世界の十字路

時雨青葉

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【第8部】エピローグ

大事な言葉

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 目を開くと、そこは最近見慣れてきた拓也たちの家だった。
 起き上がると、すぐさまそれに反応した拓也たちが、水やら食事やらを運んでくる。


 勉強机に置かれたデジタル時計に目をやると、火曜日の午前十時。
 二人とも、学校と会社には行かなかったらしい。


 それも仕方ないことだろうなと思い、とりあえず渡された水を一気に飲み干した。


「………父さんは……」


 吐き出した息と一緒に出た言葉に、拓也たちの肩が震える。
 その反応で、大方察しはついた。


「まあいいよ。今はまだ、会う時じゃないってことだろうから。」


 助けに来てくれたくせに、目も合わせないまま去っていったということは、きっとそういうことなのだろう。


 言葉だけを交わしたあの闇の中でも、何をしているかは言えないと言っていたし。


 それに、なんとなく分かるのだ。


 自分にやるべきことがあるように、あの父にも、父にしかできないことがあるのだろうと。


「でも、お礼すらも言わせてくれないなんて……」


 そして、謝ることでさえも許してくれないなんて……


 思わず口から零れそうになったその言葉は、寸でのところで胸の内にしまい込む。
 眉を下げて微笑んでいた実は、心配そうな顔をしている拓也たちに目を向けた。


「拓也、尚希さん、今回はありがとう。二人が来てくれなかったら、きっと……俺は、踏ん切りがつかなかった。戻らなきゃって思いながら、ずっとあそこにいたんじゃないかと思う。本当にありがとう。」


「………」


 拓也たちは、しばらく茫然と目を丸くしていた。


「………」


 沈黙が気まずくなって、実は思い切り口をへの字に曲げる。


 珍しく素直に感謝したつもりだったのに、こんな反応が続くと、自分の行為がだんだん恥ずかしくなってくるわけで。


 ついに耐えきれなくなって、実はそっぽを向いてしまった。


「ふっ……二人して何さ。いいよ、もう言わな―――どわっ!?」


 突如首と胸に走った衝撃に、実は大きくバランスを崩した。
 しかし、その体は倒れることなくその場にとどまる。


 認識できたのは、上半身にかかる温もりと、首に回された腕の感触。


「……へ?」


 なんとも間抜けた声が零れる。
 自分が拓也に抱き締められているのだと気付くまでに、ゆうに五秒は要した。


「ちょっ……拓也? どうしたの? おーい。」


 軽く拓也の肩を叩くが、拓也は全く反応しない。


「実、無理だ。拓也は今、感動を噛み締めてる。」
「か、感動?」


 聞き返すと、尚希は大きく頷いた。


「だってお前、この前初めて、拓也もオレも大事な人たちだって言ってくれただろ? その上こんな風に礼まで言われたんだから、嬉しいに決まってるって。オレだって嬉しさが余って、正直どんな態度を取ればいいか分からない。」


「この……前……」


 振り返って、イルシュエーレを説得するために言った言葉が一気によみがえる。


「―――っ」


 途端に、実の顔が熟れた果実のように真っ赤に染まった。


「いやっ……あれはっ、そのっ……だから…っ。うわああっ! 今さら、すっごく恥ずかしい!!」


 癇癪かんしゃくでも起こしたかのように、髪の毛を掻き回す実。


 何を言っていたんだ、自分は。
 いやでも、別に嘘ではないのだ。


 拓也たちを大事に思っているのは本心だし、イルシュエーレを説得するには素直な気持ちで向き合う必要があった。


 しかし、それを拓也たち本人に聞かれていたと思うと、急激に自分の発言が恥ずかしくなる。


 その恥ずかしさはぐるぐると頭を巡り、結果としてよく分からない焦りへ。


「拓也! いい加減離れなよ! ってか、今すぐ俺を一人にして! 後悔してくるから!!」


「なんで後悔するんだよ。いいことなのに。」


 拓也がふてくされたように唇を尖らす。
 それに実が顔を赤くしたままひるむと、面白がった尚希がそこに加勢した。


「そうだよな。オレたちは嬉しかったんだぞ。素直じゃないあの実が、オレたちを大事な人たちだって―――」


反芻はんすうしないでくださーい!!」


 実が喚くが、拓也と尚希は笑うだけだ。
 しばらく、その場には実の叫び声と拓也たちの笑い声が休みなく響いていた。


 ◆ ◇ ◆


 ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました!!


【第9部~真紅に汚れた契約~】あらすじ


 血の契約―――少女を縛るのは、命を軽んじる最凶の呪い……


 森の中で出会った少女は、いくにも結ばれた契約でがんじがらめだった。


 成り行きで少女を保護した実だったが、少女を見つめるその表情は暗い。


 少女の魂を縛るもの。
 それは、この世界で最も重いかせ


 ―――血の契約。


 帰りたくない。
 震える少女に、実が思うこととは……


 明と暗が交錯する異世界ファンタジー第9弾!
 血にとらわれた少女を救うすべはあるのか!?


■おまけ:カットイラスト01


■おまけ:カットイラスト02


■おまけ:4コマ漫画01


■おまけ:4コマ漫画01


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