628 / 714
第6章 瓦解
瀬戸際の最終決戦
しおりを挟むまさか、こんな形で再びここに訪れることになろうとは……
尚希は冷や汗でも浮かんできそうなほどの緊張感を抱きながら、到着地であるワイリーの屋敷を見上げる。
拓也は隣で、必死に不快感を噛み殺している。
服の袖で口元を覆い隠しているあたり、嗅覚に訴えてくるものがあるのだろう。
人並みを外れた感覚というのも、本人にとっては不便となるものばかりだ。
ささやかな同情を覚えながら、尚希は再度前を向く。
視線の先では、こちらを待つワイリーの姿。
彼がたたえる不気味な笑みが、この屋敷を堅固な牢へと変貌させる。
これはきっと罠だ。
しくじれば、この屋敷から出られなくなるだろう。
それでも、退くわけにはいかない。
これからニューヴェルを背負う人間としても、実の友人としても。
尚希は深く息を吸い込み、大きく一歩を踏み出した。
ワイリーの先導の下に辿り着いた部屋は、これまでワイリーと話してきた応接室なんかよりもずっと広い部屋だった。
綺麗に手入れされながらも、使い込まれた家具や生活感の漂う雰囲気。
普段からそれなりに使っている部屋なのだろう。
しかし、そんな生活感がある室内は今、異様な空気を醸していた。
尚希は、ちらりと周囲を見回す。
自衛のためなのか、室内には護衛と思わしき屈強な男たちが数人控えていた。
武装はしていないが、その身のこなしと鍛えられた肉体を見れば、武術に精通している人間であることが察せられる。
「どうぞ、こちらへ。」
声をかけられたので、尚希はワイリーへと目を戻す。
ワイリーの足元の床が、すっぽりと抜けている。
その中には階段が見えた。
(また地下か……)
この屋敷には、大量の地下室があるらしい。
おそらく、公にはできないような作業や話し合いは、全て地下室で行われていたのだろう。
ワイリーが先に床の向こうへと消えていく。
きっと、この先に実がいることはほぼ間違いない。
その証拠に―――
「微かに……実のにおいがする。」
拓也がぼそりを呟いた。
(やっぱり、この奥に……)
尚希は再度呼吸を整え、階段へと踏み出す。
尚希と拓也が階段を下り始めると、その後ろから男たちもぞろぞろとついてくる。
暗い階段の終着点から続く短い廊下の先に、そのドアはあった。
金属製の重量感たっぷりのドアは、周囲の暗さもあり、見る者の不安を煽ってくるようだ。
扉に鍵はかかっていないらしく、ワイリーがドアを押すと、ドアはゆっくりと開いていった。
その隙間から見える部屋の中は、やはり暗い。
ワイリーはまず自らが部屋の中へ入り、ドアに自分の背を預けることでそれを固定する。
そして、余裕をたたえた仕草でゆるりと室内の方へと手をやった。
「どうぞ。」
促され、しばしの逡巡の後、尚希は意を決してドアをくぐる。
「―――っ」
その瞬間に感じたものを、どう表現すればいいのか。
体が重力を失ったようにも思えれば、全身を四方八方から揺さぶられたように感じたかもしれない。
本能が激しく危険を訴えてくる。
ほとんど無意識に足を引いていた。
だが―――
「!?」
後ろから衝撃が襲い、引きかけた足は逆に部屋の奥へともつれて進む。
「………っ」
ぐっと、全身から力が抜け落ちる感覚がした。
膝が砕けそうになるのを、とっさに掴んだテーブルでなんとか支える。
何事かと視線を走らせれば、自分と同じように部屋に押し込まれたらしい拓也が、床にくずおれていくところだった。
そして、尚希たちを押し込んだ犯人である男たちが、最初から示し合わせていたような動きで拓也を取り囲む。
あっという間に片腕を背中へ捻り上げられた拓也の首筋に、鋭利な刃物があてがわれた。
「くっ…」
さらに力が抜けていく感覚に、尚希はたまらず呻き声を漏らす。
「いやはや、これはすばらしい。」
それまで無言で事の行く末を見守っていただけのワイリーが、わざとらしい拍手と共に口を開いたのはその時だ。
「あなた方もここで気を失わずにいられるとは。やはり、知恵の園の者は一味違いますね。」
「……どういうことだ?」
「どういうことも何も……私は〝鍵〟の力を制御するための要であるここへ、あなた方をお連れしただけですよ。」
「それはいい! あれはどういうことだって訊いてるんだ!!」
身動きを完全に封じられている拓也を指差して、尚希は怒気を孕んだ声で吼える。
この部屋に足を踏み入れて、三秒と経たずに理解した。
この感覚は、以前にあの銃を手にした時の感覚と同じだ。
きっと、ここがあの銃の核となる魔力を搾取する場所。
そして―――
尚希は、ワイリーの向こうへと目をやる。
部屋の奥にある、隙間なくカーテンが閉じられた天蓋つきのベッド。
きっと、あそこには―――
(なんてひどい環境だ……)
尚希は痛々しげに目元を歪め、唇を噛む。
そんな尚希の表情から、すでに様々な状況を見抜かれていることを察したのだろう。
ワイリーの表情から笑顔が消え、代わりに相手を凍てつかせるかのような冷たい光が瞳に宿った。
「あなたがもう少し操りやすければ、助かったんですがね。」
ぞっとするほどに低い声音に、尚希は一瞬怯みかけた。
人間を道具のように見下ろす冷酷な表情。
本格的に化けの皮が剥がれてきたらしい。
「あなたが悪いのですよ。素直に従ってくれればよかったものを。」
ワイリーは、ゆったりとした足取りでこちらに近付いてくる。
「侮っていましたよ。アイレン家と知恵の園の実力を。おかげで、不用意に近付けすぎてしまったではありませんか。」
まるで人形のように固まっている無表情から発せられる言葉は、どことなく機械じみている。
その中でもまっすぐに尚希の姿を反射している瞳だけは、並々ならぬ執着心を燃え上がらせていた。
一体、何が彼をここまで焚きつけるというのか。
隠すことなく嫌悪感を表情に出す尚希に向かって、ワイリーは言い放つ。
「あなたは知りすぎたのです。ここは、大人しく私に従ってもらいましょう。ティル君は、保険としてこちらで預かっておきます。あなたが従っている限り、危害を一切加えないことはお約束します。それとも、二人で仲良くここで朽ち果てる道を選びますか?」
「………っ」
奥歯を噛み締める尚希。
状況の優劣は明らかだ。
体を支えるのがやっとのこちらに対し、対策が万全なのか、ワイリーは平気そうに立っている。
自分が渾身の抵抗を見せたとしても、ワイリーたちは悠々とその抵抗を捻じ伏せるだろう。
「さて、どうします?」
選択を迫るワイリーの表情には、狂気が滲み出ていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる