世界の十字路

時雨青葉

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第4章 接触

危ない土地

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 その後、尚希たちはなかば逃げるようにして談話室を後にした。


 いつの間にか相当な時間が経過していたらしく、外には夜のとばりが落ち始めている。


「ティル、大丈夫か?」


 ソファーに寝転がって両目を腕で覆っている拓也に、尚希はそっと問いかける。


 拓也の顔色は蒼白だ。
 呼吸だってひどく浅い。


 引き留めるジルフォードたちを振り切り、大慌てで部屋に戻ってきた理由の大半がこれだった。


 部屋に戻るまではなんとか気丈に振る舞っていた拓也だったが、今は起き上がるのもつらそうな状態である。


「………悪質すぎる……」


 ぽつりと、覇気のない声で拓也が呟く。


「知恵のそのとは比べ物にならない。あそこまで欲望しかないと、逆の意味ですげぇわ。」


「まあ、何も感じないオレでも異常だと思ったんだから、お前にはひとたまりもないよな。」


 拓也の頭をいたわるように掻き回しながら、尚希はワイリーから送られた招待状を見つめる。


 記憶にしていたとおり、招待状の封筒に落とされていたのは黒いろうだった。


『君は、こちら側の人間だ。』


 あれは、どういう意味なのだろうか。
 そんなことを考えながら、尚希は眉を寄せる。


 ワイリーは、招待状に落とす蝋の色で人を振り分けているのだろう。


 だとすると、わざわざ関係ない人間まで呼んでパーティーを開くのは、その後の密会を隠すため。


 権力者の間ではよくあることだ。


 では何故、ニューヴェルに届いた招待状は初めからこの色だったのか。


 自分もここに乗り込むにあたってワイリーのことを調べてきたが、彼はアイレン家のように懐へ入れる人間を慎重に選んでいるように思える。


 それなのに、今回のワイリーは〝鍵〟の存在をにおわせてまで、強引にニューヴェルの人間を釣り上げにきている。


 言うまでもなく、ワイリーはこの機会にどうやってでもニューヴェルを引き込む気だろう。


 ニューヴェルを引き込むメリットは数多くあれど、ワイリーの取り巻きたちが話していたことを加味すると、彼の目的は―――


「ここは……」
「え?」


 ふと拓也が口を開いたので、尚希は持っていた招待状をテーブルに放った。


「なんだ?」


 訊ねると、拓也は薄く唇を開いて先を続ける。


「ここは……静かすぎる。」
「静かすぎる?」


 首を傾げる尚希に、拓也は微かに頷いた。


「普通は、多少なりとも精霊たちのざわめきが聞こえるはずなんだ。人から姿を隠しているとはいえ、そこにいることには変わりないから。なのに……ここには、そのざわめきが全くない。この土地の精霊の力が弱っているのか、この土地が精霊から嫌われているのか、そこまでは分からないけど……」


「すごいな。オレには、全く分からないんだけど……」


「見える人間の中じゃ、精霊のざわめきが聞こえるのは大したことじゃないよ。おれは元々鼻がくから、その情報とあわせて少し詳しく言えるだけで。」


「じゃあ、お前がここまできつそうなのは、土地の影響もあるってことか?」


 その問いかけを、拓也はまた頷いて肯定。
 それで、ようやく納得できた。


 確かに拓也は人混みや嘘臭さで酔うことがあるが、それがこうして寝込むまでに至ったことは今までなかった。


 なので、何か別の要因が拓也に悪影響を及ぼしているのではないかと、少し気になっていたのだ。


「心配させてごめん。でも……おれのことは気にしないで、急いだ方がいいかもしれない。」


 拓也が腕を額からどける。


 くうを見つめる紺碧こんぺき色の瞳は、自分とは違う何かを見据みすえているようだった。


「ここ、危ねぇよ。このまま何もしなかったら、近い内に呪われた地になると思う。できるだけ早く離れた方がいい。それに、おれがこうなってるんだ。もし本当に実がここにいるんだとしたら最悪だ。おれよりもずっと感受性が高くて、精霊たちに近い実が今頃どうなってるのか……正直、あんま考えたくない。多分、実にはおれにも聞こえない声が聞こえてるはずだから……」


 拓也の目に、うれいを帯びた光がよぎる。


 それが、実のことを考えてのものであることは容易に分かった。
 精霊が見える者として、拓也にしか推し量れない苦しみがあるのだろう。


 尚希がかける言葉を探している間に、拓也はふとまぶたを下ろす。
 そして次に瞼が上がった時、拓也はその瞳に険しいものをたたえていた。


「誰か来る。」


 拓也が言ってから数秒と経たずに、ドアが小さくノックされた。

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