世界の十字路

時雨青葉

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第5章 思惑

確信

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 ワイリーの開幕宣言。
 それにざわめきを見せたのは、尚希と拓也以外の人々だった。


 ホーストンやジルフォードを含め、談話室で見かけたよりも多くの人々がいた。
 彼らは壁際に立ち並び、期待を込めた表情でワイリーを見ている。


 すでにここまでの人間を取り込んでいたとは。
 かなり長いこと準備をしてきたようだ。


「それでは、よいはこれまでの研究成果の報告をしましょう。今回皆さんにお見せしたいものはこちらです。」


 そう言ってワイリーが懐から取り出したのは、黒光りする小さな金属のかたまり


「……銃?」


 拓也がげんそうに呟く。


「ああ、多分な。でも……なんか変だ。」


 尚希は険しく眉を寄せる。


 ワイリーが持つ銃には、妙な力の歪みが見えた。
 あれは見間違えようもなく、魔力であろう。
 見た目そのままの武器とは思わない方がよさそうだ。


 不審げな尚希たちとは反対に、ギャラリーは興味津々といった様子だ。


「ラルス侯爵。それは、どういったものなのだ?」


 一人が代表して口を開いた。
 周囲の物珍しげな視線に、ワイリーは満足したように目を細める。


「とても有能ですよ。説明するよりも、実演した方が早いでしょう。」


 よからぬ笑みをたたえたワイリーは、自分のすぐ後ろにあった石のかたまりに向かって銃を構えた。


 そして、躊躇ためらいもなく引き金を引く。


 微かな銃声が一発。
 次の瞬間、けたたましい爆音がそう広くない部屋に響き渡る。


「―――っ!?」


 後に残るのは、耳鳴りでもしそうなほどの沈黙。
 尚希は目を見開いて、その光景を凝視する。


 石のかたまりが粉々になっていた。
 さっきの爆音は、石が爆発する音だったのだろう。


 石の塊を粉砕してもなお勢いが余っていた弾丸は床にめり込み、そこにクレーターを作り上げている。


 とても、手のひらに収まっている小さな銃の威力だとは思えない。


 先ほどまでわくわくとしていた人々も、その桁外れの威力に言葉をくしている。
 しかし、尚希が絶句しているのは彼らと同じ理由ではなかった。


「………っ」


 心臓が鷲掴わしづかみにされた気分だった。
 理性なんて吹き飛んでしまい、冷たくなった手がおののいて震えている。


 ワイリーが引き金を引いた瞬間に、ものすごい勢いで膨れ上がった魔力。


 呼吸も忘れるほどに圧倒的で、気を抜けば膝が笑ってしまいそうになるくらいに濃密な力。


 そして―――


 尚希は、拓也と顔を見合わせる。


 きっと、拓也も自分と同じものを感じたのだろう。
 その顔には、激しい動揺が表れていた。


「どうですか? 残念ながら製造方法はお教えできませんが、これまでの武器を遥かに上回る威力でしょう?」


 愉快そうに笑うワイリー。
 静まり返っていた室内で、彼の声だけが高らかに響く。


「これなら、いつ何が起こっても敵なしです。まだまだ発展途上の武器ですので、これから大型化にも目を向けていきたいと思っています。」


 もはや、ここはワイリーのどくだんじょうだった。


 そこにいる誰もがワイリーの開発した銃に目を奪われ、ワイリーの言葉に異を唱えることもできない。


 少しずつ漏れ聞こえる声は、すばらしいとワイリーを讃えている。


 ワイリーは、この場にいる人々の心を確実に捕らえていた。


「……ですが、この武器には一つだけ欠点がある。」
「欠点、といいますと?」


 当然の質問が飛ぶ。
 ワイリーは、銃を優しくなでた。


「この武器は、これを使用する者によって威力に差が出てしまうようです。これまでとは全く違うシステムを採用しているので、致し方ないことではあるのですがね。おそらく、これを一番上手く使いこなせるのは―――」


 銃を見つめるワイリーの視線が、するりと移動する。
 まっすぐにこちらに向けられたワイリーの瞳に、尚希は思わず肩を震わせた。


「そちらのお二人だと思いますよ。」


 それを聞いた人々の視線が、尚希と拓也に集中する。
 しかし、尚希たちはその視線にまともな反応を返せない。


 武器への衝撃から未だに抜け出せない尚希へ、ワイリーがゆっくりと近付いていく。
 そして、抵抗を忘れている尚希の手にそっと銃を握らせた。


「―――っ!!」


 冷たく固いものを手に包まされた瞬間、尚希はほぼ反射的に銃を投げ出しそうになった。


 しかし、尚希の手ごと銃を掴んだワイリーに、その抵抗ははばまれてしまう。


(なん……だ、これ……)


 尚希は、自分の手に収まる銃を見つめる。


 この感覚を、どう表現すればいいのだろうか。
 自分の魔力が奇妙な流れ方をし始めていた。


 自分の深いところから―――腕を伝って、銃へと。


「くっ…」


 あまりの不快さに唇を噛み締める。
 そんな尚希に―――


「あなたなら、これがどんなものか分かるでしょう? 皆さんに見せてあげてください。これの本当の力を。」


 ワイリーが静かにささやいた。
 そして、尚希の正面から横にずれて石のかたまりを指し示す。


「………」


 尚希は、改めて銃を見つめた。


 触れただけで分かる。
 これは、あっていいものではないと。


 ワイリーの言うとおり、これは扱う人間を選ぶのだろう。


 そして、これの威力を最大限に引き出せるのが自分たちだということも、きっと本当のことだ。


 尚希は一つ呼吸を置いて、銃を構えた。


 どうせ、ワイリーは断ることを許さない。
 ならば、こちらもとことん試させてもらうしかあるまい。


 これが自分の思うとおりの代物ならば、おそらくは―――


 石のかたまり見据みすえて、引き金を引く。


 とどろくいくつもの爆発音。


 とんでもない爆音と舞い上がった大量の砂煙に、その場の全員の目が潰される。


 そして、砂煙が落ち着いて室内が見えるようになった時、そこにあったはずの石の塊は全て跡形もなく消え去っていた。


「………」


 先ほどのものよりもずっと深い沈黙の中で、尚希は静かに銃を下ろす。


 別に、自分は何発も弾を撃ち込んだわけではない。
 撃ったのは、たった一発だけだ。


 他の人々には分からないだろうが、自分が撃った弾丸は散弾銃のように散り散りになり、それぞれが別の軌道で全ての石のかたまりを破壊したのだ。


 、当然の結果である。


「キース……」


 拓也が茫然と名を呼んでくる。
 そんな声を聞きながら、尚希は表情を険しくした。


 この銃が開発されるまでの経緯はともかく、一つだけ分かったことがある。




 ―――――実は、ここにいる。



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