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第5章 揺れる心と揺らがぬ決意
蕾へ
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時系列に沿ってリーネに関する話をすると、拓也の顔が面白いほどに青ざめていくのが見て取れた。
「おい……それって、大丈夫なのか?」
聞き終えた拓也は、口元をひきつらせている。
「ごめん……大丈夫とは、保証できない。」
渋面を作り、実は拓也にそう答えた。
『パパー!!』
リーネが部屋に入るなり口にした、第一声である。
まさかリーネがここを訪ねてきて、さらにそんな爆弾発言をぶちかますとは思ってもいなかったので、かなり焦ったのを覚えている。
内緒だとノルンが言いはしたものの、所詮はまだまだ幼い子供。
内緒という言葉の意味をきちんと知っているはずもない。
実は、頭痛をこらえるように額に片手をやった。
「さすがに俺も計算外。十中八九、お母さんにはしゃべってると思う。」
拓也の危惧を正確に読み取っていた実は、言い繕うことなく素直に推測を述べた。
子供だということに加えて、この性格のリーネだ。
正直なところ、どれだけの人にこのことを話しているのかは皆目検討もつかない。
無邪気な子供の発言なので、そこまで真剣に取り合う大人はいないだろう。
しかし、嘘のない子供の発言だからこそ、敵の耳に入ると面倒でもある。
ちらりとリーネを見ると、リーネはまったく状況を理解していない風できょとんとしている。
まあ、自分たちとは違って、これがこの年齢相応の子供の姿なのだろう。
実は苦笑いするしかない。
「どうしようもないよね。こんな小さい子の口を塞ぐなんてできないし、だったらこっちで面倒見てた方がいいかなって。」
幸いにも、リーネはこの懐きようだ。
こちらが帰れと言ったところで帰らないだろう。
こちらが見ていない所でリーネに好き勝手にしゃべられるより、結界を張ったこの部屋で遊び相手をしつつ、リーネを監視するのが一番だと思えた。
「確かに……そうするしかなさそうだな。」
拓也も困ったように息を吐き出す。
その時―――
「拓也さん、ここですか?」
さらりと入り口の布が揺れて、クルオルが顔を出した。
クルオルは実の傍にいるリーネに軽く目を見開いたが、特に何を言うでもなく拓也へと視線を戻す。
「お待たせしました。そろそろ出発できますが、もう少し休んでいかれますか?」
「いや、十分休んだから行くよ。」
拓也は立ち上がると、そそくさと部屋を出ていってしまう。
そんな拓也を見送った実と尚希は、なんとも言えない複雑な表情をするしかなかった。
「十分休んだって……」
「全然休んでないな。」
実の呟きを、尚希が引き継ぐ。
ここにいた短い間、拓也は休むどころか座ってすらいなかった。
昨日からずっとあんな調子なので、少しばかり気になる実である。
「まあ、無理して詰め込んでるってわけではなさそうなんですけどね……」
クルオルの元へと向かう拓也の表情は、至って普段通りだった。
気にはなるが、他でもない拓也の意志による行動なので、止める必要はないだろう。
そんなことを考えながら、実はずるずるとソファーに体を埋めて深い息を吐く。
「まったく…。拓也にはああ言ってたけど、本当は結構しんどいんだろ?」
状況を察した尚希が、半目で呆れたように言ってくる。
「別に、嘘をついたつもりはないんですけどね。」
実は疲労をまとった笑みを浮かべる。
「なんか、今日は体が一段と重いんですよ。それと、すっごく眠いです。」
「それは、おそらく蕾に入ったな。」
ふと別の声が答えを寄越してきたので、実は片眉を上げる。
「蕾?」
訊き返すと、脳裏でノルンが頷くような気配がした。
「双蓮の花は、蕾の時に一番力を蓄える。体の負担が増しているということは、それだけ花が育っている証拠だ。……もう少しだ。」
「もう少し、ね……」
ノルンの言葉を繰り返して呟くと、それを聞いた尚希が体を強張らせるのが分かった。
尚希が抱いているであろう危機感には自分も同意なので、実も表情を消して床をじっと睨む。
あと少しで、双蓮の花は育ちきる。
それはノルンの復活が近いということであり、敵にとってはそれだけ追い詰められた状況だということ。
焦った相手がどんな手段に出てくるのか、それは分からないが……
「ここまできたんだ。最後まで守ってやるから安心しろって。」
自分たちと同じように沈黙していたノルンに言ってやる。
すると、突然―――
「ねーねー。パパとお話ししてるのー?」
まったく空気を読んでいないリーネが、実の胸元を掴んで揺らした。
「うん、そうだよ。」
嘘をついても仕方ないので正直に認めると、リーネは可愛らしく頬を膨らませてさらに服を揺さぶってくる。
「いいなー。リーネも、パパとお話ししたいのにー。」
「ごめんね。今は、俺が代わりにお話しすることしかできないんだよ。」
「やだー!! 実お兄ちゃんとお話しするのも好きだけど、パパとお話しする方がもっと好きなんだもん!!」
「それは、パパが帰ってきたらパパに文句を言って。」
「だって、パパここにいるもん!」
「いや、それはそうかもしれないけど……」
「パパー!!」
「ああもう、ノルン! 今は許すから、リーネの相手をしてやってよぉ!!」
これでは身が持たない。
珍しく眉を下げて叫ぶ実に、それまで必死に笑いを噛み殺していた尚希がたまらず声をあげてしまう。
そんな尚希をじろりと睨んだ実は、次に溜め息をついた。
「尚希さん。」
「ご、ごめん……な、何?」
