快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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忌まわしき過去

初仕事

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翌日、工務店へ面接に行った。
事務所内に見るからに親方、という恰幅のいい中年が対応してくれた。

「働きたいってのは分かった。だけどウチは楽な仕事じゃねえぞ。力仕事も必要になるし、現場仕事だから朝は早い。それでも大丈夫か?」

オレは働いて金を稼いで独立するんだ。

この際、仕事がキツいだの何だの言ってる場合ではない。

「はい、大丈夫です。とにかく一日でも早く独り立ちしたいので」

親方らしき人はオレの目をじっとみながらコイツは使えそうなのかどうか観察しているみたいだ。

「よし!じゃ、来れるとしたらいつから来れるんだ?」

「はい、今住んでる所から出来れば寮に移りたいんです。その荷物を移し終えたらその日からでもお願いします」

「大体どのくらいかかりそうなんだ?」

「はい、1日あれば十分に間に合います」

オレが持っていく荷物なんて服とPCぐらいだ。
「よし、じゃ明日その荷物持ってこい。部屋はその時に案内するからな」

「はい、わかりました」

「おい、給料の話しはしないけど、いくらもらいたいとかそういうのはないのか?」

「いえ、働いて住む所があれば十分です」

まだ働いてもいないのに、いくら欲しい等とは言えない。

「そうか。最初は見習いだから1日8000円。
そっから寮の住まいとか食費を引いて7000円ぐらいかな。頑張ればもっと稼げるから1日でも早く仕事覚えるようにしろよ」

この金額はこういう業界では妥当なのだろうか。


「はい、ありがとうございます」

この工務店で働く事が決まった。

その日のうちに荷物をまとめ、母には勤務先の場所を教えた。

こっちから連絡をするつもりはないが。

そして寮に荷物を移した。寮って、食堂があって各部屋に仕切られているというイメージをしていたが、一部屋四畳半のボロいアパートだった。

備え付けのテレビと冷蔵庫、押し入れには布団があるだけの質素な部屋だった。

とにかく、独立の第一歩だ。
どんな仕事をするんだろうか。

まぁ、やるしかない。
オレは疲れて早めに寝た。

翌朝ドンドン!と荒々しくドアを叩く音で目が覚めた。一体何だろうと思ってドアを開けると、頭にハチマキを巻いて髭をたくわえた体格の良い男が立っていた。

「おい、いつまで寝てんだ!はやく支度しろ!」

時計を見ると6時前だった。

ヤバい、寝坊した!
オレは眠い目を擦りながら、支給された作業着に着替えた。

アパートの目の前には白いワゴン車が停まっていた。

後部のスライドドアを開けると、むさ苦しい男たちが数人座っていた。

「あ、あの初めまして古賀です。よろしくお願いいたします」

挨拶したが、皆オレの顔をジロッと見るだけで何も言わない。

しかも、タバコの煙が充満した車内はオレにとってはかなり辛かった。

現場は都内近郊の高層マンションで、6階まで出来上がっている。

オレは職長と呼ばれている、ひげ面の中年のオヤジに
「ここは大手のゼネコンだから入るときに安全教育といって、簡単な講習をしなきゃなんねーんだ。しかもお前は15才で、本来は18才以上じゃなきゃダメなんだ。だから記入欄には必ず18才と書いとけよ」

そう言われ、オレは詰所と言う作業員の休憩所で、現場監督に書類を渡され、名前や住所、血液型等を記入した。年齢はもちろん18と書いた。
簡単な説明を受け、他のメンバーと合流した。
だが、右も左もわからないオレは何をすればいいのかわからず、職長に
「まず何をすればいいのですか?」
と聞いた。

すると、コンパネという、合板がコンクリートの型枠用の板として使われている。

それを持って、上まで運ぶと言う。

板といえども、大きくそれなりに重いので力仕事が初めてのオレにはかなりの重労働だった。

「よし、そのコンパネをそこへ置いとけ」

コンパネを上に運ぶ作業を繰り返した。既に汗だくだ。

見習いだし、雑用を強いられる事は分かっていた。だが「墨ツボ持ってこい」と言われ、何が墨ツボなのかわからずにウロウロしていると
「バカヤロー、墨ツボも知らねえのか、目の前にあるだろ!」と怒鳴られた。

