512 / 714
第5章 精霊の王
存在を隠された本当の理由
しおりを挟む「……ねえ、父さん。」
暗い世界で、光を探すように呼びかけた。
答えは返ってこないかもしれない。
そう思ったのだが……
「どうしたんだい?」
意外にも、求めていた声が応えてくれた。
ああ。
どうか、声が届くうちに……
ずっと我慢していた感情が爆発して、それをどうにかしたくて、必死に闇へと語りかけた。
「父さん……ずっと、知ってたんだね。」
そんな自分の言葉に、父は無言。
もしかして、もう声が届かなくなってしまったのだろうか。
そんな不安から、言葉が勝手に次々と零れてくる。
「思い出したんだ…。父さんも母さんも……俺が〝鍵〟だって、俺が生まれる前から知ってたんでしょ? だから、俺をあの場所に隠したんだ。」
「―――っ!!」
父が息を飲む気配がした。
よかった。
まだ繋がりは断たれていない。
それが分かって、思わずほっとしてしまった。
初めて殺されかけた時の記憶を思い出した時、一緒に思い出したことがある。
自分の世界が真っ黒になってしまった後、自分は優しかった両親でさえも拒絶するようになってしまった。
それまでのように、怖がって拒絶するわけではない。
平常心で両親と過ごしながらも、自分は両親に対して完全に心を閉ざしてしまった。
この人たちは、自分と血が繋がっているだけの同居人。
信じる必要のない他人。
そう思うようになってしまった。
そのせいで自分から両親に話しかけることもなくなり、今までのように両親に笑いかけることすらできなくなった。
これからはそうやって過ごしていくと決めて両親と向かい合ったあの日、二人から打ち明けられたのだ。
自分が母のお腹に宿った時から、自分が〝鍵〟としての運命を背負って生まれてくることは知っていたと。
だから、父は自分を守るために、人間が立ち入らないこの場所に母ごと自分を隠し、これまでひっそりと暮らしてきたのだ。
父が自分を隠した理由は、いずれ神の器として祀り上げられる運命を回避したかったから。
拓也たちにはそう説明してしまったし、自分も今までそうだと思っていた。
しかし、その認識はイルシュエーレたちとの記憶と忘れていたが故の思い違い。
父が回避したかったのは、自分が〝鍵〟として周囲から狙われてしまう運命だった。
神の器への神託という不運は、レティルが自分をこの世界に連れ戻すために使った、後づけの運命に過ぎなかったのだ。
父は自分の意識が暗い方向に切り替わってしまったことで、自分が人を殺してしまう未来を見てしまった。
この世界にいる限り、自分が辿る赤い未来は避けられない。
そう思った父は、最後の策として自分を地球へ逃がすことを選んだ。
自分が地球に旅立つまでの経緯は、本当はそういうことだったのだ。
「……そんなことまで、思い出してしまったんだね。」
父の声に、寂しさが混ざる。
その寂しさの意味が、今なら痛いほど分かる。
「父さん……」
「思い出さなくて、よかったのに…。あんな、私たちのエゴを君に押しつけようとしたことなんて……」
「そんなことない!」
己の過去を悔いる父に、そう言わずにはいられなかった。
今なら、両親がどんな願いを込めて自分にそのことを打ち明けたのか分かる。
両親は、自分が〝鍵〟と知りながらも、自分を生んで愛していく覚悟を決めてくれていたんだ。
それなのに、自分は……
「父さんたちは悪くない。謝らなきゃいけないのは俺の方だ。だって俺、あの時―――」
「やめなさい。」
その時、父が自分の言葉を強く遮った。
それは、今まで聞いたことがないほどに強い拒絶を秘めた声。
「あれは君のせいじゃない。あれが君の本心じゃないことくらい知ってるよ。」
「でも…っ」
「―――――」
父の声で紡がれた、とある単語。
それだけで、言いたかった気持ちが全部封じ込められてしまった。
「何度でも言う。あれは君のせいじゃない。だから……思い出してほしくなかったんだ。優しい君なら、絶対にああ言ったことを悔やんで、自分を責めるって分かっていたから……」
「父さん……」
「もどかしいね。どうして、運命は君に思い出すことを強いるんだろう…。忘れたって、許されるはずなのに。あんな小さな時のことなんて、忘れるのが当然のはずなのに…。どうして、君にはそれが許されないんだろう。本当に……私は、この世界の全てが煩わしいよ。」
この世界の全てが煩わしい。
そんな言葉が響いた瞬間、全身が寒くなるような感覚がした。
初めて聞く父の声。
そこに込められているのは―――苛烈な憎悪だ。
「父さん……今、どこで何をしてるの…?」
記憶の中にいる、優しくて穏やかな父の姿が霞む。
自分が知らなかった憎悪を胸に、父は今どこで何をしているのだろう。
その行動の先にあるのは……―――破滅だったりしないよね…?
そんな不安が、急激に胸に大きく膨らむ。
だって、憎悪を胸に宿していた拓也も尚希も、一度は死にかけたのだ。
そんな彼らと同じ感情を持っている父が、死に向かわない確証がどこにある?
「ごめんね。今はまだ……言えない。」
父は、そう告げるだけだった。
「どうして…?」
素直に引き下がることができなくて、そう訊ねる。
「正直に言うとね、話したくないんだ。このことを君に話す時はきっと……全てが終わる時だから。」
「―――っ!!」
それを聞いて脳裏にひらめくのは、今自分が最も忌避したいあの映像。
「父さんにも……俺と、同じものが見えてるの?」
「……どうだろう…?」
父の答えは曖昧だった。
「私が見ているものと、君が見ているもの…。それが同じかどうかは分からない。でも、どうにかして変えなきゃいけないっていうのは、同じかもしれないね。」
「変えなきゃいけない……」
父の言葉をなぞる。
そうするだけで、胸の中にさっきまでとは違う感情が湧き上がった。
「……そうだね。俺は、あれを壊さなきゃいけないんだ。あんなこと……あっちゃいけない。」
「うん。そうだね……」
「そのためには、俺がやらなきゃいけないことがたくさんある。きっと、俺じゃなきゃだめなんだ。」
「うん…。知ってるよ……」
父はあくまでも穏やかに、こちらの言葉を肯定する。
やはり、父は自分が見ているものが何か分かっているのだ。
自分がこれを壊せば、どこかで何かをしている父を憎悪から救えるだろうか。
大切な父を、失わずにいられるだろうか。
そう思うと、決意が固くなる。
足掻かなければ。
何度折れても、何度地面に這いつくばっても。
意地で立って、この運命を変えなければ。
(そのために、俺は―――)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる