世界の十字路

時雨青葉

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第6章 瓦解

感情が爆発する3回戦

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「……え?」


 一瞬何を言われたのか理解できず、尚希は目をまたたかせた。


「機械に精通した人材ならいくらでも用意できますが、今回導入した新システムに関する技術者は壊滅的に不足しているのです。あなた方が協力してくれるのなら、あれが実用的になるのもすぐだと思いまして。もちろん、それなりの報酬はお約束します。どうですか? あれに、興味があるのでしょう?」


 ワイリーは口の端をにやりと吊り上げて、尚希のことを探るような目つきで見やる。


(なるほど……)


 尚希の表情に、苦笑がにじむ。


 これは、そこそこ痛いところを突かれた。
 正直、そう思った。


 ワイリーは、この数日で自分が探究心旺盛であることを見抜いていたらしい。
 だからこそ、こういう切り口から自分を落とそうというわけだ。


 実が関わってさえいなければ、もしかしたら考えたかもしれないが……


 どう答えようか考えている最中だった尚希だが、それは隣で大きく響いた音にさえぎられてしまった。


「いい加減にしろ!!」
「おい…っ」


 思わぬ不意打ちに焦った尚希の制止の声は、突然馬車の壁を殴った拓也には届いていない。


 険しい目つきでワイリーを睨む拓也。
 さすがに、堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。


「散々人を振り回しておいて、協力しろだのなんだの……おれたちは、道具じゃないんだぞ!?」


「落ち着け!!」


 今にもワイリーに掴みかかりかねない拓也を、尚希はなんとか押さえつける。
 そんな拓也を前にしても、ワイリーは笑っていた。


「別に、道具としてなんて見ていませんよ。」
「―――っ!」
「ティル!!」


 尚希の強い叱咤に拓也が口をつぐんだのは、ほんの一瞬。
 その一瞬で尚希は二人の間に割って入り、我先にと口を開いた。


「ラルス侯爵、先に言っておきます。知恵のそのには、一般人には知られてはいけない術、素人には到底真似できない術が数多くあります。そして、私たちはそれらを外で使うことに制限をかけられています。そういう意味では、あなたに協力することは難しいでしょう。」


 これ以上拓也にしゃべらせないために、早口にまくし立てる。


 拓也はすでに我慢の限界を超えている。
 このままだと、逆上した勢いで魔法の行使に踏み込みかねない。


 魔法返しの指輪がある状態において、それはあまりにも危険な行為だった。


「それに、私は〝鍵〟の制御についてのお答えをいただいていません。それが一番の問題だと、以前にもお伝えしたはずです。」


「ええ、そうですね。だから、これからお連れしようと思って。」


「………え?」


 思いもよらないワイリーの言葉。
 それに、尚希どころか興奮していた拓也までもが口をあんぐりと開けて固まった。


「どうしたのです? それが、あなた方のご要望ではないのですか?」


 尚希が返す言葉もなく口ごもっていると、ワイリーはすぐにその先を続けた。


「協力させるならば、それなりの対価を。確かにそのとおりだと思いました。そして私には、あなたの〝鍵〟に対する危惧を払拭する方法が、現場を直接お見せすること以外には思いつきませんでしたので。」


 尚希はやはり、何も言い返すことができないでいた。


 何はともあれ、実に近付く大きな一歩となった。
 しかしだ。


「何を……たくらんでいるのですか?」


 思わず口をついて出た言葉は、尚希自身も意識しないうちに零れていたものだった。


 こんな簡単に彼が〝鍵〟への接触を許すとは思っていない。


 自分としては、これから話を誘導して実の居場所をそれとなく探り、拓也と協力して影でも送り込んで、実との接触を図るつもりでいた。


 少なくとも、こんな展開は想定に全くない。


 何か裏がある。
 そう思わずにはいられなかった。


たくらんでいるなんて心外ですね。それだけ、あなた方の力を高く買っているのですよ?」


 ゆるりと、気味悪く弧を描く唇。
 馬車の中の温度が、一気に下がった気がした。


 かたを飲む尚希。


 さりげなく隠したその右手から微かな光がまたたいたことに、誰も気付きはしない―――

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