笑い声の合間に、尚希はなんとかといった様子でこちらの呼びかけに答える。
「一つ、頼み事があるんです。」
実は、静かにそう切り出した。
「おい……それって、大丈夫なのか?」
聞き終えた拓也は、口元をひきつらせている。
「ごめん……大丈夫とは、保証できない。」
渋面を作り、実は拓也にそう答えた。
『パパー!!』
リーネが部屋に入るなり口にした、第一声である。
まさかリーネがここを訪ねてきて、さらにそんな爆弾発言をぶちかますとは思ってもいなかったので、かなり焦ったのを覚えている。
内緒だとノルンが言いはしたものの、所詮はまだまだ幼い子供。
内緒という言葉の意味をきちんと知っているはずもない。
実は、頭痛をこらえるように額に片手をやった。
「さすがに俺も計算外。十中八九、お母さんにはしゃべってると思う。」
拓也の危惧を正確に読み取っていた実は、言い繕うことなく素直に推測を述べた。
子供だということに加えて、この性格のリーネだ。
正直なところ、どれだけの人にこのことを話しているのかは皆目検討もつかない。
無邪気な子供の発言なので、そこまで真剣に取り合う大人はいないだろう。
しかし、嘘のない子供の発言だからこそ、敵の耳に入ると面倒でもある。
ちらりとリーネを見ると、リーネはまったく状況を理解していない風できょとんとしている。
まあ、自分たちとは違って、これがこの年齢相応の子供の姿なのだろう。
実は苦笑いするしかない。
「どうしようもないよね。こんな小さい子の口を塞ぐなんてできないし、だったらこっちで面倒見てた方がいいかなって。」
幸いにも、リーネはこの懐きようだ。
こちらが帰れと言ったところで帰らないだろう。
こちらが見ていない所でリーネに好き勝手にしゃべられるより、結界を張ったこの部屋で遊び相手をしつつ、リーネを監視するのが一番だと思えた。
「確かに……そうするしかなさそうだな。」
拓也も困ったように息を吐き出す。
その時―――
「拓也さん、ここですか?」
さらりと入り口の布が揺れて、クルオルが顔を出した。
クルオルは実の傍にいるリーネに軽く目を見開いたが、特に何を言うでもなく拓也へと視線を戻す。
「お待たせしました。そろそろ出発できますが、もう少し休んでいかれますか?」
「いや、十分休んだから行くよ。」
拓也は立ち上がると、そそくさと部屋を出ていってしまう。
そんな拓也を見送った実と尚希は、なんとも言えない複雑な表情をするしかなかった。
「十分休んだって……」
「全然休んでないな。」
実の呟きを、尚希が引き継ぐ。
ここにいた短い間、拓也は休むどころか座ってすらいなかった。
昨日からずっとあんな調子なので、少しばかり気になる実である。
「まあ、無理して詰め込んでるってわけではなさそうなんですけどね……」
クルオルの元へと向かう拓也の表情は、至って普段通りだった。
気にはなるが、他でもない拓也の意志による行動なので、止める必要はないだろう。
そんなことを考えながら、実はずるずるとソファーに体を埋めて深い息を吐く。
「まったく…。拓也にはああ言ってたけど、本当は結構しんどいんだろ?」
状況を察した尚希が、半目で呆れたように言ってくる。
「別に、嘘をついたつもりはないんですけどね。」
実は疲労をまとった笑みを浮かべる。
「なんか、今日は体が一段と重いんですよ。それと、すっごく眠いです。」
「それは、おそらく蕾に入ったな。」
ふと別の声が答えを寄越してきたので、実は片眉を上げる。
「蕾?」
訊き返すと、脳裏でノルンが頷くような気配がした。
「双蓮の花は、蕾の時に一番力を蓄える。体の負担が増しているということは、それだけ花が育っている証拠だ。……もう少しだ。」
「もう少し、ね……」
ノルンの言葉を繰り返して呟くと、それを聞いた尚希が体を強張らせるのが分かった。
尚希が抱いているであろう危機感には自分も同意なので、実も表情を消して床をじっと睨む。
あと少しで、双蓮の花は育ちきる。
それはノルンの復活が近いということであり、敵にとってはそれだけ追い詰められた状況だということ。
焦った相手がどんな手段に出てくるのか、それは分からないが……
「ここまできたんだ。最後まで守ってやるから安心しろって。」
自分たちと同じように沈黙していたノルンに言ってやる。
すると、突然―――
「ねーねー。パパとお話ししてるのー?」
まったく空気を読んでいないリーネが、実の胸元を掴んで揺らした。
「うん、そうだよ。」
嘘をついても仕方ないので正直に認めると、リーネは可愛らしく頬を膨らませてさらに服を揺さぶってくる。
「いいなー。リーネも、パパとお話ししたいのにー。」
「ごめんね。今は、俺が代わりにお話しすることしかできないんだよ。」
「やだー!! 実お兄ちゃんとお話しするのも好きだけど、パパとお話しする方がもっと好きなんだもん!!」
「それは、パパが帰ってきたらパパに文句を言って。」
「だって、パパここにいるもん!」
「いや、それはそうかもしれないけど……」
「パパー!!」
「ああもう、ノルン! 今は許すから、リーネの相手をしてやってよぉ!!」
これでは身が持たない。
珍しく眉を下げて叫ぶ実に、それまで必死に笑いを噛み殺していた尚希がたまらず声をあげてしまう。
そんな尚希をじろりと睨んだ実は、次に溜め息をついた。
「尚希さん。」
「ご、ごめん……な、何?」
笑い声の合間に、尚希はなんとかといった様子でこちらの呼びかけに答える。
「一つ、頼み事があるんです。」
実は、静かにそう切り出した。
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