墨ツボとは、 壺の部分には墨を含んだ綿が入っている。糸車に巻き取られている糸をぴんと張り、糸の先についたピンを材木に刺す。 つまりそのラインにそってコンパネを鉄筋を組んだところに張り付け、コンクリートを流し込むらしい。

オレは大工の道具といったら、ハンマーと釘とカンナしか知らない。

イメージ的には、釘を打ったり、かんなで材木を削るものだと思っていた。

想像とは違う作業で、挙句にあれ持ってこい、これ持ってこい等と色んな連中に指図され、息つく暇も無い。

しかも名前じゃなく、「おい!」とか「よお!」とか呼ばれるから最初は誰の事を言ってるのか理解出来なかった。

全てが分からぬまま、ただ言いなりに雑用に専念した。
休憩時間は皆、詰所に入って、自販機のジュースやコーヒーを飲みながら一服している。
モクモクとタバコの煙が充満していた。
オレは隅っこでボーッと突っ立っていた。

至る場所で禁煙が当たり前のこの時代に、ダボダボのニッカポッカを履いて薄汚れた男だらけの連中がくわえタバコで雑談をしている。

話のほとんどは、ギャンブルか女の話しだった。

オレはまだ誰とも話をしていないので、スマホを見ていた。

休憩時間が終わり、コンパネを運ぶ作業を続けた。

今までこんなに汗をかいた事は無い。
腕と脚がパンパンだ。

オレはこの仕事をやっていけるのだろうか?

ほとんどの連中は30代から上で、オレと年齢の近いヤツはいない。

こっちから自己紹介したのにも関わらず、誰が何ていう名前なのかも分からない。

何なんだ一体。
せめてオレは○○だ、ヨロシクな、ぐらいの事を言ってくれるのかと思ったのだが、それすらも教えてくれない。

どうせあのガキは続かないだろう、みたいな感じで思われているのか。

オレの考えが甘かったのか、もう少し歓迎してくれるのかと期待したのだが、オレの存在すら気にかけていないようだ。

午前中はひたすらコンパネを運ぶ作業をしていた。
もう限界だ、そう思った時、昼のチャイムが鳴った。

昼飯は現場に出入りする業者の仕出し弁当を食べた。
力仕事をして空腹だったせいか、あっという間に弁当を平らげた。
昼飯を食い終わると、昼寝をする者、花札に興じる者と、各々が休憩時間を過ごしていた。

オレはその中に入っていけず、ずっとスマホを弄っていた。

こんな調子で午後の仕事はやっていけるのか、不安だ。

午後の作業が始まった。
オレは午前中と同じように雑用に追われていた。
おい、釘持って来い、バール持って来い、と相変わらず名前で呼ばれない。

何なんだ、コイツらは。

結局名前を呼ばれず、人の名前すら知らずにその日の作業は終了した。

オレは汚れた作業着をバタバタと叩き、手を洗ってワゴン車に乗り込んだ。

向こうから話しかけてくれないのなら、こっちから話しかければいいかとも思ったが、車内は寝ている者がほとんどだった。

帰りは渋滞に巻き込まれ、到着は19時を過ぎていた。

寮の近くにある事務所の1Fが食堂で、オレは生姜焼き定食を食べた。
腹が減っていたので、ご飯をお代わりした。

ようやく1日が終わった。明日も同じ事をやるのだろうか?
コンパネを運ぶのはキツい。

寮に着くと風呂にも入らず、そのまま寝てしまった。

翌朝、またドアをドンドンと叩く音で起こされた。
時計は朝の5時50分、はぁーい、と返事をしてドアを開けると、昨日と同じ髭づらのヤツが立っていた。

「おい、いつまで寝てんだよ!毎日起こしに行かないと起きれないのか!」

また朝っぱらから怒鳴られた。コイツは何て名前だ?こっちは自己紹介したんだから名前ぐらい教えてくれてもいいだろ。


僅か数ヶ月だった高校生活でも、教室でオレはあまり同級生と会話をしなかったが、挨拶をすれば必ず返事をしてくれた。

なのにこの連中は大人のクセにこっちが挨拶してもろくに返事をしない。
オレは後部座席に座り、出発するのを待っていた。
すると痩せ型の神経質そうに眉間にシワをよせたオヤジが
「おい、ここはオレが座るんだよ!お前はここへ座れ!」
と最後部座席に押し入られた。

