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第5章 迎え
ユエと彼の共通点
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武器を持った大人に、何も持たない子供ができることなどほとんどない。
ライヤを送り出してから数分。
アレンたちは、ナイフを片手ににじり寄ってくる男性から一定距離を保って、公園の中をぐるぐると回っている状態だった。
アレンたちの表情には明らかな怯えが浮かんでいるが、彼らは決してユエを離そうとはしない。
「………」
パステルの震えを直に感じつつ、ユエは皆と同じように男性を見る。
もう、どのくらい膠着状態が続いているのだろう。
アレンたちにも限界が見え隠れするし、男性の方にも苛立ちが増しているように見えた。
「―――パステル。」
ふいに、アレンが口を開いた。
「な、何…?」
不安げに答えるパステルを、アレンはちらりと見る。
「俺があいつの気を引きつけるから、その間にユエたちを連れて逃げろ。」
「えっ!?」
パステルを始め、ユエたちも目を見開く。
だが、アレンが冗談でそんなことを言ったわけじゃないのは、疑うまでもなかった。
「俺らだけじゃ、どうしようもない。とにかく叫んで、大人を呼んできてくれ。それまで、俺もなんとか逃げるから。」
アレンは歯を噛み締める。
その様子からは、相当な覚悟が見て取れた。
アレンの足が、宣言どおりの行動に移ろうと一歩前に出る。
「だめ!」
気付けば、ユエはパステルの胸を飛び出してアレンに抱きついていた。
進もうとしたアレンを引き止めるように、自分の体をその場に固定する。
断言できた。
このままアレンを行かせたら、アレンはひどい目に遭ってしまう。
「……ありがとう。」
礼を述べた次の瞬間、ユエはアレンの代わりに男性に向かって走った。
「ユエ!!」
「ユエちゃん!!」
皆が慌てたようにユエの名を呼ぶが、ユエは止まるどころか振り返りもしない。
みんな、優しい人たち。
そんな人たちを傷つけてしまうくらいなら―――
男性は自分が近付いてくるのが分かると、あっさりとナイフを下ろした。
早鐘を打つ心臓に煽られる恐怖を必死にこらえ、ユエは男性を見上げる。
「ごめんなさい。わがまま言わずに、帰るから。」
自然に下へ落ちていった視界に、男性の手首で揺れる鈴が目に入った。
それは、とても見覚えのある鈴。
「………っ」
表情が歪みかけた。
誰も傷つけたくない。
でも、自分がここにいることで、どうしても皆を傷つけてしまうのだとしたら、自分があの場所に帰る。
それでいい。
「帰ろ…」
ユエが男性に手を伸ばした、その瞬間―――
「―――っ!?」
二人の間に、突風が巻き起こった。
そのあまりの勢いに、ユエと男性は思わず目を閉じて後退した。
必然的に男性から距離を取る形になったユエの足が、ふわりと地面から離れる。
「………っ!! 実!!」
目を開いた先にいたその姿に、泣きたくなるほどに安心した。
「ちゃんと掴まってろ。」
そう言われ、ユエは今出せる精一杯の力で実の首にしがみついた。
ユエを抱いた実を乗せたハエルが、男性から離れた位置に向かって滑るように降りていく。
ハエルが地面に足をつける寸前、実はユエを抱いたまま、ひらりとハエルの背から降りた。
「実…」
不安げなユエに、実はただその頭をなでるだけだった。
「間に合ってよかった。」
そう言った実は、すぐにその表情を険しくして男性を睨みつける。
「ユエを迎えに来たのか?」
鋭く実が問う。
その言葉に、男性は明らかに顔色を変えた。
「話が分かるなら早い。その子供を渡せ。」
男性が一方的に告げると、ユエが腰にしがみついてきた。
おそらく、無意識なのだろう。
怯えたように男性を見るユエは、心なしか震えているようだった。
その様子をじっと観察していると、ふとした拍子に、その小さな左手が右の手首を掴んだ。
そこにあったのは、確か―――
凍った瞳が見つめる先を追って、実はとあることに気付く。
男性の右手首に、見覚えのあるものを見つけたのだ。
それは、今ユエが握り締めている物と同じ、白い小さな花を三つあしらった赤いブレスレット。
ユエが四六時中ブレスレットを外そうとしなくて、一度だけ大切な物なのかと訊ねたことがある。
その時に、ユエが怯えた表情で答えることを拒んだので、やけに記憶に残っていたのだ。
二人に共通したブレスレット。
