世界の十字路

時雨青葉

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第5章 迎え

不思議と安心できる人

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 翌日、ユエは一人で自室にこもっていた。
 実は、イリヤたちに昨日の事を詳しく話しに行っている。


「絶対に、部屋から出ないでね。」


 念入りに、そう注意された。
 だから、素直に部屋で大人しくしていた。


 なんとなく分かるのだ。


 この部屋は、見えない力で囲われている。
 実が自分を守るためにやってくれているのだろう。


 その優しさをひしひしと感じながら、静かに本を読みながら実の帰りを待つ。


「おーい。」


 ふと、可愛らしい声がした。


「開けてー。ユエー。」


 その声は、窓の方から聞こえる。
 さらにコンコンと窓をノックされて、ユエは窓の方を振り向いた。


「ドラちゃん!」


 その顔が、パッと明るくなる。
 窓には、ドラードが張りついていたのだ。


 とことこと窓に駆け寄ったユエは、ドラードに頼まれたとおりに窓を開ける。


「ドラちゃん、どうしたの?」


 ユエが訊ねると、ドラードは嬉しそうに笑った。


「えへへ、実に頼まれたんだ。」
「実に?」


 ユエは首を傾げる。


「そうだよ。今日はユエを外に出してやれないから、退屈しないように相手をしてやってほしいってさ。わざわざ実が、ぼくに頼んできてくれたんだ!」


 自慢げに語るドラードは活き活きとしていて、とても誇らしそうだった。


「それにしても、さすがは実だなぁ……」


 辺りを見回しながら、ドラードは感心したように言う。


「この部屋にはさ、実の力が満ちてるんだよ。ユエを守るためにさ。」


 どうやら、ドラードは自分以上に実の力を感じているようだ。


「うん…。ちょっとだけ分かるよ。」


 そう答えると、ドラードは笑ってちょこちょこと近寄ってきた。


「ねえねえ! 実ってさ、ちょっと不思議だと思わない?」
「不思議?」


 首を傾げるユエに、ドラードはうんと頷く。


「なんか、不思議な雰囲気なんだよ。うーん、人間にはちょっと分からないかなぁ…? ぼく、前は人間が怖かったんだけど、実と初めて会った時に、この人なら大丈夫だってすぐに思ったんだ。」


 語るドラードは目を輝かせていて、とても楽しそうに見えた。
 そんなドラードをもっと見ていたくて、ユエはドラードの話に静かに耳を傾ける。


「実からは、すっごく優しいにおいがするんだ。実本人は、俺は優しくなんかないって言うんだけどさ。結局、困ってる人を見ると放っておけないし、頼まれると断れないし、すっごく世話焼きなんだよね。ユエも、実は最初から大丈夫だったでしょ?」


 言われてみればそうかもしれないなと、ユエは思った。


 薄れゆく意識の中で初めて実を見た時、なんだか一気に力が抜けるような気分になった。


 それに、実に頭をなでられている感覚は、とても心地よくて安らぐ。


 あんな風に優しくされたのが初めてだったからという理由もあるだろうけど、実に心を許したのはそれだけじゃない気がするのも確かだ。


「そうだね。」


「そうでしょ? だからね、実にはもっと色々言っちゃってもいいと思うよ? ユエは遠慮しすぎ。」


「そうかな…?」


 ユエは、困ったようにそう返した。


 ドラードはそう言うが、自分はこれでも実に色々とわがままを言っていると思う。
 これ以上実に何を求めればいいのだろうと、逆に困ってしまう自分がいた。


「えへへ。ぼくは、実に遠慮なんかしないもん。ぼくの名前も、実につけてもらったしね。」


「え…? そうだったの?」


 思わず聞き返すと、ドラードは嬉々として当時のことを語り始めた。

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