誰がどこに座ろうが関係ないだろ!
まだ2日目だが、長く勤まらないな、と感じた。

車は高速に乗ってものすごい勢いでビュンビュンと他の車を追い抜いていく。

運転が乱暴で寝たくても、寝られない。
現場には8時ちょっと前に着いた。

各業者の連中とともにラジオ体操をして朝礼を行う。

安全確認よし!と点呼をして、朝礼が終わり、ようやく仕事がスタートする。

今日は何をすればいいのだろうか?

他の人の作業を見ていると
「おい、早くコンパネ持ってこい!何ボサーっとしてんだ!」とまた怒鳴られ、昨日と同じく上と下を行ったり来たりの繰り返しだ。

合間にはこれ持ってこい、あれ持ってこい、ちょっとこれ手伝え等と、何人ものヤツらが1度に言ってくるから何から手をつければいいのやら全くわからない。

で、ちょっとでも突っ立っているとまた怒鳴られ、雑用の繰り返しだ。
おまけにまだ名前で呼ばれていない。

段々と腹が立ってきた。テメーらこそ名を名乗れ!
挨拶もろくに出来ない大人のヤツらに人間以下の扱いを受けているのが我慢出来なかった。

昨日と同じ繰り返しの作業で早くも汗だくだ。おまけに昨日は風呂にも入ってないから余計に汗臭い。

腕と足がパンパンになり、何とか気力でコンパネを抱え上の階へ上っていく。

「おい、早くしろよ、若ぇくせに体力がねえヤツだな、こんなもんとっとと運べよ!」

もうダメだ、我慢の限界だ!
オレはソイツの背後に立ち、怒りをぶちまけた。

「こっちは自己紹介までしてるんすよ!それなのに名前も教えてくれない!挨拶しても挨拶しない、それがアンタらのやり方なのかっ!」

ケンカになっても構わない!文句を言った。

すると、ひげ面のオヤジは

「あぁ?新入りのクセに仕事もしねーで生意気な事言ってんじゃねぇぞ、こらぁ!」

オレに掴みかかろうとした。

オレはケンカは得意じゃない。だが、オレにはちゃんとした名前があるんだ。
挨拶もまともに出来ない中年オヤジが何ほざいてんだ!
オレは持っていたコンパネを投げつけた。

オヤジは避けたが、オレはそいつのヘルメットを掴み、鉄筋で格子状に組み立てられた壁に叩きつけた。

オヤジは怯んだ。だがオレは殴らなきゃ気が済まない。

すると現場監督と職長が間に入って止めようとした。

「お前、なにやってんだ!」

「あぁ?テメーらこそ、新入りだからってバカにしてんのか、コラっ!」

職長にも食ってかかった。

現場監督は「止めろ!これ以上ケンカすると、この現場から出ていってもらうぞ!」

と言われ、オレはヘルメットを叩きつけた。

「挨拶すらろくに出来ねえヤツの言うことなんて聞けるかっ!辞めてやる!」

作業着のまま現場を出ていった。

オレはもうこんな所で仕事をしたくない、こっちは右も左も分からない新入りだ。
それなのに、あんな接し方は無いだろう。

確かにカッとなったオレも悪い。

だが、あんなヤツらから仕事を教わろうだなんて気持ちはない。

あまりにも人をバカにしている。


オレは作業着のまま電車に乗って寮に着くと、私服に着替え、荷物をまとめて事務所で部屋のカギを机にバン!と置いた。

「何なんだ、アイツらは!オレは名前も呼ばれない人間以下なのか、おい!
あんな大人の連中なんかと一緒に仕事が出来るかっ!」

と親方に文句を言って事務所を出た。

親方はオレのあまりの剣幕に何も言えずにたじろいだ。

独り立ちしようと思って始めた仕事だが、たった2日で終わった。

後悔はしてないが、こんな仕事を選んでしまった事を後悔した。

オレはインターネットカフェで一晩過ごし、PCの求人サイトでまた新たな仕事を探した。
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