快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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忌まわしき過去

精神力

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達也の訃報を受けて、亮輔は会社へ向かった。

警察によると、通勤時の混雑という事もあり、何かのはずみで転落し、急行列車に轢かれ、事故死として処理された。

亮輔は未成年の為、葬儀は会社が代表して取り仕切った。

達也の亡骸は線路内に飛び散った肉片を救急隊及びレスキュー隊がかき集め、荼毘に付された。

遺骨は弟である亮輔が受け取った。

この手で達也を地獄に突き落とすという目的は叶わなかった。

そのせいか、達也が亡くなっても、眉一つ動かさなかった。
むしろ、外道に相応しい最期だ、と。

例えこれが事故死じゃなく、殺人だとしても、当然の報いと思った。

願わくは、この手で達也の人生を終わらせたかった。
それが出来なかったのが心残りだ。

葬儀の帰り、亮輔は沢渡に車で家まで送ってもらった。
後部座席で達也の遺骨を抱え、亮輔の住むアパートへ向かった。

その間、二人は無言で、亮輔は何かを話そうとしたが、何を話せばいいのか思いつかないまま、アパートに着いた。

「沢渡さんありがとうございます。もし良かったら中へ入ってもらえませんか?少しお話したい事もありますから」

「そうか。それじゃお邪魔させてもらうよ」

二人は以前、何度か顔を合わせたが、挨拶程度しか交わさなかった。
しかし、達也の事でどうしても聞きたい事があった。

沢渡もその事だと思い、部屋に入った。

部屋の中は、棚の上に鴨志田の遺骨が入った骨壺が置かれていた。
亮輔は鴨志田と達也の2つの遺骨を部屋に置くことになる。

「何もないですけど」

亮輔はお茶を出した。

「あぁ、すまないね。
亮輔くん…君がお兄さんと鴨志田さんの遺骨を持つ事になるんだが、まだ若いのにこんな事を押し付けて申し訳ない」

15才の亮輔が鴨志田と達也の遺骨と共に暮らす事が気の毒に思えた。

沢渡は、亮輔が小学生の頃からの顔見知りで、元気よく挨拶していた。

これといった会話をする事も無かったが、沢渡は屈託の無い、亮輔の笑顔を思い出していた。

それが僅か数年で、ガラリと風貌が変わり、精悍な顔つきになり、同じ年齢の高校生に比べても、大人びた少年に成長していった。



「ところで沢渡さん」

亮輔は姿勢を正した状態で単刀直入に聞いた。

「兄は本当に事故死だったのでしょうか?いつも車に乗っていた兄が電車に乗るなんて、変だなとは思っているんですが」

「亮輔くんが不思議がるのも無理はない。確かにお兄さんはいつも車で移動していた。
だが、知っての通り、お兄さんはそれまで警察署に勾留されていた。
私が弁護士を手配して、お兄さんは釈放された。
本来なら、迎えの車が来るはずが、私を含め、他の連中も外に出て仕事をしていたので、迎えに行くことが出来なかった。
だからお兄さんは電車に乗って会社に向かおうとした矢先にこの様な事件になってしまった。
亮輔くんが疑問に思うのは当然だが、これが事件の真相なんだよ」

「そうでしたか…」

「亮輔くん」

「はい」

「君は強くなったな。本来なら君はまだ高校1年生で、部活をしたり、友達と放課後に遊びに行ったりしてるはずだった。
それがこの数ヵ月で色々な災難が君に降りかかった。
なのに君はそれを乗り越えようとしている。
私も君と同じぐらいの年の子供がいるが、比べものにならないぐらい、君は大人になっている」

亮輔はこの数ヵ月で様々な出来事が起こった。
父親が出張先で命を絶たれ、千尋の失踪、鴨志田の死、そして達也の無惨な最期…

普通ならば精神が崩壊してもおかしくない。
大人でも、こんなに立て続けに不幸が起こって天涯孤独の身になれば生きる気力すら失い、絶望感が押し寄せ、自ら死を選ぶ事すらある。


亮輔はそれを受け止め、生活の為に働いて、夜は学校に通う。
並外れた精神力じゃなきゃ到底出来ない。

「そんな事はないです…それより先生…鴨志田さんのメールの内容は本当なのですか?」

聞きたい事は山ほどある。

沢渡は腕を組み、目を閉じながら、亮輔の質問を聞いた。

「残念ながら、その真相は分からない。
何せ、その鍵を握っていた二人はこうなってしまったからね」

並んである遺骨を見て答えた。

「そうですよね、沢渡さんが分かるはずないですよね。先生も兄も、この世にいないですから」

「申し訳ない…何分、当の本人達が亡くなった今、真相は闇の中だから」

「沢渡さん、こんな事ばかり聞いて申し訳ありません」

頭を深々と下げた。

「いや、いいんだ。亮輔くんが聞きたがるのも無理はない」

「でも…」

「ん?」

「もし、例えばの話ですが」

亮輔は前置きをして沢渡に話を続けた。

「兄がもし、事故じゃなく、誰かの手によって殺されたとしても、僕は当然だと思ってます。残念なのは、僕がこの手で兄を叩き潰す事が出来なかった。
兄は人を欺き、蹴落とし、人の命を弄ぶ最低な人間です。
いずれこの手で地獄へ落としてやりたかった。
これが今の正直な気持ちです」

亮輔は達也に対する憎しみを包み隠さず話した。

「亮輔くん、君は決して道を誤るような人生だけは送らないで欲しい。
お兄さんを憎む気持ちは分かる。
だが目には目を、という気持ちだけは持たないで欲しい」

亮輔に、全うな人生を歩んで欲しいと諭した。

それを聞いてふと感じたのは、達也は沢渡の手によって消されたのではないかと。

しかし、それが本当だとしても、沢渡が達也の傍若無人な振る舞いに対して、鉄槌を食らわせ
た沢渡は間違いではないと思った。
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