世界の十字路

時雨青葉

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第5章 思惑

相席を求めてきたのは―――

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「おお。二人とも、よく来てくれたね。」


 ベトラは、相変わらずの人懐こい笑みで自分たちを迎え入れてくれた。


 ベトラの別邸は、一般の住宅が並ぶ道沿いに静かに建っていた。


 周囲の家との調和を保つような小ぢんまりとした外見の家は、その内装もやはり一般的な家を強く意識したものだった。


「いやはや…。じつはね、私は伯爵家の婿むこ養子なんだよ。実家は名ばかりの男爵家で、細々と商いを営んでいたんだ。当時は庶民とほぼ同じ生活をしていたもんで、あんまりにも広い家は落ち着かなくて困るよ。基本的には伯爵邸で過ごしているけれど、こっちの方が居心地はいいね。」


 尚希たちを自ら案内しながら、ベトラはそう笑った。


「オレも、こういう雰囲気は好きですよ。縁はありませんでしたけど。」
「あはは、そうだろうね。気に入ってもらえて嬉しいよ。」


 尚希の返答に愉快そうに声をあげて笑い、ベトラは「そういえば…」と話題を変えてきた。


「この間頼んでおいたことは、調べてもらえたかい?」
「ご心配なく。カルノを叩き起こして調べてもらいました。」
「ははは。彼も、君の人使いの荒さに苦労するね。ところで……」


 徐々に歩むスピードを落としてこちらを振り返ったベトラが、ちょいちょいと手招きをしてくる。


 人一人分の間を開けてついてきていた尚希と拓也はお互いに顔を見合わせながらも、ベトラに近寄った。


「ラルス侯爵のところで、何かあったのかい?」


 背の低い彼に合わせて自然と屈む姿勢となった二人に、ベトラは唐突にそんな質問を投げかけてきた。


「え? ……なんでですか?」


 まさかベトラの口からそんなことが飛び出すとは思っていなかったので、尚希はきょとんとしてそう問い返した。


「いや…。その、ね……」


 ベトラは露骨に戸惑ったような顔をして、横に視線をずらす。
 そして、視線のおもむくままに歩を進め、一つの扉の前で立ち止まる。
 当惑顔のまま尚希と拓也を交互に見つめたベトラは、おずおずと口を開いた。


「二人とも驚かないでほしいんだけど、今日の話し合いにどうしても相席したいという方がいらっしゃるんだ。」


「相席?」


 ベトラは尚希の言葉に頷くと、ドアを開いて尚希たちを中へとうながした。
 妙な緊張感を覚えつつ、おそるおそる中へと入った尚希たちは……


「………っ!?」


 小さく息を飲んで、棒立ちになってしまった。


 テーブルの上では、先に来ていた来訪者をもてなすために出された紅茶が湯気を立てている。


 その紅茶の向こうで、一人の青年が静かなエメラルドの目で尚希たちを見上げていた。


「昨日は失礼した。」
「い、いえ…っ」


 とっさに動きかけた体を、青年は片手一つで制した。


「いい。頭を下げる必要はない。僕は、ニルケーウォル伯爵と貴殿の商談を聞いてみたくて来たんだ。勉強の一環として有意義な話し合いを聞きたいから、僕のことは空気とでも思っていてくれ。」


「………は、はい……」


 そうは答えながらも、尚希は背中に嫌な汗がだらだらと流れていくのを感じていた。


 ベトラは驚くなと言ったが、それは無理な話。
 どうして、こんな所に一国の王子がいるんですか。


「まあ、とにかく席につきなさい。」


 ベトラが尚希の背を叩きながらソファーを示す。


 背中を優しく叩く手つきに〝驚くのも無理はない〟と言われているように感じたのは、多分気のせいではあるまい。


 ヤウレウスは黙ってこちらを見つめている。
 まるで何かを見定めるように、じっと。


 それが尚希としては居心地の悪いものに他ならなかったのだが、それに文句を言える立場ではなかったので、意識しないようにするしか手段はなかった。

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