……実ったらすごく悩んでたから、声をかけにくかったんだもん。」
「そうだよ!」
彼女に続いて、シャールルがベッドの下からぴょこんと顔を出す。
「わっ……シャールルもいたんだ。」
「もちろん。実に席を外せって言われない限り、僕は実の傍にいるんだもんね。」
彼に人間の姿があったなら、きっとふんぞり返っているだろう。
そんなシャールルに癒された実が微笑むと、精霊もシャールルも、明らかに安心したようだった。
「ねえ、実……お願いがあるんだけど……」
精霊が上目遣いで実を見やる。
「お願い?」
首を傾げて訊くと、精霊はこくりと頷く。
「だめ、かな…?」
彼女は、ちょっと恥ずかしそうにしながらこちらの様子を窺っている。
「いいよ。俺にできることなら。」
そう答えた瞬間、精霊の表情がパッと輝いた。
「あのね、外のことを教えて?」
彼女は嬉しそうに、何度も服を引っ張ってくる。
「外のこと?」
「うん。私ね、いつも怖くて、ここから出られないの。でも、外に興味はあるんだ。実はずっと外にいたでしょ? 外って、どんな感じなの?」
目をキラキラさせてこちらを見つめてくる、精霊の瞳。
そこには、未知のものに期待する光があった。
自分自身で言うとおり、怖くても憧れは拭い去れないようだ。
いや。
もしかしたら、怖いからこそ憧れるのかもしれない。
(怖いからこそ……)
表情がまた強張りそうになる。
それを寸でのところで我慢して、実は笑みを浮かべて彼女の頭をなでてやった。
「いいよ。他の精霊やイルシュからは、外の話を聞いたことがあるの?」
「うん、あるよ! 外にはいっぱい人間がいて、とっても大きなお城があるの! 直接じゃないけど、見たこともあるよ。」
「そっか。……じゃあ、俺はイルシュたちも知らない世界の話をしてあげるよ。そこの人たちは俺たちみたいに魔法を使わないし、こうやって精霊と話したりもしないんだ。」
「そうなの!?」
精霊だけじゃなく、シャールルも驚嘆の声をあげた。
それに、一つ頷く実。
「でも、その代わりに色んな技術が発達してるんだ。電気の使い方もこっちより色々だし……そうだな、ちょうどいいのがあった。」
思い至って、実はポケットに手を突っ込んで携帯電話を取り出した。
「例えば、これとかね。」
「何それ!?」
「ま、見てれば分かるよ。」
実が携帯電話を操作し始めると、彼女たちは食い入るように画面を見つめた。
そんな彼女たちの様子に苦笑しつつ、実は携帯電話に保存されている写真を見せてやった。
城なんかを遥かに凌ぐ高層ビル。
道路を行き交う自動車。
街の電工掲示板や、その中で笑う人々。
「すごーい……」
彼女らの感想は、その一言に集約されていた。
言葉で言い表せない感動が全身から滲み出ているようだ。
「ねえ、次は―――」
ふと顔を上げた精霊が、そこで表情を一変させた。
「実……悲しいの?」
彼女から問われたのは、そんなことだった。
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