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第2章 優しさに驚いて
凍てつく瞳
しおりを挟む「まあ、その……ごめんね?」
ようやく落ち着いたユエに、実は平謝り。
そこに―――
「まったく、なんで公園になんか行ったのよ?」
実を批難するように、エーリリテが横槍を入れてくる。
「下手に喫茶店とかに入っても、ユエが萎縮しちゃうと思って…。俺も、まさかあんなことになるとは思ってなかったんだってば。」
ユエをなだめつつ、実は言い訳がましくぼやきながら視線を逸らす。
それに対して、エーリリテは目を閉じて肩を落とした。
「まあ、よくも悪くも子供は素直だもんね。」
エーリリテはユエの前にしゃがむと、顔を隠してしまうまでに伸びている前髪を一房手に取った。
「ましてや、こんな髪じゃ暗いとかって思われても仕方ないわね。よし、切っちゃいましょう。」
エーリリテは一気に立ち上がり、上機嫌で部屋を出ていった。
数分待っていると、サラを連れたエーリリテが戻ってきた。
サラが持っているお盆には、大きな布と銀色の鋏が乗っている。
「―――っ!?」
鋏を目にしたユエが、その目を大きく見開いた。
「ユエ!?」
急にベッドの奥に逃げ込んだユエに、実が驚いて声をあげる。
「ユエ、どうしたの?」
ベッドの縁に座って刺激しないように訊ねると、ユエはふるふると首を振った。
未だに見開かれている瞳の中では、巨大な恐怖が波打っている。
「やだ……」
小さく言うユエ。
「やだって、鋏が?」
ユエが凍てついた目で見つめるものを見て、実はもう一度訊く。
しかし、その時にはもう、ユエには質問に答えられるだけの余裕はなかった。
頭を抱えて縮こまったユエは、ガタガタと震えるばかりだ。
「やだ……やだ…っ」
実は躊躇いつつも、ユエの肩に手を置いた。
結果としてそれは、ユエのトラウマを呼び起こしてしまうことになる。
「―――っ!!」
ユエは一際大きく震えると、それを皮切りに狂ったように暴れ出した。
自分の体を傷つけることすら厭わない暴れ方に焦った実は、ユエの両腕を掴んでその動きを止めようとする。
「いやだあっ!!」
「ユエッ! 落ち着いて!!」
ユエは錯乱状態で泣き叫び、両手足をじたばたと暴れさせる。
そうしているうちに……
―――ザワッ
「!?」
微妙な空気の変化に、一瞬気を取られた。
その刹那に力が緩んで、ユエの手を自由にしてしまう。
「いやーっ!!」
実の手を振り払って暴走したユエの手が、ふいに実の手首をかすめた。
「つっ…」
実は顔を歪める。
手入れされずに伸びていたユエの爪が、その勢いも相まって、まるで刃物のように皮膚を深く抉ったのだ。
瞬く間に血が滲み、手の甲に一筋の赤い線が走る。
たまたまそれを見たユエが、動きを止めた。
実はその隙を逃さず、固まるユエに手を伸ばす。
「………っ」
身を強張らせるユエ。
「大丈夫だから。」
そんなユエをきつく抱き締めて、実はユエに強く告げた。
ユエがまた暴れようとしたが、実はユエを胸の中に強く抱き込んでその身動きを封じる。
やがて暴れるのをやめたユエは、実のシャツをきつく握り締めて震え始めた。
「……さい…っ」
微かな声が、実の耳朶を打つ。
「ごめんなさい……ごめんなさい…。もう悪いことしないから……ごめんなさい……」
繰り返し、繰り返し。
ユエはうわ言のように、ひたすら口を動かしている。
それはこちらに向かって言っているというよりは、トラウマの向こうにいる人物に言っているように思えた。
その証拠に、震えるユエの目は焦点が合っていない。
「―――っ」
一瞬だけ、実の表情に冷たい表情が走る。
「……悪いことなんてしてないから、大丈夫だよ。」
実は凍った表情を殺し、ユエの頭を軽く叩いた。
一際大きく体を痙攣させたユエは息を飲み、もどかしいくらいの時間をかけて顔を上げる。
今にも泣き出してしまいそうなユエと間近から目を合わせ、実は優しく表情を和ませた。
「大丈夫だから。」
実は強く頷いて言ってやり、ユエをベッドの上に下ろしてやった。
眉を下げておろおろとするユエを見つめたまま、実は何故かユエと距離を置く。
次に右手を頭上に掲げると、手招きするようにその手を振った。
ヒュッと空気が唸る音をあげ、エーリリテが持っていたはずの鋏が実の右手に収まる。
それにまた怯えた表情を見せるユエを前に、実はあくまでも笑みを絶やさなかった。
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