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第2章 無限の力
蓋が緩んだパンドラの箱
しおりを挟む―――――バァンッ
銃から目に見えない速さで繰り出された弾丸は実の左をかすめ、壁にぶつかってけたたましい爆音を炸裂させる。
「―――……」
実は顔色を失くして、弾丸がめり込んだ壁を見つめた。
壁の石材はぼろぼろに崩れ、その欠片がベッドの上に落ちていく。
あまりに大きな衝撃だったらしく、石の欠片はシーツに落ちていく最中に塵となってしまっていた。
しかし、実が茫然としているのは、その威力に圧倒されたからではなかった。
「こ…れは……」
実は、崩れた壁と一緒に落ちた弾丸をおそるおそる手に取る。
弾丸は鈍く光っている。
金属特有の光沢だけではなく、弾丸自体が淡い光をまとっているのだ。
小さな鉛玉に込められていたのは、とてつもなく強力な濃度の魔力。
間違えようがない。
この魔力は―――
「今までで、一番いい出来です。あなたの力のおかげでね。」
弾丸に込められた魔力が他でもない己のものであると気付いた実の前で、彼はうっとりとしながら銃をなでた。
「なんで……こんな……」
実が絞り出した声は、呻くようにかすれていた。
「毒を持って毒を制す、ですよ。」
彼は口の端を吊り上げる。
その笑みに薄ら寒いものを感じて、実は思わず身震いした。
「魔力に恵まれた者が集うアズバドル王国。彼の国が使う圧倒的な魔法の力に、我々はまるで歯が立たない。生まれ持った力の差は、どうしようもありませんからね。……だからといって、我々が彼の国を越えられないわけではないのです。」
話しているうちに上機嫌になってきたのか、彼は愉快そうに笑い声を漏らす。
「生まれ持った力の差は、その後の技術で超越してしまえばいい。しかし、魔力の偉大さはどうしても無視できない。だから考えたのですよ。真っ向から対抗するのではなく、その力を利用してこちらの益にできたのなら、魔力を恐れる必要などなくなると。この国で進む機械技術の代表であるこの武器に何かしらできないかと独自に学びもしましたし、様々な場所へ密偵も出しました。その結果できあがったのが、これなのです。」
この銃には実の魔力を練り込んで錬成した金属が使われているのだと、彼は語った。
そのため、同じ手法で作られた弾丸にも実の魔力が含まれているのだという。
「これなら、魔力で構成される防御結界があったとしても、同じ魔力を持って相殺できます。いえ、個人の素質に左右される魔力ですから、より強い者の魔力を使えば打ち勝つことも可能でしょう。さらに、この武器にはこの部屋の術式を応用したものが施してあります。相手の攻撃を無効化し、なおかつ武器の威力へ変換させることもできるのです。この威力ですから、一瞬の隙すらあれば、心臓を撃ち抜くなんて簡単でしょう? まだ大型の武器に応用できていませんが、それが開発できれば、もっと大きな脅威となりえます。」
彼は笑う。
それはとても不気味で、気味悪くすら感じるほど。
学んだと言うだけあって、彼の知識は幅広かった。
どの国の歴史にも共通する〝鍵〟にまつわる話も詳しく知っていたし、魔力に関する知識も申し分なかった。
魔力を持って魔力に対抗する。
それならば、並を軽く超越するほどに強い魔力を持つという〝鍵〟を利用するのが効果的。
おそらく、彼はそう考えたのだろう。
そして、実際にこれだけの環境を作り上げてみせた。
「とはいえ、あなたを見つけられたのは幸運と言うべきですね。他国とは違って、アズバドルに〝鍵〟が生まれた場合は、ほぼ確実に殺されていますから。」
「………っ」
彼の言葉に、実の肩が震える。
確実に殺せたなんて、そんなの当たり前だ。
魔力に恵まれたアズバドルの人間は〝鍵〟がどれだけ異常な力を宿しているのかを感じ、それを明確に区別することができるのだから。
しかし、それができない他国ではこんなにも認識が違う。
諸刃の剣と分かっていながら、その危険性を軽んじて、己の望みのために平然と禁忌に手を伸ばす。
それは、あまりにも愚かで貪欲な姿で……
〝こんな腐敗した世界など―――〟
過去に告げられたレティルの言葉。
それがまた脳裏を埋め尽くしそうになって、実はぐっと拳を握り締める。
(違う。……違うんだ。)
否定したい。
否定したい。
―――否定しきれない……
ゆらり、と。
自分の中の魔力が揺らぐ。
それは、今までとは少し違う魔力の揺らぎ方だった。
自分のずっと奥深くにある根底で、自分ではない何かが這うような、そんなむず痒い感触。
(―――――まさか、封印が……?)
思い至った瞬間、実は彼が傍にいるにもかかわらず、頭を抱え込んでいた。
(違う……封印を解く気はないんだ…っ)
必死に、その何かに言い聞かせる。
この封印は、〝鍵〟の意志で簡単に解けてしまうという。
つまり〝鍵〟の意志が揺らげば、その分封印も不安定になるということ。
それがどういうことなのか、今初めて実感していた。
震える手は、紙よりも白い。
それはまるで、実の動揺の程を表しているかのようだった。
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