これが何を意味するのかは察するにも限界があるが、同じ物を身につけているということは、この二人は浅からぬ縁なのだろう。
「あんた、ユエの関係者?」
ほとんど断定で問いかけるも、男性は黙ったまま何も答えない。
「関係者なら、ユエに何重にもかかってる契約のことも知ってるのか?」
「!!」
実の次なる質問に、男性は驚愕したように目を見開いた。
大袈裟ともいえるようなその反応に、実は訝しげに首を傾げる。
男性にじっと目を凝らして、ふと気付いた。
「あんた……あんたも、縛られてるのか。」
男性の魂をよく見ると、ユエと同じような歪みが見えた。
なるほど。
なんとなく見えてきた。
二人に共通して確認できる血の契約の存在。
ブレスレットを見るユエがこんなにも怯えていることを加味すると、これはおそらく、契約を結んだ主人から与えられた物。
短絡的な推測とはなるが、この二人の主人は同一人物であると考えられる。
男性はこちらの指摘にひどく動揺しているようだが、どうにか口を結んで無言を貫いている。
これは、彼から直接話を引き出すことは無理そうだ。
実は早々に諦めた。
「言いたくないのか言えないのか、それは分からないんだけどさ…。ユエのことに関しては、色々と知りたいことがあるんだよね。」
告げる実の全身から、濃密な魔力がゆらりと揺れる。
「ユエのことはひとまず置いといて……まずは、俺をあんたの主のところに連れていってくれないかな?」
「……え?」
実の魔力に怯んだ男性が、その次の言葉を聞いた瞬間に拍子抜けしたような顔をする。
男性が何かを言いかけた、その時―――
「お巡りさん、こっち!!」
ライヤの声がして、複数の人が駆けてくる音がした。
「くっ…」
とりあえず、今は分が悪いと判断したのだろう。
男性は険しげに眉根を寄せて、踵を返した。
「あ、待て!」
追いかけようとした実だったが、思い切り体を引かれたことで、それは叶わなかった。
「ユエ…?」
実を引き止めたユエは、先ほどとは比べ物にならないほどに震えていた。
「やだ…っ」
ユエは首を左右に振って、ひたすらに嫌だと訴えてくる。
逃げ足だけは早いようで、ユエに気を取られている隙に、男性の姿はもう見えなくなっていた。
「実様、追いましょうか?」
ハエルが実を見上げるが、実はそれに首を振った。
「いや、いい。」
ハエルにそう答えて、実はユエを見下ろす。
「………」
震えるユエの頭を労わるようになでる実の表情は、苛烈な何かで彩られていた。
ライヤを送り出してから数分。
アレンたちは、ナイフを片手ににじり寄ってくる男性から一定距離を保って、公園の中をぐるぐると回っている状態だった。
アレンたちの表情には明らかな怯えが浮かんでいるが、彼らは決してユエを離そうとはしない。
「………」
パステルの震えを直に感じつつ、ユエは皆と同じように男性を見る。
もう、どのくらい膠着状態が続いているのだろう。
アレンたちにも限界が見え隠れするし、男性の方にも苛立ちが増しているように見えた。
「―――パステル。」
ふいに、アレンが口を開いた。
「な、何…?」
不安げに答えるパステルを、アレンはちらりと見る。
「俺があいつの気を引きつけるから、その間にユエたちを連れて逃げろ。」
「えっ!?」
パステルを始め、ユエたちも目を見開く。
だが、アレンが冗談でそんなことを言ったわけじゃないのは、疑うまでもなかった。
「俺らだけじゃ、どうしようもない。とにかく叫んで、大人を呼んできてくれ。それまで、俺もなんとか逃げるから。」
アレンは歯を噛み締める。
その様子からは、相当な覚悟が見て取れた。
アレンの足が、宣言どおりの行動に移ろうと一歩前に出る。
「だめ!」
気付けば、ユエはパステルの胸を飛び出してアレンに抱きついていた。
進もうとしたアレンを引き止めるように、自分の体をその場に固定する。
断言できた。
このままアレンを行かせたら、アレンはひどい目に遭ってしまう。
「……ありがとう。」
礼を述べた次の瞬間、ユエはアレンの代わりに男性に向かって走った。
「ユエ!!」
「ユエちゃん!!」
皆が慌てたようにユエの名を呼ぶが、ユエは止まるどころか振り返りもしない。
みんな、優しい人たち。
そんな人たちを傷つけてしまうくらいなら―――
男性は自分が近付いてくるのが分かると、あっさりとナイフを下ろした。
早鐘を打つ心臓に煽られる恐怖を必死にこらえ、ユエは男性を見上げる。
「ごめんなさい。わがまま言わずに、帰るから。」
自然に下へ落ちていった視界に、男性の手首で揺れる鈴が目に入った。
