世界の十字路

時雨青葉

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第2章 声

体調不良の原因

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 実はピタリと固まる。


 今、彼は何と言いました?


 思考を総動員させて、今得た情報と過去を照らし合わせる。
 その結果―――


「あー……そういうこと。」


 実は頭痛をこらえるように眉根を寄せ、額を押さえた。


 なるほど。
 原因不明の体のだるさの正体は、それだったのか。


 つまるところ、今の自分は双蓮そうれんの種の苗床なえどこになっていて、種が成長するためにガンガン魔力を吸われている状態というわけだ。


「だから言ったではありませんか。いてくれるだけでいいと。」
「いや、そうは言ってたけど……」


 クルオルの言葉に、実は渋い顔で目をつむる。


 確かに間違ってはいない。


 双蓮の種の苗床になっていればいいのであれば、確かにここにいるだけで彼らに協力していることになるのだろう。


 だが、色々と説明を省きすぎだ。


「はあぁ……また拓也に怒られる……」


 魔力なら、先日の事件でしこたま吸い取られたばかりである。
 こんな協力内容を聞けば、拓也は意地でも自分を行かせなかっただろう。
 自分だって、協力するかどうか考えた。


『お前は、人間以外には甘すぎる。』


 拓也の言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。


 まったくもってそのとおり。
 反論のしようがない。


 敵意がないからと承諾した自分の甘さを悔いると同時に、この後に待っているであろう拓也の説教を覚悟した。


「ああもう、なんかだまされた気分だ…。双蓮の種なんて、いつの間に……」


 ぼやくと、クルオルが微かに首を傾げた。


「心当たりがありませんか? ご自分で口にしたではありませんか。」
「はあ? そんなわけ―――」


 言いながら、脳内は高速で記憶をさかのぼっていく。


 食べ物……は、多分なしだ。


 食事にあんなものが紛れていたら、見た目では気付かずとも口に入れた時に異物感で分かるはず。


 ということは、飲み物だろうか?
 しかし、今まで飲んだのはせいぜい水くらいで……


「あああっ!!」


 実は途端に、大声を張り上げた。


「あの時のジュース!!」


 そうだ。
 唯一あるではないか。


 ここに来て初めて食事をした際に飲んだ、果実入りの飲み物。
 確か、あれを飲んだ時に冷たい何かが流れ込んできて、思い切りむせたのだった。


「ノルン様が実さんに種をとおっしゃったので、飲み物に含ませておいたのです。勧める前に飲んでくれて助かりました。」


「くっそー!! やられたぁっ!!」


 実はガリガリと髪の毛を掻き回した。


 確かに、あのジュースは紛れもない自分の意思で飲んだ。
 勧められてはいない。


 完全に自分の油断と甘さが招いた事態ではないか。


「どうやら、拓也の言うとおり、俺の警戒心は人間限定みたい……」


 最後にそう呟いて、実はがっくりと肩を落とす。


 この際、もう過ぎてしまったことは仕方ないとして……


「ってか、双蓮の花は月の力を養分にするんじゃなかったの? なんでわざわざ人間を使う必要があるのさ?」


 双蓮の種に魔力を込めた時、種は成長らしい反応を全く示さなかった。
 それなのに、人間に頼る理由とは何なのだろう。


「ふむ……簡単に言うなら肥料だな。普通に月の力を種に満たそうと思ったら、何年何十年かかるか分からない。だが、どうしてか人間を触媒にして月の力を取り込むと、ものの数日で種が花を咲かせると言われているのだ。私も実際にお前の体に種が宿るまでは半信半疑だったが、どうやら先祖の教えは本当のようだ。」


「はあ…?」


「ただ、人間なら誰でもいいというわけではなく、月との相性がいい者でないといけないらしくてな。クルオルに適性を持つ人間を急いで探させていたところ、白羽の矢が立ったのがお前だったというわけだ。」


「………」


 つまり、ことごとくタイミングと運が悪かったということか。


「じゃあ、俺にあんたの声が聞こえるのは……」


「それは、お前の中に双蓮の種が宿っているからだろうな。実質的に、私の体はお前の中で作られているようなものだし。それに、お前に渡したその耳飾りには、私の意識と残りわずかな月の力が宿っているのだ。」


「なるほど。そういうことね。」


 ひとまず、大方の流れは見えた。


 とはいえ、予想していたこととほとんど同じだったので、驚きといえば自分が双蓮の種の苗床なえどこになっていたことくらいだけども。


「―――で、犯人は分かってんの?」


 再び声の調子を落とした実は、話題を次へと転じさせる。


 肝心の問題はそこだ。


 今回無事にノルンの体が再生し、最終的に事なきを得たとしても、犯人が捕まらずにまた同じことが起こっては困る。


 こちらとしても、何度も何度も手を貸すことはできないのだから。


「もちろん。襲われた私自身がちゃんと見ている。」
「誰なの?」


 重ねて訊ねると、ノルンは急に黙り込んでしまった。


「……何? それは言いたくないわけ?」
「いや、そういうわけではなく……」


 実は、いぶかしげに顔をしかめる。


 これまでよどみなく話し続けていたのに、ここで突然の沈黙。


 犯人は、ノルンにとって言葉にすることが躊躇ためらわれる人物なのだろうか。


 そんなことを考えながらノルンの言葉を待っていると、ふと重たい吐息の音が聞こえた。


「犯人は分かっている。……ただ、私がそれを認めなくないだけなのだ。事実は変わらないのに、な。」


 言葉に込められた心情を表すように、ノルンの声は寂しさと切なさで揺れていた。


 そんなノルンの声を聞きながらクルオルに目をやると、クルオルも沈痛そうな面持ちで目を閉じている。


 再び訪れた長い沈黙の末、ノルンが口を開く。




「私を襲ったのは―――」



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