それは、とても見覚えのある鈴。
「………っ」
表情が歪みかけた。
誰も傷つけたくない。
でも、自分がここにいることで、どうしても皆を傷つけてしまうのだとしたら、自分があの場所に帰る。
それでいい。
「帰ろ…」
ユエが男性に手を伸ばした、その瞬間―――
「―――っ!?」
二人の間に、突風が巻き起こった。
そのあまりの勢いに、ユエと男性は思わず目を閉じて後退した。
必然的に男性から距離を取る形になったユエの足が、ふわりと地面から離れる。
「………っ!! 実!!」
目を開いた先にいたその姿に、泣きたくなるほどに安心した。
「ちゃんと掴まってろ。」
そう言われ、ユエは今出せる精一杯の力で実の首にしがみついた。
ユエを抱いた実を乗せたハエルが、男性から離れた位置に向かって滑るように降りていく。
ハエルが地面に足をつける寸前、実はユエを抱いたまま、ひらりとハエルの背から降りた。
「実…」
不安げなユエに、実はただその頭をなでるだけだった。
「間に合ってよかった。」
そう言った実は、すぐにその表情を険しくして男性を睨みつける。
「ユエを迎えに来たのか?」
鋭く実が問う。
その言葉に、男性は明らかに顔色を変えた。
「話が分かるなら早い。その子供を渡せ。」
男性が一方的に告げると、ユエが腰にしがみついてきた。
おそらく、無意識なのだろう。
怯えたように男性を見るユエは、心なしか震えているようだった。
その様子をじっと観察していると、ふとした拍子に、その小さな左手が右の手首を掴んだ。
そこにあったのは、確か―――
凍った瞳が見つめる先を追って、実はとあることに気付く。
男性の右手首に、見覚えのあるものを見つけたのだ。
それは、今ユエが握り締めている物と同じ、白い小さな花を三つあしらった赤いブレスレット。
ユエが四六時中ブレスレットを外そうとしなくて、一度だけ大切な物なのかと訊ねたことがある。
その時に、ユエが怯えた表情で答えることを拒んだので、やけに記憶に残っていたのだ。
二人に共通したブレスレット。
これが何を意味するのかは察するにも限界があるが、同じ物を身につけているということは、この二人は浅からぬ縁なのだろう。
「あんた、ユエの関係者?」
ほとんど断定で問いかけるも、男性は黙ったまま何も答えない。
「関係者なら、ユエに何重にもかかってる契約のことも知ってるのか?」
「!!」
実の次なる質問に、男性は驚愕したように目を見開いた。
大袈裟ともいえるようなその反応に、実は訝しげに首を傾げる。
男性にじっと目を凝らして、ふと気付いた。
「あんた……あんたも、縛られてるのか。」
男性の魂をよく見ると、ユエと同じような歪みが見えた。
なるほど。
なんとなく見えてきた。
二人に共通して確認できる血の契約の存在。
ブレスレットを見るユエがこんなにも怯えていることを加味すると、これはおそらく、契約を結んだ主人から与えられた物。
短絡的な推測とはなるが、この二人の主人は同一人物であると考えられる。
男性はこちらの指摘にひどく動揺しているようだが、どうにか口を結んで無言を貫いている。
これは、彼から直接話を引き出すことは無理そうだ。
実は早々に諦めた。
「言いたくないのか言えないのか、それは分からないんだけどさ…。ユエのことに関しては、色々と知りたいことがあるんだよね。」
告げる実の全身から、濃密な魔力がゆらりと揺れる。
「ユエのことはひとまず置いといて……まずは、俺をあんたの主のところに連れていってくれないかな?」
「……え?」
実の魔力に怯んだ男性が、その次の言葉を聞いた瞬間に拍子抜けしたような顔をする。
男性が何かを言いかけた、その時―――
「お巡りさん、こっち!!」
ライヤの声がして、複数の人が駆けてくる音がした。
「くっ…」
とりあえず、今は分が悪いと判断したのだろう。
男性は険しげに眉根を寄せて、踵を返した。
「あ、待て!」
追いかけようとした実だったが、思い切り体を引かれたことで、それは叶わなかった。
「ユエ…?」
実を引き止めたユエは、先ほどとは比べ物にならないほどに震えていた。
「やだ…っ」
ユエは首を左右に振って、ひたすらに嫌だと訴えてくる。
逃げ足だけは早いようで、ユエに気を取られている隙に、男性の姿はもう見えなくなっていた。
「実様、追いましょうか?」
ハエルが実を見上げるが、実はそれに首を振った。
「いや、いい。」
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